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勇者聖教

 街中の冒険者ギルド内の酒場で俺たちは屯している。

 無事に街中でクエストを受注して達成できた俺たちは本部へ向かったガムラフさんの帰還を待っていた。



「そろそろ一週間だが……ガムラフさんはまだだろうか?」


「確かにもうそろそろ戻ってきてもおかしくはないですけど……」


「上に話通したりするのに時間がかかるんじゃないの?それに自分で調べるとか言っていたし」





 俺の罪状の取り消しと一緒に、以前の件でエリザベスがリアンのパーティを非人道的な行為で操り、さらには人体実験までしたことが発覚して、ガムラフさんは憲兵団本部に報告するように向かったのだ。

 戻るのに一週間はかかると言っていたが……もうそろそろ来ていいと思うんだが。


 入り口から憲兵らしき人がこちら側へ歩いてくる。

 俺たちの方へ来ると要件を伝えてくる。



「カムイさんでよろしいですか? ガムラフ騎士団長がまもなくこの街に戻られます。準備のほうが出来ましたら街の入り口まできて欲しいと伝言を承れました」


 憲兵の人は伝言を伝え終わると敬礼をして帰って行った。

 どうやらもうすぐ来るみたいだ。





 早速、街の入り口まで向かう。

 まだ姿は見えない。



「結果はどうなってるかな……上手くいってればいいんだが……」


「少なくとも、あんたの身柄については大丈夫じゃない? もしダメだったならさっきの憲兵に身柄を拘束されるだろうし」


「うん……それでも、エリザベスの件については心配だ。なんだか、あいつには何か巨大な力が背後にいるような気がして……何より手段は選らばなさそうだし……」



 俺が不安そうな表情をしているのを見てルミンとジブリールは励ましをしてくる。



「だ、大丈夫ですよ! 上手くいくはずですよ……きっと!」


「よくわかんないけどきっと大丈夫なのだ!」


「……うん、やっぱり二人がいると大丈夫な気がしてくるよ、ありがとう」


「……能天気の励ましに浮かれすぎないようにね」



 何気ないやり取りを繰り返してると視界の先に馬に乗った騎士の集団が見えてくる。

 恐らくあの集団にガムラフさんがいるのだろう。

 俺たちはそのまま入り口で待つ。


 騎士団の到着と共に、その中で一際目立つ装備を纏う騎士が向かってくる。

 その騎士は兜を取り挨拶をする、やはりガムラフさんだ。



「久しいな……少し長くなってしまった、すまん」


「いえ、大丈夫です。そっちはどうでしたか?」



 要件を聞くとガムラフさんは少し考え込んでからこちらに問う。



「……いいニュースと悪いニュースの両方がある。どちらから先に聞きたい?」


「えっ……じゃあ、いいニュースから……」



 そう答えるとガムラフさんは一枚の紙を見せてきた。

 俺の顔と名前が書かれた手配書が赤く塗りつぶされていた。




「まず、カムイの罪状については冤罪だということで撤廃された。これでまず行動に不自由はなくなるだろう。ちょうど今月で保護観察処分も終わるみたいだからな。これがいいニュースだ」



 いいニュースがこれってことは悪いニュースのほうはやっぱり……。

 そう思った直後、ガムラフさんは険しい顔をして語り出す。




「……リアンの勇者パーティ……いや、エリザベスの件は上に全く通らなかった。何度も掛け合ったのだが……これ以上の深入りはするなと言われてな……すまない、俺は上に従うしかなかった。許してくれ……」


「そ、そんな……」



 まさかとは思ったが、エリザベスは憲兵団上層部にまで掌握しているのか……。

 金の力なのか、何かしらのコネがあるのかは知らないが……思ったよりも強大な力が働いてるのは確かだ。



「……カムイの冤罪については、奴隷商人が誘拐して脱走した結果だと上に認定された。エリザベスには何の罪も問われない……。ライア殺害についても魔王軍と魔神の戦いで戦死したとされた……」


