ケイオスドラゴン降臨
「どう? こんなにも成果があったのよ。これだけの武器があればあのクラウスがどう動こうときっと大丈夫よ!」
「これは……魔法武具って奴か。俺達も昼間に目にした物だな……」
夕暮れ時、集合した俺達は今日の出来事や成果を報告し合っていた。
シャルロットとアンクは教団のことは調べられなかったらしいがグレモス魔法大臣の協力を得て魔法武具をたんまりと頂いてきたみたいだった。
だが昼間の一件から大量の魔法武具に対して素直に喜べないでいた。
「どうしたのよ? そんな浮かない顔して……これだけあれば充分な戦力強化になるはずよ?」
「いや……確かに戦力強化にはなるだろうが……昼の一件のせいでな。あまりいい印象無いんだよ」
「昼の一件?」
俺は昼の一件――魔法武具を装備した騎士が突如暴走し始めて戦ったことをシャルロット達に話した。
付呪の副作用か何かは知らないがあの装備と同じ物だとすると突然暴走する危険があるかもしれないし、何より相手は何者かに操られたような挙動をしていたので使うことに抵抗があると伝えた。
「そんなことが……しかしこの武具からは特に異常な魔力や呪いの類いは感じとれません。試しに先ほど幾つか試しに使ってみたのですが充分な出力をしました。マスターが使われないのであれば構いませんが私は幾つかの装備をお借りさせて戴きます」
「そうか……わかったよ。ただ異常な事が起きればすぐに手放せよ? 何が起こるか分からないからな……」
「心配し過ぎじゃない? これ結構いい出来の付呪術式が書き込まれてるわよ。魔法の出力も地下からの魔力回路から供給されてるからかなり強いし何より魔法がロクに使えないあんたにぴったりだと思ったんだけどね……」
やはり抵抗がある俺であったがルミンはもう既に自分に合う装備をガサガサと漁って探しだしている。
そしてぴったりの物を見つけたのか拳に取り付ける爪のような武器を装備する。
「これ付ければルミンも魔法が使えるようになるのだ!?」
「えぇ、火を起こしたいとか凍らせたいとかを頭で思い浮かべて振るだけでできるみたいよ。試してみたらどう?」
「早速やってみるのだ!!」
ルミンは拳をブンブンと振り回しながら炎や氷の魔法を撒き散らして行く。
魔法の力が使えて楽しそうであった。
そういえばこういう時にルミンと一緒に楽しむタイプのジブリールは特に魔法武具については関心が薄いな……やっぱり昼の事から抵抗があるのか。
「ジブリール、お前は要らないのか?」
「私にはこの杖がありますので……回復魔法しか使えなくてもこの杖を使って行きたいんです。我が儘言ってすみませんね」
「いや、気にすることはないぞ。俺もこの武器は使う気がないしな……その杖って何か特別な物なのか?」
杖の事について尋ねるとジブリールは杖に刻まれた文字を見せてきた、杖にはジブリールの名が刻まれれていた。
「この杖は姉が私にくれた物なんです。回復魔力が強すぎる私は回復魔法を制御することが難しくて苦悩していました。見かねた姉は私のために回復魔力を制御する専用の杖を作ってくれたんです。そのおかげで応用の再生成や還元……そして過剰回復などが使えるようになりました。私はこの杖のおかげで今まで生きてこれたのだと思ってます……これを握っているとお姉様と常に共にあるような気がするんですよ」
「なるほど、そういう物だったのか。それほどまでに大切な物なら大事に使ってやらないとな」
各々が装備を整えている時に俺はふと疑問が生じる。
何故グレモスは自分達にこれ程の装備を提供してくれたのかと。
初対面での印象はそれほど良くない物だと思っていたが……話通りなら自分の愛弟子が裏切りを働いているからで済む話かもしれないがそれでもまだ疑問は沸く。
まず、クラウスが現れてからすぐにその場にグレモスが来たことだ。
彼は一体街に何をしに来たのだろうか。
“たまたま”会った二人のピンチを救って来て、おまけにこちらの話を親身になって聞いてくれて大量の装備まで貰えたわけだ。
さらにそれらを終わらせた時にはもう夕暮れ時だったと言う……ぶらりと散歩でもしに来たのなら話は別かもしれないが魔法大臣という立場からしてそれほどの暇は与えられてないだろう。
そして……この魔法武具の力の源はグレモス自身が管理している地下魔法回路から供給されているという点だ。
狂ったように暴れたダバスは鎧に操られるような動きをしていた。
もし外部からの魔力干渉を受けていたのだとしたら管理しているグレモスにも干渉を妨害は出来なくても感知はできておかしくないはずだ。
それをグレモス自身が操っていたと考えれば辻褄は合ってしまう。
疑い出すとキリが無くなってくる。
自分の中でグレモスの怪しさがどんどん高まってくるが決定的な証拠は無く、仲間達も武具やグレモスに対する信頼は厚いみたいだ。
ここは一つ言うべきか否か……勿論ただの思い過ごしの可能性もある。
無駄な混乱を避ける為にもここは疑いを胸に押し込めてグレモスについて調査をすることが最善か……。
溢れてくる疑いに対して苦悩していた時、すっかりと日が落ちた外のほうから凄まじい風の切る音が聞こえてくる。
「風が激しいですね……嵐でしょうか?」
「風か……でもここセブナットは結界が張られてて外の天候の影響はないはずなんだが…………ハッ!?」
天候に左右されることはない……つまりこの風は自然の物ではないということだ。
凄まじく強い風でガタガタと震える窓越しから外を見る。
外は一目見て異常事態だとわかった。
黒い渦がセブナット上空に幾つも現れてそこから邪悪な魔力が立ち込めており、それらが激しい旋風と稲光を発生させていた。
そうだ……何を悠長なことをしていたのか。
奴は既に計画は最終段階だと言っていたじゃないか……今日この時にそれが実行されても何らおかしくはなかった。
それなのに周りの協力がトントン拍子に進み過ぎて慢心し“いつか”実行されるであろう計画についての対策ばかりしていた……
今頃後悔をしても遅いが……こうなった以上やることは一つだ。
「全員あの渦の正体を突き止めるぞ!! すぐに現場に行くぞ!!」
急いで全員が外に飛び出す。
もう既に異常事態に気づいた街の住民もいて野次馬も沸いてる。
セブナットの兵士や騎士達は既に装備を整えて突如発生した渦に対して警戒体制を敷いたり住民の避難誘導を行っていた。
「あの渦……一体幾つあるのかしら。数十個はあるけど一体何を仕出かそうってわけ?」
「とても……怖い気配がしてくるのだ。でもルミン達は負けないのだ!!」
「ただ風や雷を起こそうとしている……わけではなさそうですね。すぐにアレを止めましょう!!」
「不吉な気配……あの渦の瘴気は…………皆さん、気をつけてください。あの中から…………来ます!!」
すると一斉に渦の中から紫色の瘴気が溢れてくる。
そしてその中からこの世の物とは思えないおぞましい怪物の雄叫びが響き渡り瘴気から怪物が現れる。
「グォラァオオオォォス……!!」
それは空を駆ける蛇のような姿であった。
紫色の禍々しい色を放つ長い胴体から生える六枚の悪魔のような翼に頭部にある不気味な六つの眼球…………この世界の誰もが伝説上の存在として耳にしたことのある暴虐と混沌の化身と言われる魔王の配下である魔界の最上位モンスター――『ケイオスドラゴン』だ。




