四章『ゾンビ&ガンズ』4-4
「階段を下りて、別の階へ移動しよう。そこで作戦会議だ」
「う、うん!」
そんなこんなで全力逃避。
暫く走り回っていると、誰の足音も聞こえないくらいに静かな空間になった。
息を整える白華と歩き、やがて適当な空き教室に入る。
ここなら、ゆっくり作戦も立てられることだろう。
「ふぅ、逃げ切れたな。なあ白華、怪我とかしてないよな?」
「私は大丈夫。一斗の方は……、怪我してても関係無いか。あはは」
「ま、そういうことだ」
撃たれた胸を触るが、既に何ともない。小さな傷なら直ぐに修復されてしまう。
まあ、それはいいのだが……
【このデスゲーム、早くも脱落ですね。どうしましょうか?】
それな。加子の言う通り、俺はさっそく“死者”となってしまったわけだ。
でも、何も出来ないというわけでもない。それに……
【あの、私、思ったんですけど、さっきのおじさんが“ゾンビ”だったんじゃないでしょうか?】
さっきのオッサンが? 何で?
【“ゾンビ”を勝たせようと提案してきた本人ですし、自分が勝って約束を反故にすれば賞金が全額手に入るじゃないですか】
なるほど。確かに、そう考えると辻褄が合うな。
よし、この話を我が物顔で白華に話してみるか。
『一斗ったら知的で天才! 抱いて!』ってなるかもしれないし。
【う、うわー】
女子がマジトーンで引く時の声がした。ゾンビは不死身でも、ハートは傷つくんだからな? ゾンビハートは繊細なんだぞ?
「ねえ、一斗……」
「ん、どうした?」
内々で加子と下らない話をしていると、白華が俺に語り掛けてきた。
何か妙案でも浮かんだのだろうか。実は俺も“ゾンビ”の正体に心当たりが出来たから話そうと思っていたところなのだが。
「実はさ、私のカード“ゾンビ”だったんだよね……」
「…………え、“ゾンビ”? 白華が?」
あ、あっぶねぇ! 自信満々で見当違いな推理披露するところだったわ!
はぁー、黙ってて良かった……! 既の所だったな。
危うく加子に騙されるところだったぜ……
【さっきは一斗くんも納得していたじゃないですかぁ!?】
などというツッコミが入るが、今は無視。俺は悪くない。
「一斗が“人間”で私が“ゾンビ”だなんて腐肉だよね。あはは」
「皮肉だな」
つーか、加子と同じボケをするな。さっきやったから、それ。仲好しちゃんかよ。
「でも、私が生き残れば一億五〇〇〇万円手に入るわけでしょ。もし“人間陣営”だったら、“ゾンビ”を撃った上で“人間”プレイヤーの頭数を減らさないといけないわけだし、むしろ結果オーライだったんじゃないかな?」
「……確かに、それもそうだな。賞金を全額手に入れるなら、“ゾンビ陣営”の方が都合良さそうだ」
「でしょ。賞金の為に“ゾンビ”を増やす気も無いし、あとは逃げ回ってればいいのかな」
「ああ、それなんだけどさ」
首を傾げる白華に、俺は言葉を続ける。一つ、試してみたいことがあった。
「もしかしたらだけど、“ゾンビ”の能力は“死者”も“ゾンビ”に出来るんじゃないかと思うんだよな」
「えっと……、どういうこと?」
白華はさらに首を傾げる。
「つまり、“人間”を“ゾンビ陣営”にする力もあるけど、撃たれてゲームから脱落した“死者”を“ゾンビ陣営”としてゲーム復帰させることも可能なんじゃないかと。ルール説明の時も、あのバニーガールは『噛んだ相手を“ゾンビ”にする』としか言ってなかったし、相手が“死者”状態でも成立するんじゃないか?」
「そっか。なんだか説得力はあるかも……? とりあえず、試してみよっか。一斗を“ゾンビ陣営”として蘇生出来たらラッキーだし」
「おう、試してみてくれ」
ということで、ゾンビの俺を“ゾンビ”化する実験が始まった。いぇいいぇい。
【で?】
で、とは?
【いや、ですから『噛みついた相手を“ゾンビ”にする』の『噛みつく』って、実際にどうするんですか?】
……実際に噛みつくんじゃね? 知らんけど。まあ、本人に聞いてみるか。
「で、白華。『噛みつく』っていうのは、具体的にどうするんだ?」
「? 私は何も説明なんて受けてないよ?」
「……」
「……」
おや? ルール説明があれだけだとしたら、『噛みつく』とは文字通りの意味なんじゃ……、ゲームとして疑似的なものではなくて。
「よし。白華、俺に噛みついてみてくれ」
「ええええっ!? で、でも……、えええええええ!?」
瞳をぐるぐるさせる白華が紅潮する。
判定はカメラで行うとか言ってたし、どっかで運営側が見張ってんだろう。
俺は準備万端だ。ばっちこい。
「か、噛みつくったって、ど、どこに!?」
「白華の好きなところでいいぞ」
「すすすす好きなとことったってぇ!?」
顔を真っ赤にして動揺しまくる白華。
俺のやっていることはセクハラ臭いが、合法なのでセーフ。ルールだから、仕方のないことだから。ぐへへへへ。
「じゃ、じゃあ、指とか……」
「指、か」
「そ、そう。指。他に噛みやすいところないし」
「そうか。じゃあ頼む」
俺は右手をパーにして持ち上げ、白華の目の前に持っていく。
白華は俺の手を両手で掴むと、かぷっと人差し指を口に含んだ。んで、そのまま甘噛みされる俺の指。
【きゃーっ! なんかエロいです! 興奮します! 白華ちゃんエロい! 可愛い!】
加子は大興奮で叫び続ける。まあれだな。俺も同意見だ。
【ですよね! 最高ですね!】
ああ、最高だ。なんか知らんが最高だ。
あの日、加子に轢かれることも無かったら、こんな体験も無かったのだろう。
そう思うと何かと感慨深いな。
【つまり、私のお陰ですね! 感謝してもいいですよ!】
そうだな。殺してくれてありが――おいこら。それは調子に乗り過ぎだろ。
【えへへへへ。えろーい】
おい話を聞け。やっぱ、俺が死んだのとは別件だこれは。謝れ、俺に。
などと話していると、指から生温い感覚が消えた。




