最果て
「ぐ……ここは……?」
目が覚めると俺は巨大な穴の中央にいた。
追放魔法によって飛ばされた先がクレーターのようになっていたのだ。
穴から地上に出るとそこは灰色の世界だった。
空は見渡す限り雲で覆われており地面は水分がなく干からびている。
僅かに生えている植物は力なく萎れており殺風景な景色に岩が無尽蔵に並んでいて……そう、世界の最果て言う名が最も似合う場所だと思う場所だろう。
「ははっ……」
思わず力ない笑い声が出る。
人は本当にダメな時は乾いた笑いが溢れていく。
僅かな希望を求めさ迷う。
ちょうど休めそうな岩影を発見し一息をつく。
「…………なんでこんなことになったんだよ」
思わず独り言を呟く。
エリザベスがあそこまで勇者であるリアンを崇拝してたとは思いもしなかった。
……いや、俺の感覚が麻痺してただけかもな。
リアンのことを俺は幼馴染みぐらいの存在に思ってたのかもしれない。
本来、彼女は人々の希望たる救世主の“勇者”……俺なんかが側に居ていい存在じゃない。
少し微睡んでくる。
彼女の力になれる強い奴らこそがホントに必要なのかも…………。
疲労で眠りに就こうとした時、エリザベスの言葉が頭をよぎる。
『……あの子を立派な勇者に仕立て上げれる』
俺ははっとした。
何を考えてたんだ俺は……。
エリザベスは勇者を崇めてるんじゃなくて利用しようとしてるんだ!
それに人質を使ってまで目的を果たそうとする奴だぞ?
まともじゃない!
そんな奴にリアンを好きされてみろ、どうなるかわかったもんじゃないぞ……!
いけない……直ぐにでも戻らなきゃ…………でもどうやって…………!
一心不乱に辺りを走り回った。
走っても走っても同じ景色。
でも立ち止まるわけにはいかなかった。
体力も尽きてくる。
水も食糧もない。
ここで終わるわけには……。
朦朧とする視界に生物が映り混む、スライムだ。
考えるより先に俺は行動していた。
手持ちのナイフをスライムに突き立て核を潰す。
そしてスライムの冷たくひんやりとしたゼリー状の液体を一心不乱に貪った。
「ハグッ! ……ムシャッ! …………うっ!?」
食った直後、俺の身体に急なエネルギーが湧いてくるのを感じた。
先ほどまでの空腹感がなくなり疲労も微睡みも感じなくなった。
「どういうことだ……これは……?」
このスライムが特別なスライムなのか?
スライムゼリー自体は食べられる素材であったはずだがこんなにもエネルギーの満ちてるスライムゼリーは聞いたことがない。
スライムの残骸を確認する。
すると中には明らかにゼリーとはことなる輝きを放つ液体があった。
「もしかして……これは……おとぎ話の存在だと思ってた……スライムの伝説上の最上級レアアイテム……神秘のソーマ!?」
神秘のソーマ……奇跡に近い確率でスライムの体内の魔力とスライムゼリーが絶妙なバランスで結合しできるとされている伝説上のアイテム。
その力は一滴飲めば力尽きた戦士を一瞬で回復させ限界を越えた魔力をみなぎらせるとされている。
世界中の錬金術士がこのアイテムを再現する為に躍起になっていた
今日、ポーションなどの回復薬などは研究からの産物である。
生成成功例は錬金術士にして世界最高の大賢者のマーリンただ一人だという。
「こんな最果ての地に伝説のアイテムがあるなんて……」
視界にもう数匹スライムを仕留める。
中を確認するとまたしてもソーマの輝きがあった。
「……こんなことがあるのか? ここら一帯のスライムが全員神秘のソーマ持ちだなんて……」
だが幾らソーマを発見してもソーマは液体なので持ち運ぶことができない。
俺は腰の袋から空の小瓶を一本取り出すと神秘のソーマを中へ入れる。
この小瓶だけでも伝説級のアイテムだ。
が、俺には今小瓶一本以上の容器を持っていない。
ソーマの持ち運びに頭を悩ませていると近くから声がしてきた。
「そこにだれかいるのか!? ……さっさと出てくるのだ!!」
「……うぉっ!?」
急な声で思わず驚く。
女の子のような声がしたような……。
辺りを見渡す。
すると、岩影からビビりながら威嚇する犬獣人の小さな女の子が構えていた。