(7/10)第3夜 おばけやしき
お化け屋敷とは遊園地などにある施設であるが今回語られるのはそれの話ではない。諸君も覚えがある者もいるのではないだろうか。子どもの頃近くの廃墟を「おばけやしき」と呼んでいたことがあるのではないか。肝試しと称した不法侵入をした覚えがある者もいるだろう。
多くのものが足を踏み入れるせいでただでさえ荒れている建物がさらに荒れる。より雰囲気が出る。その悪循環だ。
といわけで本題といこうかな。近所に大きな屋敷があるそうでな。それにまつわる話だそうだ。
学校からの帰り道、ぼくはとある屋敷の前を通る。登校の時は友人と待ち合わせして行くので別の道を通るが下校のときは一人なことが多いのでこの道を通る。理由は簡単。その方が早いからだ。
この前を通るようになって1年ほど経つがいつも門扉は閉じられたままで鉄格子越しに見えるその広い庭に誰かがいたのは見たこともない。ぼくの帰宅時間はいつも同じというわけでもないのにだ。
表札もないし誰も住んでいないのだろうか。色々気になることはあったが調べようとまでは思わなかったので誰かに話したりはしたことはなかった。だから彼にその話をしたのは偶々間が悪かっただけに違いないのだ。
一草(仮名)という男はクラスでは有名だ。色々なことを知っていて情報通を自称している。
放課後に偶然彼と教室で二人きりになり、他愛ない話をしていたはずなのに気づいたらあの屋敷のことを話してしまっていた。
一草はその話に深い興味を示し、気づけばぼくは彼をその屋敷に案内することになっていた。
一人で帰宅することばかりのぼくにとって誰かと帰るなんて初めてのことだったかもしれない。これを一緒に帰ってると言っていいのならだけど。
一草はその屋敷の存在を知らなかったそうで心底驚いていた。そしてその日は他に何かをすることもなく別れた。
その日を境に一草がぼくに付き纏うようになった。一人であの屋敷に行こうとしたがたどり着けなかったとかよくわからないことを言い出すし、一緒にあの屋敷を調べようなどとしつこく誘って来るので放課後一緒に行くくらいならということで了承した。
帰宅時間が遅くなるのは本意ではないが背に腹は代えられないというやつだ。
調査といっても最初のうちはたいしたことはしなかった。屋敷の周りを一周してみたりとか周囲の様子を写真に撮ったりとかそんな簡単なことばかりだった。それだけでも一草は興奮していてなんか怖かった。
1週間、2週間と経ち、一草と帰るのが日常とかした頃屋敷に忍び込んでみようと言われたときは正直意味わからなかった。
人とは不思議なもので一草と話す前はあの屋敷のことが気になっていたのにぼく以上にあの屋敷に興味津々な人が近くにいたせいかもうどうでもよくなっていた。
だから乗り気ではなかったのだが一草があまりにも熱心なので最終的に僕は折れてしまった。それを僕は後悔することになる。
その日あの屋敷に行ってみると門扉が開いていた。まるでぼくらを歓迎するかのようだった。一草に聞いてみるが知らないと言い、それどころかチャンスだと言い始める。
ぼくは不気味で仕方なかったのだが一草に引っ張られる形でぼくは門扉を通り抜ける。その瞬間ぞくりと背筋に寒気が走る。何かに見られている気がする。
一草は何も感じないのか真っすぐ屋敷へと近づいていく。ぼくは一草を呼び止めるが止まる気配はない。ぼくはこれからどうすべきかわからなかった。どう見ても一草が正気には思えない。
ぼくは一草を無理やり押さえつけてでも連れて帰ろうと決意し一草をおいかけようとしてぼくは思わず足を止めた。ぼくの視線はある一点に吸い込まれていた。
屋敷の二階、その窓に黒い影がうつっていた。それは一つではなく窓を埋め尽くすように複数の影がうごめいていた。
それを見たらもう駄目だった。ぼくは背を向けてそのまま逃げかえった。一草を置いて。気づいたらぼくは自室のベッドで横になっていた。今日のことは忘れよう。ぼくは現実逃避するようにそのまま眠りについた。
次の日、一草は学校に来なかった。それどころか一週間二週間経っても一草は学校に現れず、気づいた時には転校したことになっていた。
それとぼくはあの日以来あの屋敷の近くを通らないようにしていた。だからあの屋敷が何だったのかぼくにはわからない。ぼくにはそれを調べる勇気もない。
だからこうして手紙と地図を遅らせて頂きました。
というわけで手紙に書かれていた内容を読ませてもらった。せっかく頂いたものだし調べさせてもらったが結論から言うとそこには屋敷なんてなかった。住宅街の一角にそんなものを建てるスペースなんてあるわけはないんだよ。つまりは彼がみていたのは「お化け屋敷」だったわけだ。
それでは今日はここまでとしよう。それではまた明日会いましょう。
次回の投稿は7/11 00:00 になります。