大草原にて
「つ、疲れた……」
「もう足が動きません……」
「二人とも大丈夫なのだ……?」
俺たちは今、大変疲労困憊でいる。
街を出て敵のアジトもわかった。
そのアジトへ向かう途中なのだが……もう歩けないほど疲労している。
歩いてから休憩らしい休憩も取っていない。
何せ今歩いてるのは田舎国で知られるアルフアルト王国のさらに西の大草原地帯、見渡しても街らしい街は見当たらない。
「はぁ……情けないわね。まだ半日も経ってないわよ?」
「……お前は飛べるからいいよな!!」
「まぁ、飛ぶのにも魔力はいるし……仕方ないから休憩できるとこ探しましょうか……」
クタクタの俺とジブリール、まだまだ元気なルミン、そして一人空を浮遊するシャルロット。
俺たちは同じ光景がずっと続いている草原を眺めながら歩いていた。
「大体、何でわざわざ遠めのセブナットを選んだ……もっと近いとこあっただろ……アルフアルト王国の、それも大草原地帯を横断してまで行くとこか?」
「わかってないわね……セブナットは騎士の国よ。騎士の国の王はかの“騎士勇者王モルドフ”よ。私は賢者としての使命もあるし、他の勇者に魔の手がかかってるならきっと協力してくれるわ。ただでさえ勇者の一人が欠けちゃった今、全面的に協力してくれるはずよ」
“騎士勇者王モルドフ”……歴史上数少ない勇者の称号を持ちながら一国の王となった人物だ。
世界最強の騎士団“星龍隊”を束ね、かの国際警察である憲兵騎士団に数多くの騎士を輩出している。
その活躍は数多くの伝説を生み出しており、有名な騎士物語小説シリーズ『騎士王伝説』のモデルにもなっている。
今や彼の率いるセブナットという国は魔王に対抗できる数少ない存在だと言われている。
俺は彼を一度見たことがある。
リアンが勇者の称号を授かってすぐにセブナットへ赴くことになったのだ。
その時の光景は今でも忘れられない。
巨大な要塞の機能を併せ持った荘厳な城に訓練された騎士達が視界一杯に広がっていたのだから。
玉座の間では側近である12人の聖騎士達が威厳で圧倒するように構えてたのが印象的だった。
その聖騎士達を束ねる王たるモルドフはより一層に凄まじい覇気を感じ取った。
まだあの時の彼は成人を少し過ぎたばかりの年齢のはずなのにそのオーラはまるで神話の英雄のようであった。
俺は圧倒されてその時は伏せて話を横から聞くだけしかできなかったが、リアンはそのオーラに圧倒されずに堂々としてたことを思い出す。
やはり、勇者というものは器が一般人のそれとは違うのだろう。
そう……違うのだ、俺なんかと……。
疲労で意識が朦朧としている最中、俺は物思い耽っていた。
いかんいかん……足取りを整えないと……つい、思い返すと暗くなるのが俺の悪い癖だな。
リアンを取り戻す為にも足を止めるわけにはいかない。
「大分無理してきたんじゃない? ここらで休憩とりましょうか。あの木陰とかどう?」
シャルロットが指を指す。
ちょうど休めそうな木陰だ。
天気が良すぎて日光でもう俺は干上がってしまってる。
そこらで立ち止まって、ゆっくりと回復しよう。
「ふぅ……中々歩いたんじゃないか?」
「そうね……地図だと大体あと半日ほどで着くわよ。魔力補給したらすぐに出発するわよ」
シャルロットは瓶入りの神秘のソーマを飲み干す。
俺も同じく頂く、これは本当に万能アイテムだな……。
体力も魔力も全回復する……これがそこらのスライムから採取できてしまったんだからな。
飲み干したところでシャルロットが指示を出してくる。
「飲んだわね? それじゃあ、そこらのスライム狩りに行って」
「……はぁ? もうちょっと休憩させてくれよ……」
「もう使いすぎでソーマが残り少ないのよ。主にそこの回復神官が魔力燃費が悪すぎるからすぐになくなっちゃうし。あんたしか取れないんだからソーマを集めてきてよ……ね! はいっヨロシク!!」
「すみません……カムイさん、どうかお願いします」
やれやれと立ち上がる。
疲労自体は回復してるものの、こんな炎天下でスライム狩りという雑用をやらされるのは億劫だ。
草むらを掻き分けながらスライムを探し出してはナイフで切りつけて倒し、中からソーマを瓶に詰めていく。
辺りのスライムを大方倒したのでもう少し離れた場所まで足を運ぶ。
これだけ開けた場所なら大型のモンスターもいないだろうし、仮に来てもルミン達がすぐに駆けつけてくれるだろう。
再びスライムを探し出す。
「ヒェエエ……! た、助けてェ……!!」
辺りから誰かの助けを呼ぶ声が聞こえる。
声の主が何処にいるかを探す為に見渡す。
その声の主はすぐに見つかった……いや、見つけられて当然である。
声の主らしき人物は狼型のモンスター二体に追いかけ回されていた
特筆すべきはその姿である。
この真っ昼間なのにも関わらず全身真っ黒の服を纏っているのである。
パッと見た目だけなら暗殺者のようだが、若干小太りでサイズがピチピチなのとアクセサリーなのか装飾や小道具などで目立ちまくりであり、とても潜入や暗殺をしようとする人間には見えない。
何よりそんな姿の人間が真っ昼間に狼に追いかけられてる姿など嫌にでも目につく。
俺は若干驚いて数秒固まっていたが直ぐ様助けに入る。
狼型モンスターの目の前に現れてナイフを振りかざし構えるとモンスター達は驚いて逃げてしまった。
どうやらそこまでの強さはなかったらしく、弱そうな者だけを襲うタイプだったみたいだ。
膝をついて頭を抱えながら震える人物に後ろから話しかける。
「あの……大丈夫ですか? 安心してください、もうモンスター達は去りましたよ。立ち上がれますか?」
「あ、あぁありがとう旅人さん……後でお礼をしないとネ……ボクのお屋敷にでも……ややっ!? もしかしてキミは……!」
俺はその特徴的な声と喋り方を聞いて思い出す。
この人は……!
「キ、キミは……ボクの記憶違いじゃなければあの時の少年……ほら、リアンちゃんと一緒だったキミ……そう、カムイくんじゃないか!! うわぁ嬉しいなぁ! また助けられるなんてね! 覚えてる? ボクだよ、オザークさんだよ!!」
オザークさん……幼い頃リアンが道端で助けた領主さんだ。
お礼にお屋敷で泊めてもらったことがあったっけ。
それにしても何でこんなところにいるんだ……?
「お、お久しぶりですオザークさん……ところで何でこんなところに?」
「ん? それはだね……深ーい事情があってネ……お忍びで絞りたてのブドウで作ったオザークワインが飲みたかったのさ!近道しようと思ったら狼に襲われちゃって走って逃げてきたんだけどネ……本当に助かったよ!!」
……この人、昔からこんなにバカだったっけ?
まさかお忍び用の格好がソレ……。
「またお礼をしなきゃネ! またお屋敷に来てネ! 待ってるからネー!!」
「ちょっ……一人で行ったら危険ですよ! 俺が送ってきますから!」
自由奔放なオザークさんを捕まえて無事にお屋敷まで届けないと行けなくなった。
少し遠回りになるだろうが……放っておくわけにはいかない。
オザークさんを連れてルミン達の元に戻るのだった。




