獣人の少女
獣人……俺にはあまり知性ある他種族は見たことがなかった。
リアンと冒険者として活動してた場所は主に人口が人間中心の国であるガルハルトであったためあまり見る機会がなかった。
見れば見るほど不思議な見た目をしている。
獣の耳と尻尾、それによく見ると獣らしい爪があることがわかる。
物珍しさに観察していると向こうから話しかけてきた。
「オ……オイ、オマエ! オマエは悪者か……? ルミンは……オマエなんか……怖くないぞ!!」
獣人特有の動物の耳と尻尾が明らかに怯えている反応だ。
こちらから警戒を解いてやらないとな……。
「だ、大丈夫大丈夫……俺は悪者じゃないしお嬢ちゃんを傷付けたりなんかしないよ……ね?」
「ホ、ホントか……?」
「…………」
流石に無理がある言い分だったか……と、そう思った直後に獣人の少女の耳はぴょこっと立つ。
「良かったのだ! こんなとこでいい人に会えるなんてラッキーなのだ!!」
「…………」
この子はもうちょっと人を疑うことを覚えたほうがいい気がする。
獣人は純粋って聞くけどこれ程なのか……。
「はじめましてなのだ! ルミンって名前だぞ!
おじさんの名前教えて欲しいのだ!」
「俺はカムイだ……あとおじさんって言わないでくれないかな?せめてお兄ちゃんとか……」
「カムイおじさんはお兄ちゃんなの?よくわからないのだ……」
小さい子から見れば俺はおじさんになるのか……まだ16なのに。
「良かったらお家に案内するぞ! ご招待なのだ!」
「い、いいのか……? 知らない人を家に呼んで……」
「何言ってるのだ? もう名前も知ってるぞ! 知らない人じゃないのだ!」
あぁ、獣人に奴隷が多い理由がわかった気がする……。
疑うことを知らないしホイホイ人に着いていっちゃうんだ……。
そしてこの純粋さ故の無茶苦茶さ……どこかルミンに重ねてしまう。
◇
懐かしさを覚えたのも束の間、ルミンの家にたどり着いた。
岩が連なった隙間からできた洞穴。
その中に入りルミンが取り付けてあるボロボロの木の扉を開ける。
中を見るとそれは荒れた部屋……いや、何者かによって荒らされたかのようなボロボロの部屋だった。
部屋で大半はそこにいるであろうベッド周りは綺麗にされている。
「ここに座るのだ!」
ルミンがベッドの上に軽く飛び乗る。
ベッドが軋む音が聞こえる。
お言葉に甘えて座らせてもらう。
「ここらへん夜は寒いからここでゆっくりすればいいな!」
ルミンはやけに上機嫌だ。
というか警戒を解いてから常に上機嫌だ。
「お客さんなんて初めてなのだ! ルミンといっぱいお話しするのだ!」
「あぁ、ありがとう。ところでご両親はいいの? 勝手に上がっちゃってるけど……」
両親のことを尋ねるとルミンは少し元気を無くした。
「パパとママは……ちょっと遠いとこにいるのだ。でも、ちゃんと帰ってくるって約束したから絶対また会えるのだ!」
……デリケートな話題に触れてしまったみたいだ。
今は居ないみたいだな。
「カムイお兄ちゃんこそなんでこんなとこに来たのだ?ここは何もないとこだぞ?」
「あぁ、ちょっと事情があってね。お兄ちゃんは帰らなくちゃいけない場所があるんだ……」
「面白そうなのだ!詳しく聞かせて欲しいぞ!!」
「ちょっと難しい話になるけどね……」
その後ルミンにもわかるように説明した……つもりだった。
「すごいのだ! おとぎ話みたいなのだ! リアンお姉ちゃん姫を助ける為にエリなんとかっていう悪い魔女をやっつけに行くんだな!!」
「……大体合ってる」
「ルミンも行きたいのだ! 連れてって欲しいのだ!!」
「いや……ルミンを危険に晒すわけにはいかないし、それにパパやママも待つんでしょ……?」
「う……でも……カムイお兄ちゃんが居なくなったらルミンはまた一人になっちゃうのだ……」
確かにこの子一人でこの場所で暮らしていけるとは思えないし放っておくわけにもいかない……どうしたものか
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!
地震か!?
まずい……! ルミンを安全な場所に……。
ルミンを抱き上げようとするとルミンはワクワクした様子で外に飛び出していく。
「おぉ、来たのだ! カムイお兄ちゃんは危ないからここで待ってて!」
「いや、それはこっちのセリフだ!」
飛び出すルミンを追いかけ外に飛び出す。
ルミンは臨戦態勢ながらもワクワクしている。
ルミンが見つめる先から先程の地鳴りが聞こえてくる。
いや、この音は……何か近づいて来る……!
「グモォオオオ……!」
地鳴りと共に怪物のような鳴き声も混ざる。
地面が隆起しこちら側に向かっている。
大地から何者かが今にも襲ってくる……!