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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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55話


「ねぇモニカ、私宛に手紙は届いてない?」


 もう何度目か分からない問いをティアナから受けたモニカは、首を横に振った。

 

「そう……」


 見るからに落胆するティアナに、後ろめたさを感じてしまい適当な用事を並べ、モニカは部屋を出た。



 数日前の事だった。

 何時も通りティアナからレンブラント宛の手紙を預かり翌朝に従僕に預け様としたのだが、予期せぬ人物と遭遇した。


『ユリウス様……こんな朝早くに、如何なさいましたか』


 彼の姿を見た瞬間、咄嗟に手紙を後ろ手に隠す。


『早朝からすまない。実は君に用があってな』


 ティアナではなく自分に用があると言われ、何となく嫌な予感がした。

 彼は昔から主人であるティアナにとても大切にしてくれる数少ない信頼の出来る人物だ。だが最近は少し不安に感じている。それはかなりティアナに対して過干渉に見えるからだ。


『……私に、ですか』

『あぁ、君に聞きたい事があるんだ。ここの所、ティアナが思い悩んでいる様子が見て取れる。君なら何か知っているのではないかと思ってな』


 適当な理由を答えるべきか、それとも知らないフリをするべきなのかモニカは悩む。


『左様ですか……。私の方では特別ティアナ様からは何もお伺いしてはおりませんが、機会がありましたらそれとなく伺ってみます』


 丁寧に頭を下げて、さり気なく扉を開け彼に帰る様に促すと納得したのか素直に踵を返した。その様子に内心胸を撫で下ろす。だが、数歩歩いた所で彼は足を止めた。


『モニカ、今君が手にしている手紙は彼女から誰宛なんだ』

『⁉︎』


 まさかバレていると思わず、目を見張る。

 鋭い視線で見られたじろいでしまい手紙を床に落としてしまう。慌てて拾い上げようとするも、何時の間にかそれはユリウスの手の中にあった。


『ユリウス様、お返し下さい』


 彼は封書の宛名を眺め、顔を顰める。


『これは私が預かっておく。今後ティアナから彼に宛てた物は全て私に渡して欲しい。無論レンブラント・ロートレックからの手紙も同様だ』

『ユリウス様、それは出来兼ねます。お返し下さい』


 突拍子のないユリウスからの要求に困惑しつつ、ハッキリと拒否をした。

 主人の知人に失礼だと自覚しながらも、モニカは意を決してユリウスの手にしている手紙を取り戻そうと掴んだ。だが彼も譲らず離さなかった。故に引っ張り合う様な形になってしまう。


『モニカ、これは彼女の為なんだ』

『それはどういった……』

『私はティアナを悲しませたくない。だが今ならまだ浅い傷で済む筈だ』


 抽象的過ぎて彼が何を言いたいのかが理解出来ず、眉根を寄せた。


『ティアナは彼に惹かれている。だが、彼はティアナを自分の都合の良い様に利用しているだけに過ぎない。何れ婚約を解消されると分かりながらこれ以上彼との関係を続ければ、繊細なティアナは苦しむに違いない。何時か来る別れに怯えながら過ごし、彼は当然の様に別の女性を妻に迎える。その時ティアナが受ける絶望は想像するに容易い』

『レンブラント様はその様な方ではないと思いますが……』


 確かに二人の婚約はティアナを望まない結婚から護る為であり、彼にとっても利益があるものだったかも知れない。だが、モニカにはレンブラントがそんな酷い人間だとはとても思えない。

 最近は多忙な様で屋敷を訪れる事はなくなったが、少し前までは数日に一度はティアナに会いに来てくれていた。必ずティアナが喜びそうな贈り物を持参してくれ、お茶の席では終始愉しげだった。何時も愛おしそうに彼はティアナを見ていたのを覚えている。

 

『モニカ、君は彼を知らな過ぎる。私は彼を昔から知っているんだ。彼は異性関係にダラしない人間だ。こうしている間にも、ティアナと婚約しているにも関わらず別の女性と朝を迎えているかも知れない。現に最近は手紙を寄越すばかりで、彼女に会いにすら来ないだろう? あの夜もティアナを送り届けたのは私だ。その事からも分かる様に彼はティアナを軽んじている』


 ティアナが誘拐され無事帰って来た夜、ティアナを送り届けたのは確かにユリウスだった。

 話を聞けば、レンブラントもその場には居合わせたそうだがティアナを屋敷まで送って来たのは婚約者の彼ではなくユリウスで、少し引っ掛かりを感じはした。どんな理由があるにせよ今はまだティアナはレンブラントの婚約者なのだから、普通に考えれば彼が送るべきだ。体裁も悪い。

 最近は仕事が忙しいからと屋敷への訪問はなく、手紙だけが送られて来ている。


 手紙を掴んでいる手に更に力が篭る。

 これはティアナの意思ではない。だが正直、信頼出来るのはユリウスの方だ。彼はロミルダの友人の孫であり、昔からずっとティアナを妹の様に可愛がってくれていた。二人を見ていて良い関係の夫婦になれるのではないかと思う事は幾度もあった。


 (ロミルダ様が亡き今、私が確りとしなくては……)


 モニカは手の力を緩めて手紙を離した。


『君なら理解してくれると思っていた。心配する必要などない。ティアナの事は私が責任を持って幸せにすると約束する』



 それからモニカは毎日の様に届くレンブラントからの手紙をティアナには隠しユリウスに渡している。

 彼からの手紙を待ち続けているティアナを見ては、本当にこれで良いのかと悩むばかりだ。



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