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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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52話

 オランジュ夫妻との話し合いは散々だった。

 数日前、ヴェローニカの件でオランジュ夫妻と話し合いの場を設けた。また興奮して騒ぐ可能性があるので、ヴェローニカ本人は不在だった。

 

 今回の詳しい事件の詳細までは話さなかったが、学院でのティアナへの嫌がらせと、彼女の誘拐の幇助をした事を説明して然るべき処分をする様に要請した。


『あの子も悪気がなかったと思うんです』

『貴方を想う余り、少し暴走をしてしまいましたが……根は優しい子でして』


 彼等とこうして話すのは久々だが、相変わらず変わらないとため息が出た。

 この夫妻は、昔から長女のエルヴィーラより次女のヴェローニカを可愛がる傾向があり、かなり甘やかしていた記憶しかない。その所為もあり、あんな我儘で利己的な人間に育ってしまったとレンブラントは思っている。本当にいい迷惑だ。


『修道院は、その……今空きがないそうなんです。 ね、ねぇ、あなた?』


 レンブラントがヴェローニカをまた修道院へ入れる様に提案という形で話すと、夫人は挙動不審に答えながら公爵に同意を求めた。


『なら、元居た場所ではなく別の修道院をこちらで探させます』

『流石にそれは……。 やはり慣れ親しんだ場所の方があの子も安心するかと思いますし、知らない場所では不憫過ぎます。 もう少しすればきっと空きが出る筈ですわ』


 あんなどうしようもない人間でも、彼等からしたら可愛い娘なのだろう。必死に取り繕う姿は滑稽でしかない。

 レンブラントは冷めた目で夫妻を眺めた。

 そんな風に言い訳を並べながら、どうせ曖昧にしてやり過ごそうとしているのは分かっている。


『分かりました。 修道院に空きが出来しだい速やかに彼女の移送をお願いします。 但し、それまでの間、屋敷からは一歩たりとも出さない様に監視して下さい』


 ただ余りに話が進まないので、仕方なくこちらが譲歩して決着をつけた。我ながら甘いと思う。

 まあだが、約束を破る事があろうものなら容赦はしない。



 そんな事で、ヴェローニカの件が取り敢えず落ち着いたが、それよりも重大な案件が残っている。ティアナの事だ。

 ゴーベル伯爵の屋敷で会ったきり彼女とは会えずじまいになっていた。

 言い訳をするなら、仕事や話し合いなどで多忙だった為だが、ユリウスの事もあり正直二の足を踏んでいた。


 そんな時、城内の廊下でユリウスと出会した。今一番会いたくない人物ではあったが、彼に言いたい事があるのも確かだ。

 場所を移した話し合いになり、互いに一歩も譲らない状態が続いた。

 

『私が留守の間、ティアナが随分と世話になったそうだな』

『いや、彼女は私にとって大切な女性(ひと)だ。 感謝の言葉くらい掛けるのが礼儀というものだ』


 牽制すべくワザとレンブラントが嫌がる言葉を選んでいるのを感じた。

 幼馴染ではなく大切な女性(ひと)と表現する時点で、彼女は自分のものだと主張している様なものだ。


『二つ目に、諸事情によりティアナと婚約をしたそうだが、それは互いの利害が一致したからだと聞いている。 この婚約は彼女の《《本意でない》》と確認済みだ。 それは無論貴方も同じ事だろう。 私が戻って来た以上、彼女にとってこの婚約に意味はない』

『察しが悪いな。 ティアナ・アルナルディと婚約を解消しろという事だ。 女避けが必要なら他を当たれ』

『ティアナは昔から控えめで気が優しい子なんだ。 彼女が直接貴方に言い辛いから私がこうして代弁している、そんな事も分からないのか』


 不愉快以外の何物でもない。腹立たしいし、本当にいい性格をしていると思う。

 ただ彼が事実の中に嘘を紛させ、信憑性を持たせ様としている事は分かった。


(僕も、随分と舐められたものだね)


 ”大切な女性(ひと)"、”私が戻って来た以上、彼女にとってこの婚約に意味はない"……その言葉をそのまま受け取るなら、彼女とユリウスは恋仲だと言っているも同義だ。

 正直彼女と知り合ってから然程時間の経たないレンブラントには、二人の関係性までは分からない。彼女とユリウスが幼馴染だと知ったのすらつい最近だ。ただ……。


(彼女は絶対にそんな風に言わないし、どんなに言い辛くても彼女なら直接自分に言う筈だ。 無責任に、人任せにする人間ではない)


 自分だけでなく、ティアナまで莫迦にされた気分になり、許せないと思った。

 

『幼馴染だか何だか知らないけど、少し出しゃばり過ぎだろう。 どんな屁理屈を並べようが、ティアナの婚約者はこの僕で君は部外者でしかない。 もし彼女が本当に婚約の解消を望んでいるなら、彼女本人から直接話を聞く』


 ユリウスはレンブラントを物凄い形相で睨み付けながらも、立ち去って行った。


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