(7/20)第13夜 海男
これはある漁師から聞いた話だ。
とある港町では昔から夜の海に出ることが禁じられているそうだ。どうしても夜の海に出る場合は明かりをつけて沿岸だけにするという決まりがあった。
この決まりは近場での漁業を余儀なくさせ、数日かけての漁を実質禁止されているようなものだった。それでも今までは近場の漁だけでも十分な漁獲量で誰も無理して遠出しようとするものはいなかったがその年は不漁が続き、漁師たちには徐々にだがその決まりに不満を募らせていた。そんな状況を見かねた町長は夜の漁を一部許可したそうだ。ただ決まりに従い明かりをつけて沿岸だけだった。
昼間の漁と違い、面白いくらいに魚が取れたそうで多くの漁師たちはそれで満足したそうだが一人の若い漁師が沿岸でこれだけとれるならと隠れて沖に漁へ出た。
若い漁師ばれないように明かりを消して夜の海を進んでいった。若い漁師は岸から見えないところまで来ると明かりを絞ってつけた状態で漁を始めた。時間も経たずに魚がかかりまさに入れ食いだった。
若い漁師は調子に乗って船に乗せられるだけ魚を獲った。そして十分魚を獲り終わると岸に戻ろうと船を動かそうとしたが船は動かなかった。それどころかエンジンも動かなくなり、明かりも消えてしまった。あまりの暗さに若い漁師はパニックになりながらもエンジンを動かそうと躍起になるがうんともすんとも言わない。
その時海から何かが上がってきたような音が聞こえたそうだ。若い漁師は懐中電灯を手に取すとすぐに音がした方を照らしたがそこには何もいなかった。気のせいかとそう思った瞬間背後から肩を何かに掴まれたそうだ。それはすごい力で若い漁師を引っ張り船のふちへと連れて行こうとする。
抗おうにもその力は強く、振りほどけそうになかった。若い漁師はせめてもの抵抗として背後の存在を懐中電灯で照らした。闇の中に浮き出たのはがりがりに痩せた青い顔だった。
若い漁師はヒッと声をあげてしまったがそれは光を浴びて怯んだようで肩を掴む力が緩んだ。若い漁師はすぐに我に返るとそれを思いっきり蹴って海へと突き落とした。
若い漁師はそれを見届けるとすぐに操縦席に飛びつき鍵を回すと今度はあっさりとエンジンがかかった。若い漁師は死に物狂いで船を動かして岸に戻ったそうだ。
若い漁師は岸に戻ったところを見つかり、周りの者にひどく怒られたが恐怖体験の所為か黙って説教をきいていた。
一通り説教が終わり船に戻ると獲ってきた魚は全部腐敗しており、すごい臭いを放っていた。若い男は船の清掃にだいぶ苦労することになった。
若い漁師の体験したことは港町全体に広がり、夜の海に出る者がしばらくいなくなったそうだ。
海には未知の存在がいるということなのかもしれない
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