女錬金術師、おっさんを観察する。
アルクとタクヤの仲良くなっていくシーンは長くなりそうなのでカットしてました。
でも、さすがにいきなり過ぎる感じになったので、アルク視点のダイジェストで載せます。
コチャに来た次の日、夕方ごろに部屋の扉がノックされる。
おそらく、タクヤが来たのだろう。
「空いているから入ってもいいよ」
「おじゃまします。女の子が部屋の扉を開けっぱなしとか不用心だぞ?」
タクヤは入ってきてそんなことをいう。
私は苦笑いしながら返事をする。
「大丈夫だよ。こう見えてもレベルは結構高いんだ」
「レベル? あぁ。レベルね。そうなのか」
レベルと聞いてタクヤは一瞬キョトンとした顔をしたが、まさかレベルを知らないと言うことあるまい。
それに、私にも見つけることはできないが、私には隠密の護衛がついているらしい。
この街にいる程度の者で私のことを害することはできないだろう。
私は大丈夫だと言っているのに、タクヤは心配そうに言ってくる。
「アルクがどれだけ強くても、女の子なんだから気をつけないとダメだぞ?」
「……わかったよ。明日から鍵を閉めるようにするよ」
「それ、やらない奴だろ。今日俺が帰った後からしてくれよ」
タクヤは苦笑いしながらそう言う。
私も釣られるように笑ってしまった。
***
翌日。
昨日と同じぐらいの時間に部屋がノックされた。
「誰だい?」
そうは聞いてみるが、今私のところに訪ねてくる人間なんて一人だけだ。
「タクヤだ」
「入って……。あー。今扉を開けるよ」
私は扉の近くに行き、鍵を開ける。
帰る時にタクヤが口を酸っぱく言ってきたので、昨日タクヤが帰った後から鍵を閉めている。
鍵を開けて扉を開けるとタクヤはホッとしたような顔をする。
もしかしたら、帰った後も私のことを案じてくれていたのかもしれない。
別に鍵なんてかけてなくても私の安全は揺るがないよ。
「今日はちゃんと鍵をかけてたんだな」
「昨日あれだけ言われたからね」
今日、荷物を受け取りに商人ギルドに行って帰ってきた時にも耳にタクヤのセリフが残っていたんだから相当だ。
タクヤは入ってきて一瞬ぎょっとした表情になる。
彼は部屋の中を見回している。
そういえば、タクヤの前で錬成をするのは初めてだったか。
この器具も今日届いたところだし。
「あぁ。採取からの経過時間でも変化するのか興味があってね。ある程度ここで錬成をしてしまおうと思っているんだよ」
「アルクは錬金術のスキルを持ってたのか」
そういえば、タクヤにはスキルのことを言っていなかったっけ?
「……そうだよ。まあ、錬金術スキルがなくても練成自体はできるから、そこまで有用なスキルじゃないけどね」
それは嘘だ。
錬金術のスキルは貴重な上、ポーションの効能や作成成功率を上げる効果がある。
どこの国でも引っ張りだこなスキルだ。
皆、私が錬金術のスキルを持っていると知ると、目の色を変えて媚び諂ってくる。
タクヤとの気安い会話は楽しかったが、まあ、嘘をついてまで続けたいものでもない。
友人にはファナとか……。
……ファナがいるからな。
タクヤは私の方をくるりと振り向く。
その瞳には私の予想とは反して、キラキラした憧れの色が浮かんでいる。
「スッゲーー!」
予想外の反応に、私は一歩退いた。
「アルクすげーな! 錬金術ってあれだろう? 金とかポーションとか作っちゃうんだろ?」
「き、金は作れないが、ポーションは今作っているぞ?」
「へー」
私が錬成している途中の液体をタクヤはマジマジと覗き込む。
その瞳には少年のような輝きを含んでいる。
それと、すまないがそれはただの水だ。
タクヤはそのキラキラした瞳を私の方に向ける。
「人の役に立てることができるなんて、アルクは本当にすごいな!」
そんなふうに純粋に褒められたのは初めてで、私は恥ずかしくて顔を背けてしまった。
「そ、そんなことより、今日の収集分を早く売ってくれないか?」
「あ、そうだったな。手を止めさせてごめん」
タクヤはカバンの中から『スライムの欠片』や『ブラックウルフの牙』を取り出していく。
なんというか、こうやって褒められるのは嬉しいものだな。
***
ノックの音がしたので、私は部屋の扉を開ける。
「せめて誰か確認してから開けろよ」
「私の部屋に食べ物を持ってくるのなんて、タクヤくらいのものだよ」
扉越しにでもいい匂いがしてきていた。
ここ数日、タクヤは私に差し入れを買ってくる。
差し入れはタクヤオススメの屋台料理だ。
私が錬金術に集中して食事を疎かにしていると知ると、次の日から色々と買ってきてくれるようになった。
いつもおいしいものを買ってきてくれるので、そこまで文句はない。
今日は串焼きのようだ。
「いただきます」
タクヤはおかしな掛け声を上げて食べ始める。
どうやら、タクヤの故郷での食前の祈りのようなものらしい。
私も食前の祈りを捧げてから串焼きを食べ始める。
「……」
ふと、隣を見ると、タクヤは黙々と串焼きを食べていた。
いつもは「ウメー」とか「このタレが最高だな!」とか騒がしく食べているのに。
私が訝しげな表情でタクヤを見ていると、タクヤと目があった。
「? どうかしたのか?」
「……それはこっちのセリフだよ。今日は静かだが、どうかしたのかい?」
タクヤは一瞬驚いたような顔をする。
そして、苦笑いをしてポツポツと説明を始める。
話をまとめると、彼の友人の娘が病気になったらしい。
その薬が王都近くの大きな街でしか手に入らない。
その上、備蓄しておくような薬でもないので、作るのにも時間がかかる。
今、早馬で買いにいっているが、間に合うかどうか怪しいそうだ。
私は机のメモにサラサラと薬の材料をかきあげる。
私がそれを渡すと、タクヤはキョトンとした顔をする。
「これは?」
「それは薬の材料だ。コチャの近くの森で採れたはずだ。採ってきてくれれば、私が錬成しよう」
「できるのか!? ありがとう! すぐに探してくる!」
タクヤはそう言って走り去っていった。
今日はまだ素材を買い取ってないんだが……。
まあ、あの材料を集めるのに数日はかかるだろうから、
「私も彼に毒されたかな」
王都にいた時の私なら、作ってやろうなんて言わなかった。
タクヤが辛そうな顔をしているのが嫌で、錬成すると言ってしまった。
走り去る前に見せたタクヤの笑顔と『ありがとう』というセリフが思い出される。
「…‥まあ、悪くないな」
人に感謝されるのは思ったより気持ちいいことだ。
そんなことを思いながら、私は薬の錬成の準備を始めた。




