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第二部一章『デスゲームはラブコメの予感』1-5


「――という訳なんですよ」


 俺が説明を終えると、音黒せんせーは動揺したように震える声で呟く。


「う、嘘だろ。マジなのか……?」

「俺も嘘であってほしかったんですけどね……」

「デスゲームの賞金、ホントにぜんぶ燃やしやがったのか?」

「すみませんでしたぁ!」


 俺は全力で頭を下げた。


【って、本題はそっちじゃないわよバァカ! 私のことで驚きなさいよ!】


 と、脳内でツッコミが入る。

 だが、音黒せんせーにとっては、地縛霊がどうこうよりも自分の利益の方が優先なのだ。

 しかし、そこにフォローが入る。


「音黒先生! そっちよりも地縛霊の方を議論しましょうよ!」

「そうですって。お金が燃えちゃったのも、一斗がわざとやったわけじゃないんですし」

「確かに、『俺に任せろ』と言って意気揚々と出て行った割には、不甲斐ない結果でしたけど……」

「無駄にカッコつけたのが仇になったよね」

「お前ら、ホントはフォローしてくれる気ねぇだろ……」


 加子と白華も斜め上の反応を示してくるだけだった。おかげで一向に話が進まない。

 日々の非日常を体験し過ぎて、脳がバグっているのだろう。


【強引にでも話を戻しなさいよ! 私の存在に興味を持たせなさい!】


 あーもう、脳内でギャーギャー騒ぐなよ。うるせぇな。

 こっちにはこっちのペースがあるんだよ。ったく。


【あんたらのペースに付き合ってたら、雑談で日が暮れるわよ! ああ、もう……!】


 まあ、そろそろ要求通りに本題へ入る流れだろう。

 あとは神頼み……ではなく、音黒せんせーに頼る他ない。


「で、どうですかね、せんせー。何か解決方法とかありますか?」

「そうだな。ま、意外と面白い話だったから、マジレスしてやるか。ぱっと思いつく方法は三つだ」

「三つも…… 意外と多いんですね」

「私は天才だからな。まず一つ目。駄犬のペンダントから余分な魂を取り除いて、それをその辺に捨てる方法」

【ちょ、ちょっと!? さっそく私の存在が見捨てられてるんだけど!?】


 なるほど。言われてみれば、こいつに義理立てとかねぇしな。それが一番手っ取り早い方法かもしれない。


【私を見捨てる気なの!? この人でなし!】


 生憎、俺は人じゃないもんで。


【マジでやったら、末代まで呪うから! 呪い殺してやるからね!】


 むしろ、俺が末代だわ。死なねぇし。


【うわあああ!? 詰んだぁ!? あんたには人の心が無いの!? 心までゾンビになったらお終いよ! 考え直しなさい!】


 まあ確かに、ちょっと可哀そうだなと思う気持ちが無いわけでもない。

 これも何かの縁かもな。

 しゃーない。他の案でお願いするか。


【っ……! ちょっとだけ、あんたのこと見直したわ。良い心掛けね】


 こいつ、どうしてこんなに上から目線で居られるんだろうな……

 まあいいや。話の続きだ。


「この魂を見捨てるのもアレなんで、他の方法でお願いします」

「じゃあ、二つ目だな。大まかにはさっきと同じだが、取り除いた魂を、別の器に移し替える方法だ。そこで永遠に眠っていてもらう」

「じゃあそれで」

【ま、待ちなさいよ! さっきとあんまり変わってないじゃない!? どちらにせよ、私が犠牲になってるじゃないの!?】


 別に、こっちの案なら消滅はしてねぇだろ。植物人間(?)みたいな感じってだけで。それにほら、なんか最近流行りのエコロジーな感じするだろ。どうせもう死んでるんだから、別にいいじゃねぇか。


【私は嫌よ! 永遠に眠りっぱなしなんて!】


 ったく。文句の多いやつだなぁ。


「なんか、そっちの案も嫌だって言ってます」

「まあ、それもそうか。それに、この案だとまたペンダントが必要になって、一億円の費用が掛かるしな」

「じゃあ、余計に却下ですね」

「あと、結局、自由に動けるような身体が手に入るわけじゃねぇからな。加子の時とは状況が違うんだよ」


 それもそうだ。

 加子の時は、あいつのゾンビ化した死体があったから今に至るわけで……


「あ、そういえば、そこの死体に魂を入れることは出来ないんですか? 今、音黒せんせーが作ってるやつに」


 ちょうどいいゾンビ体があるじゃないか。もしや、これは妙案では?


