(7/16)第9夜 エレベータ
都市伝説や怪談ではよく舞台に使われるのがエレベータだ。それはエレベータが閉鎖空間であり移動手段であることが要因として挙げられるだろうか。別の階と階をつなぐという役割から異界とつながるという発想にもつながっている。だからエレベータとは使いやすい怪談素材と言えるだろう。
今回は変わったエレベータの話を聞いたのでそれを語らせてもらおうと思う。
僕の妹は変わった趣味を持っている。彼女は自称エレベータヲタクだそうで彼女の趣味部屋はエレベータ一色だ。列車ヲタクのエレベータ版だと思てくれればわかりやすいかもしれない。ただ列車と違い日常に溢れているので忙しないと言ってもいいかもしれない。妹と初めての場所に行くと必ず何処社のものか調べるのに付き合わされる。
そんな妹だが外観や内装を見るだけでエレベータに乗ることはほとんどなく、乗らされるのはいつも僕の役目だ。それで乗り心地の感想を言わされるのだからなかなか面倒くさい。
どうして妹はエレベータに乗らないのか。最初からずっとそうだったので閉所恐怖症か何かかと思っていたので特に気にしたことがなかった。
しかし、妹に彼氏を紹介されたとき、その彼氏くんと二人きりになる機会があり、うちの妹の趣味に付き合うのは大変じゃないか、とふざけた感じで言ったら彼氏くん急に真顔になってね。あんなにエレベータが好きなのにどうして乗らないのかお兄さんは知っていますか、って聞き返してきたんだ。
デートのときも階段を使うかエスカレータを探すかでエレベータしか移動手段のに場所はいけないしと愚痴をこぼしれさ。閉所恐怖症なんじゃないの、って言ったら彼氏くん絶対それはないって。デートで迷路とか観覧車とか狭い場所にいくつか行ったけど嫌がったことはなく、嫌がるのはエレベータに乗ることだけなんだそうだ。
彼氏くんは昔エレベータで嫌なことがあったんじゃないかって言うんだけど僕の記憶にある限りそういうことはないんだ。そもそも彼女がエレベータに乗ってるところを見たことがないんだ。
僕は彼氏くんのせいで急に気になってきてさ。母に電話して聞いてみたんだけど赤ん坊の頃からエレベータに乗るのを嫌がってたそうで乗ろうとすると泣き出して大変だったらしい。しかし何故嫌がるのか母も知らないそうだった。
こうなっては直接妹に聞くしかないと思った僕は実家に帰った際に話を聞いてみることにした。最初は話すのを嫌がっていたけど拝み倒してどうにか話を聞くことができた。
妹が言うには物心ついた頃からエレベータに恐怖を覚えていたそうだ。その恐怖が具体的になったのはある夢を見るようになってからだそうで最初は違えど最終的にはエレベータが落ちて死んでしまうそうだ。
エレベータが怖いから夢を見てるのか夢が怖いからエレベータが怖いのかもうわからなくなって妹は片っ端からエレベータについて調べた。エレベータのことを知れば恐怖は覚えなくなるのではと思ったそうだ。
エレベータヲタクになったのはその流れでいつからかエレベータの夢は見なくなったそうだ。それでもやっぱりエレベータには乗れないそうだ。私が乗ったらエレベータは落ちるよ。だから乗らないの。
妹はそう言って話を締めくくった。
その話を聞いた一週間後妹から彼氏くんとは別れたと聞いた。喧嘩してそれっきりだそうだ。僕は彼氏くんからも話を聞こうと連絡したが音信不通で今も既読になっていない。僕は少し心配だ。普通に別れただけならいいのだけど。
次回の投稿は7/17 00:00 となります。