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命名

「さっきのは一体……」


「ボ、ボクの見間違えじゃなかったなら、このヒポグリフォの木像が本物に変わって動いてたよネ……?」



 どうやらオザークさんも想定外の事態だったみたいだ。

 木馬だと思ったものが本物になって語りかけてくるなんて経験はこの先ないと思う。

 おまけにマスターだとか言ってたがあれは俺を主人として認めたってことなのか……?



「ちょっとカムイ! そっちからモンスターの鳴き声と振動が来たけど大丈夫!? 今そっちに向かうから!!」


 後ろを振り返る。

 シャルロットが手元で灯り用の小さな炎を照らしながら駆けつけてきた。

 その光を元にルミンがさっと駆けつけて辺りを警戒しだす。

 少し遅れてジブリールも杖を構えて辺りを見渡す。

 モンスターが屋敷に襲いかかったかと思ったのかピリピリとしだす三人を宥めるように事情を俺がわかる範囲で説明する。



「あー……大丈夫だ。モンスターが襲来したわけじゃない。なんというか……その封印……ってやつが解かれたみたいなんだ。そこの木馬の手綱を握ったら本物に変わって俺をマスターだとか言ってきたんだ」


「……大丈夫? 頭でも打ったの? この木馬が本物に変わったって……馬車から転がり落ちて気絶した時に見た夢じゃないの?」


「確かに馬車から転がり落ちたが……なんか頭に直接声が響いてきて……そう、呼び掛けに応じて力を貸すとか言ってたっけ。どうすればいいんだ……名前でも呼んだらいいのか? おーい、ヒポグリフォ……」


「はぁ……頭に相当のダメージがいったみたいね。しばらくの間休んで回復でも…………ッ!?」



 目の前のシャルロットの目の色が変わる。

 心底驚いてる様子だ。

 恐る恐る後ろを振り向く。

 そこにはあのヒポグリフォがいた。

 木馬ではなく生きた本物であり、こちらを見つめている。

 やはりあれは夢じゃなかったんだな……。



「わぁ、凄く強そうな鳥さんですね! お馬さんの要素もあるみたいですね……デルタールの神殿に置いてある像のものにそっくりですよ!」


「カッコいいお馬さんなのだ! 空も飛べるのかな!? カムイお兄ちゃんのペットなら乗せて欲しいのだ!!」



 警戒を解き、直ぐ様ヒポグリフォに夢中になる二人。

 シャルロットは未だに驚きを隠せないでいる。

 ヒポグリフォはこちらを見つめてまた頭に直接語りかけてくる。



 “マスター、この者達は? マスターの同胞でしょうか?”


 俺は言葉を返す。


「……あぁ、こいつは俺の仲間だ。お前のいうマスターって奴の自覚はまだ俺にはないがお前のことをもう少し知る必要がありそうだ」


 ヒポグリフォに語りかける俺を見てシャルロットは不思議そうにこちらを見る。


「あんた……もしかしてこのモンスターと話してるの?私には聞こえないからびっくりしたわ……」


 そうか、この声は俺にしか聞こえてないのか。

 マスターと認識された人物にだけ喋れるのか……それはちょっと不便だな。



「ヒポグリフォ、俺以外とも会話ができるようにできないか? できる限り仲間とは情報を共有したいんだ」


 心得たとばかりにヒポグリフォは少し目を閉じる。

 再び目を開けて瞳をカッと光らせる。

 すると、巨大なヒポグリフォの姿は消えていた。

 その代わりに長身の女性がその場所に立っていた。


 その姿は銀髪で少しつり目の紅く輝く瞳が特徴的な美女だった。

 服装は古風な民族衣装のようで神秘性が感じられた。

 その女性はこちらを見て語りかけてくる。



「……力を抑える形になりましたが、この姿ならば呪いの効果も低減され、マスターの同胞方にも言葉は通じるでしょう。マスター、これでよろしいですか?」


「お、おう……」



 木像だと思ってた物が本物のモンスターになったり、そのモンスターが今度は長身の美女になるとは……展開に着いていけない。


 他のメンバーはもっと動揺していた。

 ルミンは背中に乗りたかったのか少しガッカリし、ジブリールはその姿に驚いており、シャルロットに至っては最早思考を放棄していた

 でも一番驚いてるのはオザークさんだろう。

 自分のコレクションだったものがどんどん変貌していくのだから

 何とか状況を飲み込もうと俺は質問を投げ掛ける。



「あー……まず何から言ってもらおうか……。まず、お前は何者なんだ? 木像にされていたのは誰かに呪いでもかけられてたのはわかるんだが一体誰にされたんだ?」


「まず私が何者かと存じますと……今より五千年の昔、とある渓谷の神殿の守り神を務めさせてもらっていた神獣でございます。呪いは神殿を襲った異形の魔神共に不覚を取ってしまい、あのように木像にされていたのです。木像の身で封印された私は神殿荒らしによって回収され、今日まで様々な者の手に渡ってきました。そして今日、封印を解きし者……つまりマスターに出会えたことにより力の一端を取り戻すことができました」



 えぇと……こいつは大昔に魔神に襲われて封印の呪いをかけられてた神獣なんだな……そして色々あってオザークさんの元へ渡ったと。

 最終的に俺が封印を解いたことでマスター認定した……ってことでいいのか?



