六、小説
僕の娘のヒカルは車の中で案外快適そうにくつろいでいた。
「いったい何を書いているの…」
「手紙だよ。ちょっとギャングさんと仲良くなったの」
僕はすでに彼らから車を丸ごと頂戴し、彼らに血清とプリペイドの携帯電話を渡して立ち去った後だった。
「お父さん。今からどこか行くの?」
「もう日本に帰ろうかなって思うよ。その手紙はどうやってギャングさんに渡すの…」
「カルロスおじさんに渡そうって思うけれど正直怖くて渡せないの」
それはそうだろう。一時的とはいえヒカルは僕抜きで彼らとともにいたのだ。
「乱暴されなかった…」
「それは大丈夫。でもお父さん。あのギャングさんたち“芸”って言ってたよ。日本語も知ってるんだね」
「…まあヒカルが無事なら何よりだよ」
「私、手紙にお大事にって書いたんだけれど、伝えられないな。どんなに怖い相手でもいいところはあるっていうのはお父さんが言ってたよね…」
「それでもね、ヒカル。自分の身を危険にさらす場合はその限りじゃないよ。もしどうしても伝えたいときはその危険が危険でもなんでもないって思えるような人が助けてくれるさ」
つまりは僕の役目で、まあ帰り際にカルロスの入院している病院を調べて僕が書いた罵詈雑言でも投げつけてやろう。
「私、日本に帰ってから友達なんてできるかな…」
「ヒカルはたくさん面白いことしてきたからそのお話をすれば、きっとできるよ」
「うん!」
さて僕は砂漠を後にする。ヒカルを見ていて、僕は子供を導く仕事がしたいって思った。僕が今までしてきたことが、後から歩き出す子供たちの道しるべになればいいな。そんな風に思って。
ー了ー