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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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60話


 ソシュール家から自邸には帰らずに、ティアナはそのままロートレック家の屋敷へと向かった。

 約束もなしに押し掛けるなど正直淑女の振る舞いではない。だがどうしても今直ぐに彼に会って話がしたかった。

 

 道中馬車の中でレンブラントからの手紙を一つ一つ丁寧に開封して目を通した。内容は何時もの内容から徐々に返事のないティアナに対する不安が読み取れるものへと変化していく。


『仕事が立て込んでいて中々会いに行けないんだ。時間が出来たらお茶でもしよう』

『仕事が落ち着いたんだが、君に会いに行っても良いかな?』

『君に会いたい。君は、僕に会いたいって思ってくれているかな……』

『忙しいかな? 毎日君からの返事がないかと、気もそぞろで仕事が手に付かなくてさ、情けないよね』


 ティアナは全て読み終わると、封筒にしまい大切に握り締めた。




 少し前まではまだ空は夕陽に染まっていたが、ロートレック家へ到着する頃にはすっかり辺りは真っ暗になっていた。

 

 訪問の許可を取っていないので門前払いされるかも知れないと覚悟しながらも、ティアナはロートレック家の使用人に声を掛けた。

 だがティアナが名前を名乗ると程なくして屋敷内へと入れて貰えた。


『すまない、孫はまだ帰って来ていないんだ。貴女さえ良ければ、待っててやってくれないか』


 別邸のダーヴィットの部屋に通され、彼から頭を下げられた。

 ティアナは何時かのロミルダへの花のお礼を述べて、彼と少しだけたわいの無い話をしてから客間で待たせて貰える事になった。

 だが彼は何時になっても帰って来ない。

 仕事が忙しいのか、いやだが手紙には落ち着いたと書かれていた。そうなると考えられる事は……。


(誰かに会いに行っているのかも)


 一瞬ヴェローニカが頭に過ぎる。

 そういえば、あれから学院で彼女の姿は見なくなった。今、どうしているのだろうか。

 彼と彼女は、本当に好き合っていているのだろうか……。


 自分は偽物の婚約者に過ぎない。

 彼が誰を好きだろうと、口を挟む権利などはない。分かっている、そう分かっているが……。


(胸がこんなにも、苦しい)


 ティアナは胸が締め付けられ息が詰まり、長椅子に蹲った。

 ユリウスにあんな風に言った癖に、何という有り様だろうか……情けない。


(それでも、私は……苦しくても、悲しくても、彼が許してくれる限り側にいる……)


 段々と瞼が重くなり、ダメだと思いながらもティアナは意識を手放した。



(誰かが頬に触れて、頭を撫でている……?)


 薄っらとした意識の中、誰かが自分に触れているのを感じた。ただ誰か分からないのに、まるで嫌な感じがしない。寧ろ心地が良いとさえ思う。

 ずっとこのままでいたいと思いながらも重い瞼をゆっくりと開けると、そこには会いたくて仕方がなかった彼の姿があった。


「おはよう」


 彼の優しい声に完全に覚醒した。






「会いたかった……ティアナ。君に会いたくて仕方なくて、おかしくなりそうだった」


 優しいのに力強い彼の腕に抱かれ、ティアナも彼の背に手を回して抱き締め返した。

 レンブラントの温もりと匂いに包まれ不安や苦しみが薄らいでいくのを感じた。

 今、彼がここにいる。その事実だけで胸がいっぱいになる。もはや彼の言葉が嘘か本当かなんて、とても小さな事に思えた。

 

「私も、レンブラント様に会いたかったです」


 ずっと伝えたかった気持ちをようやく彼に伝えられた。


「うん、知ってるよ」


 意外な言葉に思わずティアナは彼の胸元に埋めていた顔を上げてレンブラントの顔を見た。

 すると彼はクスリと笑いゆっくりと身を離すと、懐から一つの封筒を取り出し見せる。それは見覚えのある物だった。何故ならティアナがレンブラントへ送った手紙だからだ。


「彼がこれを届けに来たんだ」


 彼が誰かなんて聞くまでもない。

 すっかり失念していたが、ユリウスから返された手紙はレンブラントからティアナに宛てた物だけで、自分からレンブラントに宛てた物は含まれていなかった。

 だが何故ユリウスがレンブラントに渡しに行ったのか……。

 ティアナは目を丸くして首を傾げた。


「驚いたよ、まさか彼が僕に頭を下げるなんてさ。天変地異でも起きそうで怖いよ。でもまあ、その直後には君を悲しませたら命はないとまで言われたけどね」


 苦笑しながらレンブラントはユリウスとの対話の内容を教えてくれた。

 ユリウスはティアナが帰った後、レンブラントの元を訪れ先程の手紙を差し出して何故自分がそれを持っているかを説明した上で謝罪をしたそうだ。そして『彼女は私の大切な幼馴染であり、家族も同然だ。もし今後悲しませる様な真似をしてみろ、その命はないと思え』そう言っていたと教えてくれた。

 彼を拒んだ自分を、それでも尚まだそんな風に思ってくれているユリウスに、胸がつまる。目の奥が熱くなるのを感じた。


「ティアナ」


 レンブラントはティアナの前に再び跪くと手を取り甲に口付けた。

 

「レ、レンブラント様⁉︎」

「ティアナ、これからも僕の側にいて欲しい」


 真っ直ぐな曇りのない瞳で見上げて来るレンブラントに、ティアナは何度も頷いて見せた。

 言葉にならないくらいに嬉しかった。


ーー貴方が許してくれる限り、私は貴方の側にいます。



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