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二章『この辺からラブコメするから。いやマジで』2-6


「一斗も早く入って来なよ。鬼に見られちゃうでしょ」

「ああ、すぐ潜るよ」


 俺も白華はっかの後を追うようにベッドイン。空いたスペースに自分の身体を滑り込ませていく。最悪、全身が入りきらなかったら、分解して収納するつもりだ。

 だが、ありがたいことに、俺の身体はすっぽりと空いたスペースに収まったのだった。

 収まったは収まったのだが……、


「あ……」

「……っ!」


 白華と至近距離で視線がぶつかる。

 か、顔が近い!

 しかし、それも仕方のないこと。この狭いスペースに、二人分の身体が入ればそうなるのだ。


『……! ……!』


 ん、今のは……、鬼の足音か? ついに、こっちまで来やがったか。


「(し、静かにね! 一斗!)」

「(ああ、分かってるよ)」


 小声で意思疎通を図る俺と白華。

 それでも、こうも顔が近いとドキドキしちゃうよね。

 心臓の鼓動で鬼にバレないか不安である。……いやゾンビは心臓動かなくね? だったら、この心音のビートを刻んでいるのは?


「(……んんっ……)」


 目の前で顔を真っ赤にしている白華の心音だ。間違いない。

 白華の頬は朱色に染まり、瞳は潤んでいる。ちょっと顔を動かせばキスできそうなくらいに、その柔らかそうな唇が近い。

 こ、これがラブコメの波動というやつだろうか。生きてて良か……、死んでて良かった!


「(一斗……)」


 白華が小さく俺の名を呼んだ。

 まさか、そういう雰囲気なのか? いやでも、それ以外には考えられないよな?

 こう、吊り橋効果的なやつもあるのだろう。やばい、心臓動き出しそう。ゾンビなのに。


 やがて、白華はぎゅっと目を瞑り、顎を少しだけ上に持ち上げた。

 こ、これはまさかまさか…… いいのか!? キスしてもいいのかっ!?

 俺の唇を……、白華のに当ててもいいのだろうか! いや、もう行くしかねぇだろ!


「(い、一斗……、臭いんだけど……)」


 …………???

 臭い、とは……? んん……?

 くんくん、と俺は自分の身体の匂いを嗅いでみた。


【うわ臭い! 腐敗臭がします! おえっ!】


 と、加子かこが俺の代弁をする。

 そうか。ゾンビだから身体が腐ってるのか。だから、臭いのね。なるほどぉ。

 ……じゃあ何か。さっき、白華が顔真っ赤にして心臓ドキドキさせてたのは、単に息を止めて酸欠だったからか。瞳が潤んでいたのは、匂いがキツかったからか! ちくしょう!


「(一斗、もうちょっと、そっち行って)」


 鼻をつまんでジト目で俺を睨む白華。

 なんか、もう死にたい。いいや、もう死んでるんだったな。俺のささやかな願いすら叶わないのか、この腐った身体は。


「(ごめん、もうちょっと我慢して)」

「(はぁ……)」


 盛大な溜息をつかれる。ホントごめんなさい。ゾンビでごめんなさい。


   ◇


 それから暫くが経過。鬼の足音も完全にこの部屋を通り過ぎた頃。

 俺たちはベッド下から脱出して、密着状態から解放されたのだった。


「はぁ、死ぬかと思った。一斗、マジでゾンビなんだ」

「匂いでゾンビ判定されるとか嫌すぎる……」

「私も嫌だよ。ほら、ファブってあげるから、こっち来な」


 客室に備え付けられていたファブリーズを拳銃のように構える白華。

 ゾンビになった親友を楽にしてやる映画のシーンが脳裏を過った。

 悪いな友よ…… 辛い役目を押し付けて……

 バンッ! じゃなかった、プシュっと俺の身体がファブられる。もうね、全身くまなく丁寧にファブられたよね。

 体臭とか気にしたことなかったけど、腐乱臭にはマジで気をつけよう。


「こんなもんかな」


 俺の全身が湿り気を帯びると、白華は顔を俺の胸に押し付けてきた。

 そして、すんすんと匂いを嗅ぎ始める。


【なんか、えっちぃですね】


 おう……、そうだな。俺もそう思っていたところだ。


【でも、この感じだとまだ脈アリだと思います! 白華ちゃんまだイケます!】


 加子がそう言うのであれば信じるしかなかろうて。それに、考えてみれば、嫌いな相手の匂いなど嗅ぎたくも無いはず……!

 であれば、まだ攻略ヒロインからは外れていないだろう。ありがとうファブリーズ。


「うん、こんなもんかな」

「ありがとう。助かったよ」


 色んな意味で。


「まあ、ゾンビがバレないように協力するって約束だったし」

「そ、そうだったな」

「それより、思ったんだけどさ……、ここってそんなに安全ってわけじゃないんじゃない? 例えば、鬼が二人同時に入ってきたら、一斗が盾になってくれたとしても、どうにもならないだろうし」

「あー、それもそうか……」


 確かに、言われてみればその通りだ。鬼が二人入ってくる可能性は考慮していなかった。

 この狭い空間じゃ、逃げ場はない。俺が盾になっても、白華を逃がすことは出来ないだろう。


「ちょっとリスキーだけど、他の隠れ場所を探した方が良くない?」

「そうだな。俺も賛成だ」


 そして、俺たちは部屋を出て、他に安全な場所を見つけるべく船内を探索しに向かったのだった。


 ……のだが、それが裏目に出る結果となった。


『ッ……!』


 部屋を出て数十分後、俺たちはばったり鬼とエンカウントしたのだった。やっべ。

 しかも、今回の装備はまさかの日本刀である。

 斧で腕を切られて分かったのだが、切断系の攻撃だと欠損した部位を拾わないといけないので、打撲ダメージよりも不利なのだった。


「――――っ!?」


 鬼が雑に日本刀を薙ぐ。既の所で、後方に回避する俺。

 薙ぐというより振り回すと言った方が適切だろうか。不幸中の幸いだったのは、鬼は剣の達人というわけでは無さそうだという点だ。でも、切られたら普通にヤバいことには変わりない。


「に、逃げるぞ、白華!」

「ちょ!? い、一斗!?」


 俺は白華をお姫様抱っこの形で抱えて廊下を駆け抜けた。

 ゾンビの身体の方が圧倒的に速いしな。スタミナも気にしなくていいし。


【おお! 一斗くん、やりますね! カッコいいです!】


 別に今は好感度のことなんて考えてねぇっての。ただ必死なだけだ。さすがの俺でも軽口が叩けるような状況じゃないのは理解できる。

 至近距離で鬼との対峙。しかも、あの日本刀には赤い液体が付着していた。あれは容赦なく人を切れる質の悪い鬼だということだ。


『! ……ッ!』


 しかも、意外と早い! 俺の人間離れ(物理)した走りにも、しっかり追随してきてやがる。ちっ、厄介な相手だな。


「一斗、どうするの?」

「とりあえず、ひたすら逃げ回る! 疲れを感じない俺の方が有利のはずだし」

「でもそれ、挟み撃ちにでもされたら意味ないよね?」

「……そうだな」


 船内での鬼ごっこでは不利か。なら、比較的広いデッキに出よう。そこで逃げながら作戦を立てる。


『…………!』



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