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逃亡

 バアルゼフに致命的一撃を加えて俺は勝利を確信する。


 じわじわと潰した鼓膜が再生していくのを感じながら後ろの仲間の声が響いてくる。



「やったのね!?」


「やったのだ!!」



 疲労困憊でその場にドッと倒れる俺にジブリールが駆け寄って回復魔法を当ててくれる。



「お疲れ様ですカムイさん」


「あぁ、何とかやり遂げられたよ……」



 安堵を浮かべているとアンクは倒れたバアルゼフのほうを見つめる。

 空間は崩れかかってて最早虫の息の状態だ。



「……まだ奴は息があるのか?」


「微弱ですが……まだ生きてはいます。どうしますか? 尋問用に生かしますか?」


「……俺は今は動けない。アンク、お前に処分は任せる」


「かしこまりました」



 アンクはツメを出して致命傷のバアルゼフに手にかけようと構える。


 すると、バアルゼフは虫の息の状態で震える指先を動かして呟く。



「――『ダ・カーポ』…………!」



 そう呟くと突如として急速に空間が先ほどの状態へと戻り始める。

 それを見たアンクは急いで首をかっ切ろうとするが倒れるバアルゼフの姿はその場から消える。


「……!?」


 そして、あっという間にバアルゼフは傷一つない元の状態で立ち、異空間もその力を取り戻していた。


 一連の動きに俺達は驚きを隠せないでいるとバアルゼフはパチパチと拍手をして話しかけてくる。


「お見事でした。追い詰められた末に私の能力を理解して突破口を見出だし、それを実行する勇気にも感服致しました。最大限の賛美をお送りしましょう」


 余裕を持ってこちらを讃えるバアルゼフを見て俺は思わず言葉が漏れる。



「何故……!? 一撃で仕留めたはずじゃ……!?」


「『ダ・カーポ』…………まさか一連の時間を巻き戻したというのですか!?」


「えぇ、私にまさか『ダ・カーポ』を使わせるとは思いはしませんでした。やはりあなた方……特にカムイさんは殺すには実に惜しい逸材ですね」



 非常にマズイ。

 相手は全快、そしてこっちは疲労困憊で魔力もない。


 しかし、このまま諦めるワケにもいかない。

 弱点は見抜いたんだ、もう一度奴に一撃を――


「うおおおお……!」


 叫びながら再び真っ直ぐバアルゼフに向かう。

 そしてバアルゼフはそれを見て杖を動かして唱える。


「――『フリオーソ』!!」


 すると、周りの楽団から鋭く激しい具現化された音が俺の全身を切り刻む。

 絶え間なく来る音の斬撃に俺は一方的にやられる。



「ぐああああ!!」


「対象に直接影響するモノは確かに聴覚を絶てば対処できます。しかし、私の能力は“音”そのものを操るのです。空気を振動し伝わる音の波長を操り、神速の鋭利な凶器に変えることができるのですよ」



 勝てない。

 少なくとも今の状況じゃ不可能だ。

 そう直感的に思わせるほどのことであった。


 傷つき倒れる俺に対してバアルゼフは問いかけてくる。



「これが最後のチャンスです。我々に協力して戴けませんか?」


「なら……ない……!」


「誠に残念です。それではフィナーレと行きましょうか……」



 バアルゼフが杖を振り上げて楽団達がフィナーレの溜めを行う。


 覚悟を決めた。

 仲間達は迫り来るフィナーレに対し必死の抵抗をしようと試みる。

 指先一つ動かせない俺はただただ祈る他なかった。


 演奏がピークに達する。

 バアルゼフは大きく手を振り上げる。



「――おや? これは…………」



 ――しかし、バアルゼフは突如動きを止めて杖を下ろす。

 それに呼応するように楽団も異空間も消え去る。


 辺りはすっかり日が落ちた夜の廃墟だ。

 攻撃を止めたバアルゼフに対してシャルロットは問いかける。



「ちょっと……! どういうつもり!?」


「事情が変わりました。いや、当初の目的は果たせていたのですがね。既に天使(エンジェル)の回収は運ばせ終えていたのですが……」



 もう既に天使(エンジェル)の回収はあの間に終わっていたというのか。

 だがそれでもここで俺達を仕留めない理由にはならないはずだ。


 バアルゼフは宙を舞って呟く。



「たった今直々に通達がありましてね。それにもうすぐここも“掃除”の予定です」


「“掃除”……?」


「えぇ、あの子のお仕事です。命惜しくば全力でここを立ち去ることをオススメしましょう」



 そう告げるとバアルゼフはこの場から飛んで離れて行く。

 急に止めて立ち去ったのもそうだが、“掃除”とは一体――



 ゴゴゴゴ……!



 地鳴りと共に巨大な機械類の音が辺りから響き渡る。


「今度は何よ!? 一体何処から……」


 そして“掃除”という言葉にある一つの存在が頭に過る。


 辺りの様子を確認する。

 夜の闇に薄暗い霧が漂い、街の外壁の向こうに真っ赤な一つ目のような輝きが見える。


「――――“掃除屋”……!!」


 先日、セブナットを襲った巨大な“掃除屋”が再び俺の視界の内に入ってきた。


 外壁を容易く破壊し、その瓦礫を取り込んで“掃除屋”は赤い蒸気を吹き出して前進してくる。



「嘘でしょ!? “掃除屋”まで!?」


「アレが私達を始末するから彼は引いたのでしょうか……」


「ヤバイのだ!?」



 “掃除屋”の魔王軍での役割は侵略した街を痕跡すら残らずに徹底的に排除することだ。

 そしてその掃除対象に俺達も入ってるというワケだ。


 “掃除屋”本体以外にも子機となるモノは既に街の外周を覆い尽くしている。

 このままじっとしては“掃除”されてしまう。



「――逃げるぞ!!」


「はい!!」



 力を振り絞ってその場から走り出す。

 しかし、外周は囲まれ逃げ場はない。


 ウジャウジャといる子機の相手をする余裕もない。

 何とか突破できたとしても追手や増援の相手をしていては逃げきれない。


 八方塞がりの状況だ。



「シャルロット……ここから全員をこの場から逃げ出せる魔法とかないか?」


「……悪いけど無理ね。全員を移動させられるだけの転移魔法を使う魔力は残されてないし、オマケにあの周りの霧には転移魔法を阻む効果もあるわ。ここに来る前にワープポイントを作っておけば二、三人は逃がせたかもしれないけど……今さら言ってもダメよね」



 魔法による逃亡も無理か。

 せっかく一命を取り留めたというのにこのままじゃ全滅だ。


 何か手段は……打開するためのアイテムは――


 ガサガサ……


 腰掛けの袋が揺れている。


「……なんだ?」


 突然どうしたのかと手を入れると手に虫が這い回るような感触がして思わず腕を上げる。


「うおっ!?」


 すると出てきたモノは黄金で出来た蜘蛛のアクセサリーであった。

 カサカサと動き回る蜘蛛のソレは本物と見間違うほどのものであった。


 黄金の蜘蛛はしばらく動いた後にピタリと止まって頭をこちらに向ける。

 そして目が赤く光り、蜘蛛から音声が流れる。



 “――“スパイダーズネットサービス”をご利用なさいますか?”


「蜘蛛が喋ったのだ!?」



 ワケが分からなかったが直感的にコレが今の状況を打開できるものかもしれないと俺は思った。

 そして俺は叫ぶ。



「あぁ!! 利用させてくれ!!」


「ちょっと!? 一体どうなるか分かって……」


 “利用者五名確認――転送を開始致します”



 すると俺達は光に包まれ、一瞬でその場から移動する。

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