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! この男があんたのマスターとか勝手に決めちゃっていいの!? 他に適正な奴がいるとか……それに前の主人もいたでしょうに……」


「……先ほど私がマスターと契約を交わしました。我々の種族は何者かと契約を結ばないと現界できない身……封印を解きし者を新たなマスターとすることは何も不自然なことではありません」



 なるほど……マスター認定はその場で解除したから契約を早急にしなければいけなかったんだな。

 でもそれだと一つ問題があるぞ……。



「あ、あのー……オザークさん……こんなことになってしまったんですが……俺はどうしたら……」


 そう、このヒポグリフォは元々木像でオザークさんのコレクションの一つだ。

 いくら本人がマスター認定をしても元々の所有者であるオザークさんを無視するわけにはいかない。

 俺は恐る恐る伺うがオザークさんは胸をポンと叩いて返事をする。



「いやー……明日の朝まで黙っておくつもりだったんだかネ。実はこの木像……いや、ヒポグリフォはキミに譲ろうとした物だったんだ。長旅らしいのに馬車も持たずに歩いて世界を巡るなんて大変だろうから……そこで足となるコレをあげようかと思ったんだかネ。それにヒポグリフォ自身が着いていきたいみたいだからボクが止める理由はないよ。彼女はキミが連れてってあげなさい。いやー、キミはホント持ってるネェ……偉い守り神の女の子を従えちゃうなんて……ますます羨ましい限りだネ」



 なんとオザークさん自身が譲ろうとしてた物だったのか。

 でも何だか重いな……神獣の乗り物やその化身の女の子を従える資格が俺にあるのか……。

 そんな心配を他所にヒポグリフォはその場で膝をついてこちらに頭を下げる。



「マスター、私の力がお役に立てるよう全力を尽くさせてもらいます。マスターの同胞方にも同様の忠義を果たさせてもらいます。これも契約と恩義の為、この私ヒポグリフォは全身全霊を持ってマスターをお守り致します」


 なんだろう……凄く堅苦しい。

 そんな忠義に沿って家来にするとか俺の柄じゃないし。

 せめて会話だけでも多少は柔らかく……。



「あ、あぁ……よろしくな。そういえばお前のことは何て呼べばいいんだ?」


「名前……個体名ですか……我々は種族としての名以外はありません。マスターが好きなように呼ぶとよろしいです」



 こいつには名前がないのか。

 なら名前はつけてやらないとな。

 親しみのある名前がつけばこの堅苦しい会話も多少はマシになるかもしれない。



「じゃあルミン達が考えてあげるのだ!」


「そうですね! 皆さんでいい名前を考えましょう!」


「あぁ、頼む。いい名前を考えてやってくれ」



 ルミンが少し考える。

「うーん……」と言った後に手を叩いて考えた名前を発表する。



「ヒッポちゃんとかどうなのだ!?」


「ヒッポ……ちゃん……?」


「可愛らしいお名前ですね! とてもいいとお名前だと思いますよ!」



 おいおい……そんな冗談みたいな名前だと流石に可哀想だぞ。

 急いで代案を出さなければ……。

 しばらく考え込んだ末にある名前を思い付く。



「アンク……アンクなんてどうだ? ある国の言葉で“命”を表す名前だ。お前を見た時の迫力は生命の輝きを感じた。そこから思い付いたんだが……どうかな?」


「アンク…………?」



 胸に手を当てて目を閉じて少し考え出す。

 そして紅い目を開けて返事をしだす。



「……とてもいい名前だと思います。なんだか懐かしさを感じるような……マスター、私は今日よりアンクと名乗らせてもらいます」


「カッコいい名前なのだ! アンクちゃんに決定なのだ!」


「ヒッポちゃんと同じぐらいいいお名前ですね!」


「……まぁいいんじゃない? 名前ぐらい別に呼びやすければ何でもいいし。じゃあ、よろしくアンク」


「はい、マスターの同胞方にもアンクは使えさせて頂きます」


「ははっ! お名前も決まったみたいだネ! じゃあアンクちゃんをよろしく頼むよカムイくん」


「……はい!」



 こうしてヒポグリフォ……もといアンクを連れていくことになった。

 まだまだ謎の多そうな奴だが……戦力の増強になることには間違いなさそうだ。






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