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(7/12)第5夜 オハコ

 諸君は箱にまつわる怪談をどれぐらいご存じだろうか。今回語るのはまさに一つの箱にまつわる話でSNS上で知り合ったFさんから聞いた話である。


 ある日Fさんの家に中学時代の友人から荷物が届いたそうだ。中々大きい荷物で配送に来たお兄さんが抱え辛そうにいていたくらいだ。荷物の段ボールには割れ物注意と書かれているだけで中身はまったくわからなかった。

 段ボールを開ける前に荷物を送ってきた友人に電話をかけてみることにした。1コール、2コールと相手はなかなか出ず、このまま留守電になるのかというところで相手が出た。

 Fさんが荷物が届いたことを言うとその友人は何も聞かずに一か月預かって欲しいと早口でまくし立ててきた。詳しいことは同封した手紙に書いてあるので読んでくれ。そうして一方的に電話を切られてしまったそうだ。

 あれだけ切羽詰まった友人の声は聞いたことがなかったのでFさんはひとまず言われたとおりに手紙を読むことにして段ボールを開けた。中に入っていたのは40センチ四方の箱と何かしらの情事の入った瓶、そして手紙が入っていた。

 いろいろ気になったがひとまず手紙を読むことにして封筒の封を切った。その手紙に書いていたのは大体以下のことだったそうだ。


 わけあって手元に置けないので箱を預かって欲しい。その箱が何なのか等詮索はしないでほしい。決して中は覗かないこと。一日二回、朝起きた時と寝る前に瓶の中の錠剤を一錠箱の中に入れること。どうしても預かれないときは送り返してほしい。来月1日に家まで取りに行くのでそれまで決して誰にも渡さないでほしい。


 この手紙を読んでFさんは私に白羽の矢がたった理由が大体わかったそうだ。Fさんの住むマンションは有数の強固なセキュリティーを持っているそうで宅配ですら荷物は管理人が預かるか、直接運ぶ必要のある物だと管理人か常駐の警備の人間が同伴することになっている。

 防犯カメラ、監視カメラが各所に配備されており、マンションの廊下に死角はないくらいだ。ここまで部外者が侵入しにくいマンションはないだろう。


 このお願いは怪しい所が多々あったがその友人には過去色々と助けられたこともあったので受けることにしたそうだ。それにここ最近外に出ることがめっきり減って暇だったので生活の刺激になればいいやというのもあった。

 といっても毎日朝と夜に錠剤を投げ込むだけなので一週間もしないうちに飽きてしまった。箱から変な音がしたり動いたりということもなくいたって平和だった。何もないあまりに錠剤の成分でも調べようかって気になりかけたくらいだった。

 しかし、異変が起き始めたのはその1週間が過ぎたあたりだった。Fさんの家の来客といえばネット注文した配達か公営放送の料金徴収に来る人くらいだったが日に何回かインターホンが鳴るようになった。

 新聞社からの勧誘だったり、試供品がどうだとかで怪しい宗教の人が来た時は管理人に連絡して追い出してもらった。

 そんな人たちが毎日毎日代わる代わる違う人たちがやって来るので辟易としてしまった。だからほとんど居留守を使うようになったし、管理人にお願いしてできるだけそういう人を追い返してもらうようにお願いした。

 その甲斐もあって平和を取り戻したかと思ったら今度は変な電話が来るようになった。非通知からの電話で最初反射的に出てしまったそうだ。


 オハコ、預かっていませんか? オハコ預かっていませんか?


 低い声の男がそう連呼してくるそうだ。何を聞いても同じ言葉が返ってくるだけで嫌になって切った。インターホンの時と同じように毎日非通知からかかってくるようになった。あまりにしつこいので非通知からの着信を拒否するように設定した。それは箱を預かってから2週間目のできごとだったそうだ。

 3週間目に突入すると再びインターホンが鳴るようになったそうだ。管理人が通したということは勧誘ではないと思い出てみるとカメラに映っていたのは知った顔だったそうだ。

 要件を聞くと話があるから入れてくれというばかりで怪しく思ったFさんは入れることなく追い返した。その知人には自分の部屋番号を教えていなかったし、連絡もなく家に押し掛けるような人ではなかったからだった。

 それから次の日も別の知人が現れて部屋に入れるように言ってきた。仕事場のの同僚、学生時代の友人、そして妹までが押しかけてきたがすべて追い返した。

 そしてまたインターホンが鳴って出てみるとそれは箱を預かってくれといった中学時代の友人だった。箱を受け取りに来たというのでこれで苦労から解放されると思いドアを開けかけてふと気になって手を止めたそうだ。

 今日って1日だっけ。色々あって日にち感覚が狂っていたFさんはスマホので今日の日にちを確認したそうだ。画面に現れたのは30日の文字だった。

 Fさんは扉を開ける代わりにまた明日出直すよう告げたそうだ。すると友人は狂ったように言ったそうだ。


 今すぐじゃなきゃダメ。明日じゃ遅い。オハコ渡せ。渡さないと許さない。オハコちょうだい。オハコちょうだい。オハコちょうだい――――


 Fさんはさすがに恐ろしくなって管理室に連絡するとプツリとインターホンの画面が消えたそうだ。あとで管理人に確認するとFさんと電話している間に消えてしまったそうだ。Fさんは管理人に事情を話し、その日の来客は全員断ってもらうようにしたそうだ。


 そして1日になり、友人から電話があり、無事に箱を引き渡すことができた。友人は帰るまでずっと感謝と謝罪を繰り返していたそうだが最初の電話の時のような切羽詰まったような雰囲気はなくなっていたようだ。


 今でもその友人とは交流が続いているそうだがお礼だといって一度彼女の家に招待されてからはその話は一切していないそうだ。確かに気になるけどもう済んだ話だしね。Fさんは最後にそう締めくくった。

次回は7/13 00:00に投稿

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