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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の中

作者: ヤマン

夢は幾通りの世界、今日見た夢がもしかしたら自分の未来までも変える出来事になるかもしれない。


ある日僕は、夢を見た。

それは、長い階段で煙突のような大きい螺旋階段の中腹あたりにいた。

上を見渡すと白い光が蓋のように覆い被さり、目が開けられないほど眩しく、足下は日が届くよりも深い深淵で闇が僕を誘うかのように手招きをしている。

どちらかといえば、光に向かって上るよりも、どこまで続いているかわからない闇の恐怖に鳥肌が立つくらい興奮するため、僕はどこまでも階段を下っていった。


暗い階段を一段づつ下っていくと、遠くの方で明かりが見えた。

闇の中で一つの光は、未知なる生命力を感じ、それが心の拠り所となり、いつかは、2つ3つと増え、僕が僕でいられるような気持ちにしてくれる。

そんな一つの始まりとして、期待を持ちながら光の近くまで来た。

扉が半開きの状態で、光が漏れていた。

こちらを手招きしているように思えたが、扉の向こうがどのような世界が広がっているのか興味が勝ち、怪しいながらも怖い気持ちを抑えて光の招待を追うことにした。

そこは....

大きい病院らしき施設の手術室内に通じていた。

手術で使うナイフ、ハサミが置かれているキャリア、大きい丸いライトの光を台の上で横になっている人に当てている姿が最初に目に入って来る。

機械が多くあり、何もわからない僕でも設備が整っていると思う程だ。

目の前で、妊婦さんが一人苦しそうな顔をし、今にもお腹の中にいる子が出てきそうだ。

ちょうど僕は生命の誕生に立ち向かおうとしている。

でも、何かがおかしい?!

医師もいなければ看護師もいない。

『こんな大切なときになぜ誰もいないんだ。』

思わず口に出して叫んだ。

『誰かいませんかー!』

呼んでも誰も来ない。

諦めた僕は、経験も知識もないが、何故かやらなければいけないと使命感に押しつぶされ、今から生まれてくる新しい命のためなら母体から切り離すことくらいは大丈夫だ!と、

出来ない理由が見つからなく、出来ないという感情が僕の中では消えていた。

なんとか上手く取り上げることが出来た。

なぜなら僕は産婦人科を営んでいる父の息子だからである。

両手に収まるほどの小さな体から、これでもかと言わんばかりに、大きな産声を上げて元気よく泣いていた。

『よく頑張ったね。』

満面の笑みでそう赤ちゃんに声援をおくった。

父親の気持ちが22の僕でもわかる気がする...

この無邪気な泣き顔、胸が締めつけられるかのような小さく可愛い体、僕の日常生活ではありえないほどの感動に包まれた。

父が仕事で行っていることだが、実際には経験していない。

だが、将来は夢も特に決まってないため、継ごうと思っている。

『こんなにも素晴らしい、経験をさせていただきありがとうございます。』

そう、告げた。

だが出産後、先程まで生き生きしていた色艶の良い、懸命に頑張っていた妊婦さんの顔が見る見るうちに、青白く染まっていく。

とっさに赤ちゃんをそばに置いてあった木で編んだ籠にタオルで包みそっと置き、妊婦さんの側へ駆け寄った。

『大丈夫ですか!?』

と体を揺すりながら大きな声で叫んだ。

体が冷たい...

