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第二部四章『迷宮脱出ゲーム』5-3


 とはいえ、加子は同じゾンビで死ぬことは無いからあまり心配はしなくてもいいだろう。

 でも、問題は白華の方だな。普通に人間だし。


「えっと…… やっぱり、私が足引っ張ってるのかな? 足手まといだし、どこかに隠れて居よっか?」


 なんて、走りながら白華がそんなことを問うてきた。


「別にそんなこと言ってねぇだろ。むしろ、心配になるから一緒にいてくれ」

「なんかゴメンね。あはは」


 ちょっとばかり無理した苦笑いで答える白華だった。


「そんなこと気にすんなよ。音黒せんせーが付いて行けって言ったんなら、そこに意味が無いわけねぇし」

「い、一斗…… ありがとっ!」

「礼を言われることでもねぇだろ」


 でも、その意味を俺に伝えなかった意図は何だ? 音黒せんせーが無意味なことをするとは思え……あんまり思えないが。たぶん。


【なーに、ちょっと不安になってるのよ……! 理由なんて明確でしょ?】


 え、どゆこと?


【あの子……、三國白華が言っていたことを思い出しなさい。それがマッドサイエンティストの意図よ】


 白華が言っていたこと……

『えっと。なんか、今回のゲームは整備されたルールなんて無いからって言ってたかなー?』

 って、この台詞のことか? でも、だから何なんだよ?


【もし、あんた一人と私でここに来ていたら? 死なないことを良い事に、相当な無茶をしかねないでしょ。普通のデスゲームであれば、賞金を得られないだけで済むでしょうけど、今回のゲームは違うのよ。ゲームに負けても、私たちが解放される保証はないの】


 ……そういうことか。

 白華が居ることで、俺は何がなんでも無事に帰ろうという思考に切り替わる。

 無謀な策を取らせない為の枷。

 それが、白華の役割ってことか。まあ、いちおう一緒に付いてきた加子も同じ理由なのだろう。加子は死なないけど。


【案外、過保護なのよね。あのマッドサイエンティスト。あんたの腕に付いた刀の改造だって、そういうことでしょ】


 そうだったのか。音黒せんせー……

 もしかして、思っているより良い人なのかな。

 いつも憎まれ口を叩いているせいで、まったく気が付かなかったけど。


【ま、やってることは完全にトイ〇トーリーのシドなのよね】


 やっぱ美恋もそう思うよな。俺も思ったもん。ただの改造おもちゃにされてるだけだと。


【私も身をもって体験することになるとは思わなかったわよ……】


 そう思うと、なんか感謝の気持ちが薄れてくるな。

 やっぱり感謝なんてしなくていいか。そう冷静に思い直したのだった。

 っと、今はそれどころじゃなかったな。


「一斗! このまま鬼ごっこを続けてたら、こっちが不利だよ! どっかの部屋に隠れようよ!」

「それもそうだな。次の曲がり角から、一番近い部屋に逃げ込むぞ」

「うん、おーけー!」

「はい! 了解です!」


 そして、廊下の角を曲がった俺たちは、そこから近い部屋のドアに手を掛けた。


「あれ?」


 が、開かない。

 ど、どうしてなのん……?


【壁にセキュリティの機械が付いているでしょ? 一部の重要な部屋には、ここに入る時と同じくロックが掛かっているのよ。その隣の休憩室なら、施錠無しで入れるわ】


 そうか、了解だ。


「隣の部屋なら、解除無しでも入れるって美恋が。そっちに入るぞ」


 加子と白華は短く返事をして、俺の後を付いてくる。

 部屋はシンプルな休憩室だった。いくつかの自動販売機とテーブル、パイプ椅子が並べられた部屋だった。隠れられるような場所は……、無さそうだな。やっべー。


「と、とりあえずドア閉めてバリケードでも作りましょう!」

「そうだな、加子。ナイスアイディアだ!」

「え、一斗と加子がバリケード作るの? それ普通、ゾンビに襲われる側の人が作るものじゃ……」

【まったくね…… というか、そんな時間無いでしょ。可能性は限りなく薄いけど、黙って身を潜めていなさい】


 それもそうか。ということで、声を出さずに潜んでいようと二人に指示を出す俺。

 とりあえず、俺はドア側の先頭に身を屈めて待機する。


 もし、ドアが開いたら捨て身で特攻だな。余程、運が悪くなければ、その不意打ちで四肢が切断されることも無いだろう。

 それに、部屋のスペースは狭い方だ。後ろの二人を守りながら戦うなら都合が良い。

 さあ、どう来るか……


「……」

「……」

「……来ねぇな」


 耳を澄ますが、足音は完全に通り過ぎたように感じられた。


【や、やり過ごせたの……? え、ホントに……? なんだか妙ね……】


 まあ、それならそれでいいじゃねぇか。結果オーライだ。


「はぁー、焦ったぁー」

「そ、そうですね。でも、これからどうしましょうか?」


 言って、加子が俺に視線を向けてくる。

 とりあえずの危機は脱した。が、今後の行動は慎重にならざるを得ないな。


「当然、ロッカールームまで行くのが目的だけど……、そうだなぁ」


 というか、もしかしてロッカールームもロックの解錠が必要なのか?


【そうね。中に入った後も、ロッカーを開ける時にまた解錠が必要よ。それなりに時間が取られると思ってちょうだい】


 いちいち指紋、虹彩、パスワードを読み取らせるとなると、かなりのタイムロスだな。

 速攻を仕掛けるのはリスクが高いか……?


【というか、ちょっとおかしいのよね】


 ん、何が?


【火花がロッカーの中身を欲しがっているのだとすれば、私たちがブツを入手してから“脱出ゲーム”を仕掛けるべきなのよ。そうすれば、火花はパスワードなんて知らなくてもいいわけでしょ?】


 ああ、言われてみればその通りだな。


【つまり、私のロッカーには、火花以外には見られたくない情報があるってことよね。だとすれば、“脱出ゲーム”という名前はミスリードかしら】


 思えば、以前やった似てるデスゲームは“宝探しゲーム”って名称だったな。

 宝を見つけてほしくないから、意識を逸らす為に呼び方を直接的なものにしなかった。

 わざわざゲーム名を変えたのは、そういう理由かもな。……ってことは、脱出するのはサブミッションで、本命はロッカーに辿り着くことそのものか。


【おそらく、そうでしょうね】


 とまあ、新情報が入ったのはいいが、要するに「無事にお家へ帰りましょう」ということには変わりないので、やること自体は同じだな。

 となると、とりあえず今後の方針は……



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