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3.初めての薬草採取

お読みいただきありがとうございます。

お楽しみください。

 俺は大きめの麻袋を担いでアズーマ山を目指している。

 よくコーヒー豆なんかが入ってそうな、あの袋だ。

 なんでかって?

 鞄っぽいやつはみんな高くて、麻袋にしか手が出せなかったからだ。

 50円で買える範囲で一番大きなものを選んだから、薬草以外のものを採取しても持って帰れるだろう。

 俺が持てればの話だが……


 冒険者ギルドで聞いた話では、アズーマ山まで歩いて30分くらいらしい。

 この世界には魔物もいるが、村から山の麓の間ではスライムくらいしか出ないとか。

 スライムは動きが遅く、自分から人を襲うことはないというから安心だ。

 その代わり打撃耐性が高いらしく、俺も相手を倒せないが……


 スライムを遠目にしばらく歩くと山の麓に到着した。

 見上げると記憶にある吾妻山よりもかなり大きいように感じる。

 元の世界の吾妻山は丘みたいな高さだったが、こっちのはちゃんとした山だな。

 奥深くに入ると危険だから、ここいらで菜の花もとい薬草を採取していきますか。


 意外とそこかしこにたくさん生えてるもんだな。

 花が黄色くて目立つし、これは案外楽に目標数確保できそうだ。


 俺は順調に薬草採取を続けていた。

 そう、このあとあんなことが起こるとも知らずに……(?)



 ―◇◇◇―



 ふいぃー、こんなもんかな。

 目標の30束は採れたしそろそろ日も傾き始めてきたし帰るとしますか。

 初日にしては上出来、上出来。


 ガサッ!


 茂みから音がする。

 達成感から気を緩めていた俺は判断が遅れる。

 そうしている間にも音がだんだん近付いてくる。

 やばい、山の奥の危険な魔物がたまに下りてくることもあると聞いた。

 逃げろ! 動け俺の脚!

 自分で自分を鼓舞してみるが、すくんでしまった脚は一向に動かない。


 ガサガサッ!


 来た! もうすぐそこだ!

 転移1日目で終了か……俺の異世界人生もショボかったな……

 俺は死を覚悟した。


「あ、こんにちはー、お兄さんも薬草採取ですか?」


 10代半ばくらいの男の子だった。

 見た目は人間だ。いや、多分中身も人間だ。というか完全に人間だ。


 おどかすなよぉぉぉーー。もう絶対死んだと思うじゃんーーー。


「お、おう。君も薬草採取?」


 俺は内心の動揺をなるべく表に出さないよう、自然に振る舞う。


「はい! 冒険者になったばっかりなんですよ。名前はキンジっていいます。早く依頼をこなしてランクを上げていきたいですね」


 こっちの世界ではこんな子供の頃からもう冒険者として働いてるんだなぁ。

 そりゃ、28歳スキルなしじゃあ冒険者ギルドの受付さんも微妙な反応になるわけだ。


「お兄さんはランクいくつなんですか? もしかしてCとかBとかですか?!」


 眩しい! 純粋な目でこっちを見ないで!

 28歳にもなって冒険者なりたてのスキルなしのおじさんをイジメないで!


「ははっ……俺も冒険者になりたてなんだよ。今までは商人みたいなことやってたんだけど、どうしても冒険者になりたくてね。名前はイヒトっていうんだ」


 コンビニのバイトは商人みたいなもんだし嘘はついてないよな、嘘は。


「イヒトさん、かっこいい! 商人というきちんとした仕事がありながら、夢を追うことを諦めない。ロマンですね!」


 いっそ成仏させてくれーい!

 おじさんの汚い心が浄化されちまう!


「き、キンジくんも今から帰るところかい? よかったら一緒に村に戻るかい?」


「そうですね! 冒険者の知り合いが全然いなかったのでうれしいです! 情報交換とかしながら帰りましょう」


「そ、そうだね」


 交換といっても俺の方から出せる情報があるかわからないけどね……

 アニメとかの話でもいいかい……?



 ―◇◇◇―



「おかえりにゃ~」


 俺たちは有益(?)な情報交換を行いながら、無事に冒険者ギルドに帰ってくることができた。


「これ、お願いします」


 俺は薬草が詰まった麻袋を受付に出す。


「おぉー、どれもこれもキレイに花が咲いてる高品質の薬草にゃ~」


「すごいですね! 僕はまだ薬草を見分けるのにも苦労してるのに……」


「た、たまたまだよ。今日は運がよかったな」


 今日が初めてなんですけどねー!

 本当にたまたま菜の花に似てるからわかっただけで。


「これなら満額の300円で買い取りできるにゃ~」


 俺は300円を受け取る。

 よかった。これで宿屋に泊まれるはずだよな。


「ちなみにおすすめの宿屋ってありますか?」


「サトナカ亭がこの村一番の宿屋にゃ~」


 この村一番の宿屋か……お金足りるだろうか?


「もう、ライチさん! ニミノヤ村にはそこしか宿屋がないだけでしょう!」


 おぉ、キンジくん、ありがとう。

 君のおかげでおじさんが1人救われたよ。

 受付さんの言葉を信じるなら、300円で普通の宿には泊まれるみたいだし。

 というか、受付さんの名前はライチさんというのか。


「キンジくん、教えてくれてありがとう。キンジくんもその宿に泊まっているのかな?」


「僕は実家がこの村にあるので、そこに住んでます!」


 ふむふむ、駆け出し冒険者だとお金も無いし、宿代もバカにならないもんな。

 キンジくんは堅実な性格のようだ。

 世の中には無一文で知らない世界に放り出す女神様もいるというのに。

 無一文じゃなくて10円玉1枚はあったが……


「よかったらサトナカ亭に案内してもらえないかな? 今日ニミノヤ村に来たばかりで土地勘が無いんだ」


「いいですよ! ちょうどうちの帰り道にあるので一緒に行きましょう!」


 はぁー、キンジくんは素直で優しくて本当にかわいいなぁ。

 弟か息子にこういう子が欲しかった。


「それじゃあまたよろしくにゃ~」


 ライチさんと挨拶を交わして、俺たちはサトナカ亭へと向かった。



 ―◇◇◇―

お読みいただきありがとうございました。

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