もう行き果てて安らかな顔で眠っている。

どうしようと思った僕は、心臓部分に両手を乗せ、心肺蘇生法を試みた。

『ここでこの前やった授業の経験が活かせるとはな。』

『これであっているか分からないが助かるならば...』

必死になっていて周りがみえていなかった。

なぜだろう、視界がどんどんぼやけていく、まるで厚底のガラス瓶を覗いているようだった。

いつの間にか、僕の目から涙が溢れていた。

その瞬間、カーテンの隙間から西日が射し、細かい埃を照らした光の眩しさに目を開けた。

夢が目覚めたのだ。


思ってもない夢を見た。

僕は、これから現実でとてつもなく大きな出来事が起こるのではないか、何かの序章になることを予感していた。

なぜなら、まだ小学生の低学年で見た夢が正夢となって自分の身に降り掛かったことがある。だが、夢は一日で忘れる。

夢の情景が現実と合致したときに不意に記憶が呼び覚まされ、そういえばこんなことがあったなみたいな感じに思う。

『なつき、まだ寝てるのー早く起きなさい』

『学校遅れるよー』

一階のリビングから母の声がする。

なつきは、僕の名前で本名、柳井夏樹、今は高校2年生で色々忙しくなってくる時期に差し迫ってきている。高校生活って忙しいな。

『はーい、今行くー。』

乗り気でない返事すると重たいまぶたを必死に開けながら転ばないよう一段づつ下り、Tシャツの下の方から手を入れお腹を掻きながらリビングへ向かおうとしたその瞬間に、暗い階段を下っていた夢とリンクをした。

足元がふらつき、目の前の世界がぼやけていく。

『あれっw』

『ちょっ...まって...』

階段から転げ落ちる音が体の振動からわかる。

…………ドン

はっ

階段の衝撃が体に響き目を瞬時に見開いた。

最初に目に入ってくるのは、1~12まで書いてあるボタン、その上には液晶モニターに数字が書かれている。

周りを見渡して気付いた。

ここは、エレベータの中だ。

僕以外、人はいなさそうだ。

‘ブーーー’

動いている音がする。

‘チン’

その音に驚き、僕の動揺した気持ちを意図もしないかのように勝手に扉が開く。

モニターには、12と文字が書かれている為、多分最上階だと思う。

三歩前に出てみる。

少し広い大広間みたいな所に出た。

『廊下だろうか?』

壁や床はライトの照明で辺り淡黄色に照らされており、どことなく高級感漂うホテルみたいだ。

斜め右側をふと見るとガラス越しに月明かりに照らされた海の波が反射し、キラキラしていた。ここから見る景色は絶景で綺麗だった。

胸が突然ソワソワし始めた。

‘キンッ’

