出発
特異な能力“奇跡”があることを確信した俺はあることを実行しようとする。
が、それにはまだ準備が足りない。
「カムイお兄ちゃん、肉食べないの? 全部ルミンが食べるぞ?」
「あぁ……俺も頂くとするよ……」
肉を頬張る。
やはり固く臭みが残る。
……アレを使うか。
「ルミン、ちょっと待ってろ」
「ん? どこ行くのだ?」
「肉を美味しくしてやるのさ」
薬草が生えていた場所を探し残っていた数本を取る。
薬草を肉に巻くことで臭みを中和し苦味を相殺するのだ。
最後の一本を取ろうとした際に小さいネズミがムシャムシャと囓っているのを発見した。
食える部分を食われないようにネズミをさっと仕留める。
倒したネズミが何かを持っているのを確認する。
“奇跡”が本物ならこいつも何か凄い物を持ってるんじゃ……。
……チーズだ。
それも人間が作ったような超旨そうなチーズ。
しかも丁寧に切り分けた形の。
ネズミが持ってた物なのに不潔さなど感じさせないほどの魅力が出ている。
……頭が理解することを拒否していたが“奇跡”とはこういうものだろうと無理矢理納得してみた。
というかネズミの最高レアアイテムがチーズって……それでいいのかよ……。
薬草とチーズを回収しルミンの元へ戻る。
「待たせたな。ほら、これを使ってだな……」
薬草を焼いた肉に巻きチーズをスライスして乗せる。
そしてそれを一気に頬張る。
「おぉ、中々……薬草で中和されて柔らかくなってやがるな。おまけにチーズが凄く旨い……ルミンも食うか?」
「もちろん! 早く食べたいのだ!」
同じように作りルミンに渡す。
ルミンは旨い旨いと言いながら食べる。
おかわりも要求されたので作れるだけ作ってあげた。
「ぐーがー……ぐーがー……すぴー…………」
たらふく食べて寝てしまったようだ。
寝てるルミンを背負い家まで送りに戻りルミンをベッドの上に寝かせる。
「よいしょっと……子供は寝付くのが早いな。じゃあお休み……」
壁に寄りかかり眠りにつく。
◇
「おはようなのだ!! 冒険に出発なのだ!!」
大声で叩き起こされる。
朝っぱらから耳が痛い。
「……よし。じゃあ出発の準備だな。ルミン、瓶や袋ってないか?」
「冒険に必要なのか?じゃあ使えそうなの探してくるのだ!」
荒れた部屋からルミンは物をそこらじゅうにばら蒔きながら袋や瓶を探す。
そして使えそうな物を全部引っ張り出してくれた。
「瓶は……割れてるのが多いけど鍋とかで代用するか……袋は申し分ないな……」
「これ全部使うのか?ちょっと多くないか?」
「ん?あぁ……まだ準備は残ってるしな」
一度外に出る。
そこら辺のスライムを狩りソーマを集め瓶や鍋に入れていく。
薬は多いに越したことはない。
ルミンに使えば強化アイテムにもなるし金策にも使えそうだろう。
……伝説級のアイテムが大量に市場に出回るのもどうかと思うがそれは後々考えよう。
「カムイお兄ちゃん! それって昨日ルミンに使ってくれたお薬? スライムからこんな凄いお薬作り出せちゃうのだ!?」
そうか、ルミンから見たら俺が神秘のソーマを作り出してるように見えるのか……。
この力にもっと早く気付けてたらリアンとも離れずに済んだのかな…………いや、今はできることをするだけだ。
「……これくらいでいいかな?ちょっと多すぎたか……」
瓶や鍋に詰められた大量のソーマ。
それらを大きな袋が複数で詰めてパンパンになっている。
多すぎて袋を引きずりながら歩くことになるな……。
「よーし! じゃあ荷物はルミンに任せて!!」
ルミンはパンパンの袋をひょいと担ぎ上げる。
そして器用に大きな袋の上に更に袋を乗せてバランスを取りながら歩く。
それらを何の苦もなくできているようだ。
「準備万端! 出発するのだ!!」
「お、おう……」
やはり獣人の身体能力に驚かされる。
年上の俺が小さい女の子に荷物を全部持たせることにちょっと罪悪感がしてくる……。
「ところで何処に行けばいいのだ?」
「…………」
そういえば俺はここが何処かも知らなかった。
リアン達がいるとこと地続きなのかもわからないんだった……。
「わからないならわかる人に聞けばいいのだ! ルミンはいい魔法使いさんがいる森を知ってるのだ! 多分行けば教えてくれると思うのだ!」
「……何から何まですまない。じゃあ、その魔法使いのいる森まで案内してくれないか?」
「わかったのだ! 出発進行なのだ!」
大量の荷物を持ってるのにも関わらず凄いスピードで駆けていく。
俺はルミンが向かう先を走って追い付こうとするのだった。