「バカ言うな。これは『迷宮』から依頼されて作ってんだよ。勝手に他人の魂なんか入れられるわけねぇだろ」

「まあ、それもそうですね」


 そんな勝手が通る相手でもないか。それに、もしかしたら魂は失っていない可能性もあるわけだし。

 そんなことを考えていると、ふと俺のジャージの袖が優しく引っ張られる。


「ねえねえ、一斗くん。そもそもなんですけど、その地縛霊さんは未練があって、この世に留まっているんですよね? だったら、その未練を晴らしてあげれば、成仏してくれるんじゃないですか?」


 なんて、案を出す加子。可愛らしく首を傾げながら問うてきた。


「なるほど。成仏、か……」

「まあ、それが最も現実的な案だろうな。私が出そうとしていた三つ目の案だ」


 音黒せんせーも出そうとしていた最後の案か。

 よくよく考えてみたら、相手は元地縛霊だ。未練を晴らしてやるのが、最も正当な方法かもしれない。


 んで、どうだ? この方法なら、お前の心残りも解消できて、すっきり消えられるんじゃないか?


【そうね…… その三つしか可能性が無いのであれば、一番まともな方法よね……】


 ……まあでも、消えるとか急に言われても困るよな。

 人間であれば、末期だから死に方を選べと言われているようなもんだ。

 選択肢が実質一つしかなくても、簡単に出せる答えじゃないだろう。


 ま、いいか。もう数日くらいなら待ってやろう。気持ちの整理をする時間くらい必要だろうし。


【はぁ…… いいわよ、待たなくても。結局、返事は決まり切っているもの。未練、晴らしてもらうことにするわ】


 いいのか? 本当に。


【ええ。もちろん完全に納得したわけじゃないけど……、先延ばしにしても、何も変わらないのだから。だったら、うじうじ考えているよりも、残った時間を思いっきり楽しんだ方が得でしょ】


 ……お前、案外強いやつなんだな。嫌いじゃないぜ、そういうの。


【奇遇ね。私も自分のことは嫌いじゃないの。こうなったら、とことん付き合いなさいよ】


 よし、決まりだな。


「音黒せんせー、いちおう成仏を目指す方向で話が纏まりました」

「そうか。だったら、私がしてやれることは、もうねぇな。あとは駄犬が頑張るだけだ」

「ま、それもそうですね。あとはこっちで何とかしますよ。……たぶん。出来るだけ」


 いよいよどうしようもなくなったら、音黒せんせーを頼らせてもらおう。予防線は張っておくに限る。


【うわ、カッコわるー】


 うるせぇ。お前の為でもあるんだよ。


「あ、もちろん私も一斗を手伝うからね。大きな借りもあることだし。あと、夏休みで暇だし」


 と、白華が俺の片腕に絡みついてくる。大きく育った胸が当たって変形する。うへへ。


【こんなに可愛い子が、あんたなんかに…… 弱みでも握ってるの?】


 んなことしてねぇっつーの。強いて言えば、ちょっと前に色々とあったんだよ。

 別に、俺は貸しだなんて思ってねぇんだけどな。


「私も一緒に協力しますからね、一斗くん! 夏休みは暇ですから!」

「お前らの夏休みは、揃ってそんなに寂しいものなの……?」


 二人とも暇し過ぎだろ。女子高生の夏って、もっとイケイケウェイウェイなんじゃねぇの? 知らんけど。


「そういえばさ、その地縛霊の未練って何なの? 私たちにも協力できること?」

「あー、そういや聞いてなかったな」


 で、どうなん?


【それが、その…… 分からないのよね。何が心残りだったのか】


 え?


【間違いなく、現世にやり残したことがあるの。でも、それが何なのか分からないのよ。だから、その未練探しから手伝ってほしいわね】


 おいおい、マジかよ……


「一斗、何だって?」

「それが、何が未練なのかも分からないらしいんだよな。そこから手伝えって」

「そっかぁ…… これは難易度高めだねー」


 苦笑いで返す白華だった。

 仕方ねぇ。三人寄ればなんとやら、だ。そこから頑張るしかねぇな。

 すると、ゾンビ作りに戻っていた音黒せんせーが声を掛けてくる。


「あ、分かってると思うが、今回もタイムリミットはあるからな。ペンダントに地縛霊の魂が癒着するまでに、そいつを成仏させてやれよ」


 それだけ言って、また作業に戻る音黒せんせー。


「あー、そういえばそんな設定……じゃなくて条件ありましたね」


 加子の時もタイムリミットのせいで、白華とのいざこざがあったんだったな。すっかり忘れてたけど。

 そして、加子が元気よく話を続ける。


「じゃあ、さっそく未練探しを始めましょうか。時間も無いことですしね。えーっと、その地縛霊さんは、何て名前なんですか?」

「美しい恋って書いて、美恋みれん、だそうだ。皮肉なことに」

「美恋……? え、一斗。その人、女性なの?」

「ああ、そうだな」


 俺が言うと、加子と白華は不機嫌そうに口を揃えて言うのだった。


「「さっさと成仏させないと……」」

「……」


 や、やる気があるようで結構ですね……


【え? 何なの、この空気……?】


 修羅場ってやつかな。あはは。はぁ……

 言わずもがな、いつかの二択の結論は未だに出せていないのであった。



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