「何よそれ!! どんだけ憲兵団は腐ってるのよ!!」


「……返す言葉もない。俺一人の力では無理であった……」



 憲兵団に所属してる以上、上に逆らえないガムラフさんを責めるべきではない。

 が……それでもこの状況はマズイ、向こうは憲兵団まで従えるほどだ

 それに、今後ガムラフさんに協力してもらえることはなくなるだろう。

 この人にも自分の立場や生活がある。

 これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。




「すまない……今後俺が直接手助けできることは難しいと思う。だが、俺はこの期間中に独自でエリザベスのことについて調べあげた。……その情報だけは渡しておこうと思う」


「情報……もしかしたらそれが役に立つかもしれません。お願いします!」


「あぁ、全てを話そう。だがここではいつ本部の回し者に聞かれるかわからんしな……なるべく一目を避けよう」



 俺たちは情報提供してもらう場所に向かう。

 既に部屋を取っていたという宿へと足を運ぶ。



「ここって……」


「あぁ、最近ここらの宿で最高評価をもらってるサンライズロッジだ」



 まさかの俺たちがプロデュースした宿だとはな……あれから数日は経ったが繁盛してて良かった。



「ん、どうした? そんな顔をして……」


「いや、ここって俺たちがプロデュース……というか再建計画を手伝ったとこなんですよ」


「お前達がか!? 一体なんで……」


「だってクエスト一つ達成しろって言われて街中でできることも少ないし……それなら利用してる宿の売り上げアップをクエストにしようかと……」


「あんなもの方便だというのに……大真面目によくやったものだな。まぁいい、とりあえず完了ということにしておくか」



 半分驚愕したような、呆れたような様子をして宿に入るガムラフさん。

 中に入るとナーシャが元気よく増えたお客の相手をしていた。

 よくみると雇ったであろう従業員もちらほらと見える。

 順調そうで良かった。

 ナーシャはこちらに気づくと軽く手を降って挨拶をする。

 俺たちも軽く挨拶をしてガムラフさんの予約した部屋まで向かう。


 部屋につくとガムラフさんは周囲のクローゼットやベッドの下を確認している。

 壁に耳を当てて壁越しにこちらの会話を聞く輩がいないかも確かめる。

 よっぽど警戒をしてるのだろう。

 十分に確認を終えると椅子に腰をかける。




「さて……まずは何を話したらいいのやら……何か聞きたいことはあるか?」



 ついに話してくれるみたいだ。

 やっぱり一番先に聞くことは……。



「……じゃあ聞きます。エリザベスは一体何者なんですか? あんな奴が一人で憲兵団を掌握できるわけがないですよね?」


「もちろんだ。奴はある組織に所属してることが判明した。“勇者聖教”だ」


「“勇者聖教”……?」



 聞き慣れない単語が飛び出す。

 その単語にジブリールが反応した。



「聞いたことがあります……勇者様を過剰に祭り上げる新興宗教だとか。過激な方が多い団体で特に『人類至上主義』を掲げて亜人の方々を差別するような思想集団だとか……それにデルタールを勝手に勇者聖教の聖地扱いして困っていたと……」


「……エリザベスはその団体の幹部クラスだったみたいだ。各地で布教をしては亜人種への迫害を続けていたらしい。……今日まで亜人種の目撃情報が少なくなっていたのはこの団体のせいだと言われている。それが数年前に“勇者”の称号を得たリアンに接触してパーティに潜り込めたのだろう」


「そんな……じゃあやっぱりリアンは狂った集団の操り人形に……」



 ガムラフは話を続ける。



「それに憲兵団上層部や各王国の貴族にまで水面下で信者を増やしてたらしい。恐らくそのコネクションのおかげで握り潰せたのだろう……」


「……敵が強大過ぎる。国や憲兵まで抱え込むなんて……」


「……そして、エリザベスが連れていた謎の仮面の女、あれは勇者聖教のトップだ」


「……え?」



 更に情報が出てくる。

 あの仮面の女がエリザベスの上司だって?



「トップと言っても最近交代したばかりみたいだがな。だがあの仮面女のそれ以上の情報は掴めなかった……しかし、そのトップが入り込んでる以上、リアンを取り戻すのは簡単ではないだろう」


「あのよくわからない仮面女が勇者聖教って奴のボスだったのか……でも、俺は諦める気はありませんよ!」


「……そうか、ならばこれも教えておこう」



 ガムラフさんは一枚の地図を渡す。

 地図には複数の目印がつけられている。



「俺が調べられた教団のアジトの場所だ。……全てではないがこの中にリアンの勇者パーティの駐屯地としてる可能性は高い。もし向かうのならば役に立つだろう」


「こ、これは……ありがとうございます!」



 ガムラフさんは腰をあげる。

 どうやら持ってる情報はここまでみたいだ。

 去り際に静かに告げる。



「……気を付けろ。敵は思うより遥かに強大だ。それにこの教団の思想は既に多くの人々に蔓延してると思ったほうがいい。……俺は無事を祈ってるぞ。今後は直接協力はできなくなるが……お前達の目的が果たせるようになるようできる限りのことをしてみる」


「ガムラフさん……本当にありがとうございました!」



 ガムラフさんはドアを開けた後にサムズアップして僅かに微笑む。

 そして、手を軽く降って別れた。





「……何だか思ったよりも強大な力が働いていたみたいだ。三人とも本当に俺についてきていいのか?」


「ルミンは面白そうだからついて行くのだ!」


「私は何だか着いていったらお姉さまに会えそうな気がして……つまり主の導きです!」



 二人は相変わらずフワフワとした理由みたいだ。

 若干呆れた様子のシャルロットはやれやれとした態度でいる。



「はぁ……あたしは勇者様を導く賢者なんだから着いてくのは当然じゃない。それに勇者様を助けるのにあんた一人でできるわけないじゃない。勘違いして自惚れてんじゃないわよ……」


「はは……いや、すまんかった」



 全員、俺について来てもらえるみたいだ。

 本当に頼りになる。

 敵がいくら強大でもうまくいく気がする。

 そう思った昼の一時だった。


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