僕の立っている右後ろからエレベーターの開く音がした。

その中から、黒いスーツを着た汗だくの人が急いで地面を四足歩行気味に、目の前を通り抜けて逃げて行く姿を目で追っていた。

何のことだ?!と立ちすくむ。

男が逃げて行く方向とは逆の方から、カラカラと音を立ててゆっくりこちらの方に向かって来る車椅子に座った女性の姿が見えた。

ずっと僕の方を見ている。

『すいませーん。』

と話しかけると、女性は口を開きこう言う。

『あなたが次のお客さんね。』

何のことかさっぱりで、とっさに雰囲気に飲まれ、小さく”ハイ”と

返事をしてしまった。

『ここは、あなたが一番大切だと思う人が出てきます。現実とは異なるため、実際、生存してる人もしくは、もうなくなっている方。』

『どんなシチュエーションなのか、分からないわ。でも、その人を思う気持ちで状況が変わっていく。』

『で、何をやるかってことなんだけど大切な人救いたいでしょ?』

初めて会ったような気がしない、僕はこの人とどこか出会っているのか。

このまま進まないと思い、返事をした。

『まあ...心残りがあるのはありますけど...』

思ってみれば、圧力が強いな。

『何なんですかズカズカとわかったような口調で。』

『本当に救えるならば救いたいですよ。』

怒り口調で返すが、平常心を保った顔をしていた。

『まあまあ焦らずとも話は逃げたりせんよ。』

『今いるのは、あなたの世界で私はその案内人。』

『じゃあ僕の世界だったらさっき逃げていった人は誰なんですか?』

『ああ、先程の方?』

『あなたよ』

『僕ですか?二人いるわけないじゃないですか。現にここに居るのですから。』

『ドッペルゲンガーみたいなものよ。ああならないように頑張りなさい。』

僕の中では、まだ理解にたどり着いていないがそう言うのだから飲み込むことにした。

『話変わるけど、あなたが抱えている胸の奥深く、こころの扉が錆びついたままよ。このままじゃあなた自信腐ってしまうわ。』

そんなことないと思いながらも、どこか自分を肯定する自分がいて、後悔が恐怖へと変わるのが嫌だった。

自分への償いではないが、思いを馳せることができるのなら過去に向き合っていきたいと強く願い、前を向くと決心がついた。

そのこととは別のことだが、一つ気になる点があった。

『先程の...自分?は、なぜ逃げ去っていたのでしょうか?』

『まだあんたには、わからないと思うから行ってしまうわね。』

『弱いのよあんたは。相手の気持ちをわかって救うことすらしない。だからわからなくなているの。』

『要は、心も体も逃げたのよ。』

女性の言い放つ、言葉の重みが僕の今までの言動と合っていて、すごく心に突き刺さった。

『人って、それぞれ個性ってものを持っている。個性が一定の陣地を過ぎると、自分を見失ってしまうものだ。それが、人間なのさ。』

『あなたも、いつかは逃げ出したいときが来るだろう、でも、そうならないように願っているよ。』

そう告げ、僕が乗ってきたエレベーターで去って行った。

まだ、話足りないことが多く残っていたが、どこかに行ってしまっては仕方がないと思い、ふと首を左に振ると途端、目の前に幼い女の子が立っていた。

カラフルな色でキャラクターの絵が描かれたTシャツにジーンズの短パン、少し汚れた赤いスニーカー、肩がけの小さいバッグ、小学生高学年くらいに見える。

『ぁぁぁぁぁぁあ』

思っても見ない出会いがあった。

『お兄ちゃんどうしたの?』

もう抑えきれないほどの涙が世界を薄めていった。

『ううん。君に出会えたことが嬉しくて。。』

目をつぶり頭を下げこみ上げる気持ちが脳裏の記憶とともに段々と蘇ってくる。

昔、幼稚園年長さん、あれは夏休みだったか。

家族連れで父の同僚の家族と一緒に海へ出かけていた。

その日は、朝が早く外が暗いまま父が運転する横でボケボケしていた。

少しづつ明るくなる空を眺める。

天気が良くて空の濃い青が、ずっと見つめているとどんどん奥まで引き込まれそうなほど綺麗で、今日はいいことが起こる予感を感じていた。

休憩をはさみ丸々2時間弱かかって着いたのが、広い海水浴場だった。

聞いていたよりも大きくてテンションが上がっていた。

もう、お昼時。お盆真っ最中なのか、大勢の人で溢れかえっていた。

颯爽と水着に着替え、準備を終えてすぐに海に飛び込みたかった僕は、サンダルを忘れ、日光がギラギラ輝く真夏に照らされた熱々の砂浜に全力疾走で海へダイブしていく。

遠くから様子を見ていた父の娘さんが、僕の跡ついて、サンダルを届けに来てくれた。

『熱いのになんで、裸足なのよ。』

『よく耐えられたわね。』

『あんた馬鹿なの?』

と初対面でもガツガツとお母さんばりの口調で強く注意された。

しかし、その言葉とは裏腹に足を海に入れた瞬間微笑んだ。

『冷たい!w』

『なんだ、お前だって楽しんだろ?』

仏頂面で照れていた。

『私だって、楽しんじゃだめなの?』

細く色白な腕に足、黄色いワンピースのスカートが海の潮風になびき、このまま時が過ぎなければいいのにと、今になっては愛おしく思えた。

彼女の楽しそうな姿を見ていた。

さっきまでとは違う、胸の奥から湧き上がるとても言い難い、新しい感覚が僕の心を優しく包む。

今となって、あれは恋だと感じている。

それからというもの、夏の間だけでいいからと僕の無理なお願いが通り、両親同意のもと二人きりで会う機会を増やしていった。

まだ幼い為、遠出は出来なかったが、自転車を彼女がいる街へとワクワクな気持ちとともに走らせ、彼女の家でゲームをし、駄菓子屋でお菓子、アイスなど買い、公園で見せ合いながら食べたりと、休日を過ごす日々が続く。

