ペンドラト家
ダバスは野獣の如く唸り声を挙げて正気のない顔でこちらに突進してくる。
間一髪で避けるがダバスは後ろにあった木箱に激突するもすぐに立ち上がって再び襲いかかる。
「明らかに様子がおかしいです! あのダバスさん……とてもご自分の意思を持っている動きではありません。何とか正気に戻してあげないと……」
突進してくるダバスの様子をよく見ると彼が纏っている鎧に紫色の魔力が帯びているのが確認できた。
突進する様は鎧に突き動かされてるかのようだった。
まさに鎧に着られてる状態と言っていいだろう。
それなら先ほどの方法で――
「また同じようにできるか?」
「勿論!」
「とーぜん!」
同じように再生成と拳の偏差攻撃で鎧を砕こうとする。
が、鎧には拳によるヒビが多少入るも完全には砕けない。
再生成による分解も一部分のみにしか効かずに鎧を無力化できない。
物理障壁や魔力断裂を使った素振りもない……確実にダメージは与えているはずなのに少しも怯むことなく突進し続けてくる。
「全然効いてないのだ!」
「このままでは埒が明かないですね……」
「あぁ……恐らくあの鎧は剣や盾以上の材質で作ってある代物だ。半端な攻撃では通らないだろう……けど……」
もし今ここにアスタトの魂があれば鎧を砕いて無力化など容易いだろう。
それ以外にも神秘のソーマを飲んでゴリ押しやアスタト以上の力があるベリアルの魂を使いこなせば何てことはない相手だろう。
だが相手は恫喝していたとはいえ元は普通の聖騎士だ。
ダメージも先ほどの戦いで蓄積しているだろうし鎧によって無理矢理動かされている身体に対して過剰な攻撃を加えると絶命の危険もある。
鎧だけに上手くダメージを与えることができれば――たがその方法が思いつかない。
休む間もなく攻撃を仕掛けてくるダバスに対して俺達の疲労は蓄積されて行く。
そして俺が体勢を崩したのを見計らったのか一直線に向かってくる
ヤバい―――そう思った時だった。
ザン……!
一筋の斬撃音と共にダバスの鎧は真っ二つに、それに身体は一切傷付けることなく無力化した。
その場で倒れるダバスの前に一人の男性が現れる。
その男は黒く立派な髭を生やし、全身を銀色の鎧で纏った初老の武人……胸に掲げているエンブレムはこのセブナットの聖騎士団を束ねる者の証明であった。
この人は確か……庭園前ですれ違った聖騎士長のライハルトだ。
目の前で起こった出来事に整理がつかないでいるとライハルトはこちらを見て剣をしまう。
俺達の顔を覚えていたのか少し驚いて話しかけてくる
「……部下が迷惑を掛けたようだな、王に招かれた客人達よ。この者の始末は責任を持って務めさせてもらうぞ」
「あ、あの……ありがとうございます」
突如現れた聖騎士長ライハルトに対して俺はどういう反応をすればいいかわからなかった。
わかっていることはその熟練の剣技でいともたやすく正気を失ったダバスを鎮圧したという事実のみであった。
「別に貴様等の為にこの場所に来たわけではない。用がある者がいてたまたま通りかかっただけだ。さて…………」
ライハルトは潰れた木箱の周りを退かして行きその中にいる誰かを掴んで引きずり出す。
中にいたのはアーサーさんであった。
戦いの中で何処かに逃げたのかと思ってたけどずっとこの場にいたみたいだったな。
ライハルトが気絶しているアーサーさんを起こす。
目を覚ましたアーサーさんはライハルトの姿を見てダバスの時以上に青ざめる。
そしてライハルトは物凄い剣幕でアーサーさんを叱咤する。
「馬鹿者!! 暴れる悪漢を目の前にしてコソコソ自らは隠れて知人を戦わせるなど騎士の風上にも置けんやつめ!! 何度も言うようにお前はペンドラト家の人間なのだぞ!! それを下らぬ騎士の真似事で金を稼いで飯を食いおって…………お前には何度失望したことか…………」
「くっ……そうさ! 僕は本物の騎士にはなれっこないさ! もうペンドラト家の人間とも思っちゃいないよ。だからこの仕事も辞めるつもりはないね。自分がいかに優秀だからって息子に無理な期待を押し付けるほうが間違ってるさ!! そんなに家が大切なら兄さんを説得したほうがまだマシじゃないかな!?」
「何を言うかと思えば……良いか!? お前にはこの私の血を確実に引いておるのだ! 今からでも遅くはない! さっさと家に帰ってくるのだ!!」
…………この二人は親子だったのか。
何だか凄い親子喧嘩を見てしまったぞ。
立ち去ろうにも立ち去れる状況じゃないな。
親子喧嘩の内容を聞く限り、アーサーさんはライハルトの息子……剣の名家であるペンドラト家の次男らしい。
長男が今何処で何をしているかはわからなかったが……少なくとも跡継ぎになれる人材はアーサーさんだけらしかった。
だけどアーサーさんには騎士としての才能はなかったらしく父のライハルトはそれでも立派な騎士になれるように教育を続けてたみたいだが……その過程で舞台騎士という職業に憧れを抱いて家を飛び出し、そして今の生活まで築けたらしい。
ライハルトは息子を家に戻したいと考えているみたいだがどうやらアーサーさんは聞き入れる様子はなさそうだった。
話にならないと互いの意見を聞き入れない様子で口論は喧嘩別れのように終了してライハルトはこの場を去っていった。
口論で疲れたのか息を切らしたアーサーさんはその場で木箱の上に座り込む。
「カムイさん、まずはあのダバスさんの相手をしてくれたことに感謝致します。……それと先ほどは見苦しい所を見せてしまい申し訳ありませんでした。皆さんが戦っている間に裏でコソコソと隠れていただなんて……人として恥ずかしい限りです」
「いえいえ、俺達はあなたに逃げてもらう為にしたわけであって……それよりも先ほどの会話、あなたは家を飛び出してきたんですか……」
そう話しかけるとアーサーさんの表情が少し曇る。
少し考え込んだ後にゆっくりと語りかけてくる。
「……本当は僕だってわかってるんです。自分は何事にも臆病であってただただ色々な事から逃げてるだけだってね。父の言う通りこの道を選んだのも“逃げ”でしかないかもしれない……でも今の僕には父や家の事に向き合う勇気はとてもないんです」
「何だか喧嘩してたみたいだけど……早く仲直りしたほうがいいのだ!」
「はは……そうだね。なるべく早くに解決しなきゃな……」
親子の話については気になる点はいくつかあるが今のところはこれ以上介入するわけにもいかないからな。
家の問題は当人同士で解決するのが一番だろう。
そろそろシャルロットとアンクにも連絡を取らなくちゃな。




