おっさん、目が覚めるとそこは異世界だった
次に目が覚めたのは、どこかの平原だった。
すぐ近くに何かの街のようなものが見える。
街は数十メートルはありそうな高い街壁に囲まれており、明らかにここが日本ではないことがわかる。
「異世界に。来たんだよな」
俺はそうしみじみとつぶやいた。
まだ実感がわかない。
とりあえず、異世界転移の定番をやってみるか。
「ステータス」
……
しかし、何も起きなかった。
「ダメか」
ゲームのような異世界ではないらしい。
スキルがあるから、てっきりステータスもあるかと思ったのだが、そっちはないようだ。
「とりあえず、近くに人工建造物があるんだし、そっちのほうに行ってみるか」
俺が独り言を言いながらそう言って歩き出すと、右足で何か固いものを蹴っ飛ばした。
拾い上げてみると、それはやりだった。
「なんだこれ?」
俺がそう呟くと、メッセージウィンドウが表示される。
『初心者冒険者の槍 この槍は初心者冒険者が使うようなやり。モンスターへ攻撃を与えたことはない。軽く持ち運びやすいが、穂先はあまりとがっておらず、攻撃力はあまりない。ユーリアの加護があるため、頑丈さは折り紙付き。製作者は……』
おぉ!
鑑定結果が出た!
というか、鑑定結果長!
ぜんぜんいらない情報も出てきてるし。
ざっと読んでみたが、製作者の思い入れとか、材料となった木の植えられた日まで出てきている。
というか、これ百文字くらい表示されてて、最初から読んで行けば読んだ分だけ下にスクロールされて行く仕様になってる。
なんというか、思ったより使いにくい。
まあ、全然何も出ないよりはましなんだが。
「これ、自分自身を鑑定してみたらどうなるんだ?」
俺はそう思って自分の手を見つめながら『鑑定』と心の中で呟く。
……
しかしなにも起こらない。
試しに同じ方法でその辺の草を鑑定してみるとちゃんと鑑定される。
自分は鑑定できないのか、人間は鑑定できないのか、はたまた、生物は鑑定できないのか……。
三つ目だったら最悪だ。
だが、少なくとも無生物は鑑定できる。
そして、その鑑定結果にはそれに関係する事柄なども含まれるようだ。
そのせいで鑑定結果がめちゃくちゃ長くなってるみたいだが。
「待てよ? ということは、あの城壁を鑑定すれば、町の内情とかもわかるんじゃないか?」
思い立ったが吉日、俺はさっそく城壁へ向かっていく。
少し息切れをしながら城壁につくと、城壁を鑑定してみた。
『エルファンロード王国、王都城壁 この城壁は百年前の戦争の際に増築されたもの。上部にはバリスタが備え付けられており、弓兵の待機場所などがある。城壁から見る夕日はきれいで、巡回塀の中には、その時間を狙って……』
おぉ! 思った通りの情報が出た。
というか、さっきよりも情報量がめちゃくちゃ多い。
だが、情報源はここしかない。
とりあえず、片っ端から読んでいくか。
***
わかったことは、田舎から出てきたものとして、冒険者登録をしに来たといえば、門の中には入れるらしい。
冒険者ギルドは門から入ってすぐにあり、門衛はそこに入っていくまでずっとにらみつけてくるらしいが、マニュアルにそう書いてあるので、そこは気にしなくていいとか。
そこはどうでもいいか。
とりあえず、身元の定かではないものが成れるのは冒険者くらいで、最初に冒険者登録をする必要があるということはわかった。
まあ、いろいろ選択肢があるより、一つしかないほうが迷わなくて済むからいい。
とりあえず、ここから壁沿いにしばらく行ったところに城門があるようなので、そこまで行ってみよう。
***
城門には二人の兵が立っていた。
街道ではなく、城壁沿いにやってきた俺のことをいぶかしげな眼で見ている。
まいったな。
確かに、道を通らず、城壁で何をしていたのかってなるよな。
俺は仕方ないので、門衛へと近づいた。
「とまれ! お前は何者だ!」
俺が門の10メートルほど手前まで行くと、門衛は槍を俺のほうに向かって構えてくる。
まあ、当然のことだと思う。
俺だってそうする。
俺はその場で立ち止まって話し出した。
「すみません。旅のものです。この街には冒険者になるために向かっていたのですが、道に迷ってしまって」
「なに? 冒険者になりに?」
門衛はいぶかし気な顔で俺のほうを見てくる。
旅の人間が冒険者になるのは珍しいことらしい。
旅して食っていけるなら、わざわざどこかに定住する必要はないからだ。
鑑定してそういうこともわかっていたので、ちゃんとカバーストーリーは考えてある。
「えぇ。もう結構な年なので、どこかの国に腰を落ち着けようかと思って。風のうわさで、この国なら、冒険者としてなら街の中に住まうことを許されると聞きました……」
ふつうは数日間しか街の中にはいられないが、この国は冒険者として登録すれば、国民として町の中で過ごすことを許される。
まあ、冒険者はどの町も街の最外区以外への立ち入りは許されていない。
その上、その最外区には冒険者だけが住んでいる。
正式な国民は最外区への立ち入りは自由だが、用事がなければまずくることはないらしい。
簡単に言うと、冒険者は準国民で正式な国民ではないみたいな位置づけだ。
戦争のときには捨て駒のようにして使われることもあるとか。
そうはいっても、壁の中と外では雲泥の差がある。
なんせ、朝起きたらそこにモンスターがいるってことがないんだからな。
「なるほどな。数年に一人くらいの割合でそういうものも来ると聞いたことがある」
門衛はまだいぶかしげな表情で俺のほうを見ている。
槍もまだ突き付けられたままだ。
これ以上の状況は考えていないんだが、どうしたものか。
そんなことを考えていると、奥からきれいな女性の声が聞こえてきた。
「お前たち。どうかしたのか?」
「ファ、ファナ様!」
門の中から出て来たのは金髪碧眼で気の強そうな女性だった。
出来上がったらどんどん投稿していきます。