友達と遊ぶ日もある、それはそれでとても楽しいが、彼女と居るときは別の楽しさがある。

会える日は、優先して必ず会うようにした。

会う日数が重なれば重なるほど思いが募り、いつの間にか、彼女が僕の世界の一部になっていった。

周りから見たら、変なことだと思う。でも、それだけ恋というものは、好きという気持ちは、化学変化で結び合っているのだ。

夏が終わりに近づいてきた8月の末頃、いつものように自転車をこいで彼女のとこへ向かっている途中、遠くの方から’ドン’と大きな音がした。

周りから近所の人、通行人など多くの人だかりができていた。

少しして’ウーー’と救急車のサイレンが徐々に大きく響く。

好奇心で、いても立ってもいられず全速力で現場の近くまで来た。

人だかりの中へ入って行く。

見えたのは、一人の少女とバイクの運転手、離れたところに軽自動車がある。

バイクはエンジンがかかったまま横になっており、事故を回避しようとしたのか、濃い黒のタイヤ痕とともに、ガードレールに激突し煙を上げた軽自動車。

バイクにぶつかったのか少女は頭から血を流し、バイクの運転手が駆け寄り懸命な応急処置を施している。

『僕と同い年位の子っぽいな。』

少女をじっと見つめた。

『まさか!』

『お前...なのか?』

感情を堪え彼女のそばに向かう。

『え...なんで...』

『未来永劫、一緒に居るって...』

『僕がついていれば何があっても大丈夫って...』

『嘘でもいいから!うんていってくれよぉ』

『おい!何してくれてんだ!こんな世界があってたまるか!』

つい、正気を失いバイクの運転手に向かい口を叩く。

『ねぇ...私が遠出したから...私いけない子だね。』

そう彼女が告げる。

堪えきれない涙が溢れ、彼女のほっぺたにポタッと垂れ落ちる。

『心臓が悪くてね、でも無理しても今度は私から会いに行きたかった...』

『ごめん..ね.......』

後に続く言葉はなかった。


母から聞いた話によると、病院に緊急搬送され集中治療室で手術が行われた。

だが、病院に着いた頃にはすでに息を引き取っていたそうだ。

1ヶ月学校に行かず部屋に引きこもったまま出てこなかった。

それから表に顔出したのは、2ヶ月後のことだった。

ある時夢を見た。

彼女と一緒に成長していき、やがて中学生になり、高校では今まで遊んでいた関係が恋愛対象として徐々に芽生えていく。社会人になっていく身として互いに苦難を乗り越えていき、やがて春が近づき出した頃、プロポーズなんか恥ずかしながらも真剣に向き合いながら告げたり。愛し合う中で、子供も生まれ幸せな家庭を持ち、親の役割を全うし疲れたなって思う日もあるでも、それも人生の醍醐味として楽しんだり。

時がすぎるのが愛おしく、おじいちゃん、おばあちゃんになってでも愛し続けている。

なんて、妄想というか望んでいた未来の、将来の物語を見せてくれたのだと思った。

これは、彼女からこれから強く生きてほしいと言っているメッセージのように取れた。

『彼女の分まで生きないと。』

そう、強く思った。

だがこのことは、心の奥のポケットにしまうことにしよう、感覚的に自分へ言い聞かせていた。

言葉にしてしまうと言霊になり、たちまちあの頃の記憶が蘇る。

また会えるとしたら彼女がいいとずっと思う、願いが叶うとしたら私もあの世へ道が開くときだと思う。


恋愛ってわからないもんだね、経験してみないと。

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