勇者王vs四大魔候 その1
「やった……のか?」
空を見上げて倒れる俺は疲労困憊状態であった。
全身に力が入らない。
本当に仕留め切れたのか確かめなければならないし、何よりまだ全然解決できていない問題が山のようにある。
そう思っているとすぐ近くのガレキからクラウスの怪物が動き出す。
だが、その姿は先の戦いの影響か無理な強化の代償か、もしくはその両方の要因が積み重なった結果なのか酷く衰弱しており、再生しきらない傷口から煙のように身体が崩壊しかけていた。
倒れる俺の前にシャルロットが駆けつけてくる。
顔を覗き込むように俺の様子を確認すると労いの言葉をかけてくれた。
「ひとまずお疲れ様。クラウスの奴はもう放っておいても直にくたばるでしょうね。まだ元凶はいるみたいだけど……その身体じゃ今すぐ動くには辛いでしょ。ジブリールに頼んで回復させてあげるからしばらく空でも眺めてなさい」
「…………あぁ、そうさせてもらうよ」
そう言われて身体を休めていると崩壊しかけているクラウスのほうにふと目をやる。
ピクピクと指先を動かし何かに掴もうとするも先端から灰のように散って行く光景が見えた。
殆ど死にかけのクラウスの口から零れた言葉が耳に入る。
「キエル……シヌ…………イヤダ…………マダ…………ボクハ…………」
最期にあんな姿になってまでやりたかったことなのだろうか。
己の鍛え上げた武術や剣技、魔法を一切必要としないただ暴れるだけの魔物と化した最期。
あいつに同情するつもりはないが、あんな状態の最期を迎えるという点だけは可哀想だと思った。
早く回復しないとな……使徒のこともあるし、何より本当に『血の霧』を仕留められたのか確かめないと。
どこかに奴の亡骸があるはずだ、アレで全身が跡形もなく消えたとは考えづらい。
そう思い動かせる部分だけでも動かし、辺りを見渡す。
辺りは先ほどの戦闘でボロボロに崩壊していた。
そして俺はある建物の上に奇妙な物体があることを遠目で確認する。
「……ん? あそこにいるのは…………」
それは丸い鉄の塊のようであった。
まるで玩具のようなそれには赤く光る無機質な機械の単眼があり、絶えずギョロギョロと動いていた。
卵のような鉄の胴体から伸びる四肢は遠目で見ても無数の歯車や部品から複雑に構成された物だとわかった。
そしてその機械人形の腕に抱えているものを理解する。
先ほど攻撃によって傷つき倒れたザヴィアだった。
「おい……あれって…………」
俺は遠くの機械人形と目線が合う。
一瞬、あの機械の赤い目が光ったように見えた。
そして気がついた時にはそれが目と鼻の先まで来ていた。
「えっ…………?」
「…………ハイジョ、ジッコウ」
機械人形の手にある銃口から青い光が一瞬見えた。
そして俺は完全に今、手遅れの状態だとようやく悟る。
一瞬で距離を詰められた、しかも俺は倒れている状態だ、避けようがない。
ガッ……!
金属の衝撃音が響く。
ルミンが目の前の機械人形の側面を攻撃した。
銃口は少しそれて後方のガレキのほうへビームが飛ぶ。
「カムイお兄ちゃん……! 大丈夫!?」
「ル、ルミン……! 助かった……ありがとう」
「あの固そうなオモチャみたいなのは何?」
「さぁ……でもあれがヤバいっていうのはわかる」
機械人形は姿勢を立て直すと背中についている機械で噴射して空を飛ぶ。
目をギョロギョロとさせ、電流が走る音を立てながら声らしきものが聞こえてくる。
「…………キシュウ、シッパイ、キカン、ジッコウ」
そう音を出すと猛スピードでこの場を後にする。
奇襲と逃避行動を行われ戸惑うが、すぐに重要なことに気づく。
「……マズイ、『血の霧』が連れ出されてしまった! このままじゃ逃げられる……!!」
身体を動かそうとするも力が入らない。
ルミンが抱えて走ってくれるが高速で逃げる相手に何もできないでいた。
先ほどの騒ぎを聞こえたシャルロット達はあの機械人形に気づく。
が、全員が消耗仕切っている上に、あのスピードに追い付ける者はいなかった。
そして一番近くまで追ったアンクはあるものを感じとる。
“それ”の全容を理解したのかアンクは空中で立ち止まる。
「どうしたのよ? 早く追わなくちゃダメでしょ!?」
「…………アレが向かう先をよく見てください」
「向かう先……?」
空中で立ち止まる二人が見つめる先を見る。
夜の暗闇で辺りは真っ暗であった。
だがそれでも何か夜の闇以外にも街を覆う影があるように思えた。
そして、一瞬の稲光によってその影の正体を認識する。
「…………デカ過ぎるだろ」
稲光によって見えた物……それはセブナットを囲む巨大な壁を上回る大きさのゴーレムであった。
無数の要塞が一つに組み合わせられたかのような姿……それはさながら巨大なガレキの山のようにも見えた。
身体のパーツのあちこちから黒煙や蒸気を発しており、頭に付いている巨大な単眼は機械的な冷たさと圧倒的な威圧感があった。
巨大なゴーレムの巨影は街を覆うほどであり、手の部分は分厚い壁を掴んで今にも破壊して乗り込んで来そうであった。
そしてその姿から俺はある名を思い出す。
「四大魔候……『掃除屋』……!」
『掃除屋』……
魔王軍のゴーレム部隊を率いる巨大起動要塞。
その圧倒的な物量と制圧力で蹂躙し、破壊した街から出た無数のガレキをエネルギー源とすることで奴が通った場所は何も残らないことから名付けられた異名だ。
“それ”が魔法によって操る兵器なのか『掃除屋』自体に意思が宿っているのかは誰にもわかってはいない。
ただハッキリと言えるのは魔王の持つ最大戦力の一つということだけである。
「お、大き過ぎるのだ……」
「そんな……四大魔候が一晩で二人も来るだなんて……」
「あの大きさでは……とても……」
皆が絶望していた。
当然である、誰が視界を覆うほどの大きさの怪物を前にして立ち向かえる勇気のない臆病者と言えるだろうか。
誰もその圧倒的な威圧感に動けないでいた。
そして、そんな中で先ほどの機械人形は変わらずに飛行して行く。
抱えるザヴィアを連れて『掃除屋』本体に入り込もうとする。
逃げられる……いや、いっそのことこのまま帰ってくれたほうがマシだとさえ思っていた。
俺達はただ黙って見てることしかできなかった。
突如、機械人形の真下から黄金の槍が出現し、その身体を貫く。
動きを止めた瞬間、更に無数の兵器が囲むように現れて一斉に砲撃される。
一瞬の間に集中砲火を受けたそれは抱えたザヴィアごと地上に落下する。
そして、その一連の流れを見て誰がこれをやったのかを考える。
後方の空を見る。
空を覆うほどいたケイオスドラゴンの群れは全て居なくなっており、一人の男が空中で腕を組み目の前にそびえ立つ『掃除屋』を睨んでいた。
数多のケイオスドラゴンを退け、今こうして立ち向かっていたのは勇者王モルドフその人であった。
「……『天貫く叡知』」
右手を出してそう呟くと巨大な『掃除屋』本体の周りに数十もの黄金の魔方陣が展開されて行く。
そしてそこから魔力が放出されて巨大な大砲が形作られ、その銃口が『掃除屋』の四方八方から塞ぐように銃口が向けられてゆく。
「……発射!」
その瞬間、銃口から極大エネルギーの輝きを放つビーム砲が一斉に放たれる。




