宿屋再建クエスト その2
「そんな……なんで……」
宿屋再建の資金集めの為に神秘のソーマを売って稼ごうとしたが何故だか全然売れなかったらしい。
いくら路上販売とはいえ、伝説級の回復アイテムが売れないなんて……見通しが甘かったか。
シャルロットが事情を説明してくる。
「……あいつらが邪魔してきたのよ。ほら、ルミンちゃんを拐おうとした連中。あいつら私達を死んだライアに媚売って街を救った手柄を横取りしたと思ってるみたいで、私達が街中で売ろうとしてる中で粗悪品だとか劣化ポーションだとかデタラメ言って誰も買おうとしなかったのよ。営業妨害よ全く……」
そうか……そんなことが……。
予想外のことだった。
これでは準備資金が大幅に少なくなる。
「でも、その他のアイテムはギルドで買い取って貰ったわよ。こっちのほうは大分あるし、このお金で何とかしましょう」
ゴールド入りの袋をテーブルに置く。
中には3万ゴールドほどある。
確かに思ったより多かったが改装などに使うには少なすぎる。
「……よし、まずは二人共ありがとう。次は俺達の今日の成果だ」
出来上がった試作メイド服を見せる。
ルミンとナーシャはその出来に驚きを隠せないでいる。
「すっごく可愛いのだ!」
「こんな可愛い服着て接客できたらきっとお客さん沢山くるよ!」
「私とカムイさんで力を合わせて作った力作です。きっとお客さんにも喜んでもらえますよ」
一方、シャルロットは少し引いていた。
「……これ着て接客するの?ちょっとあざとすぎない?」
「それがポイントなんだ。モデルは昔行った屋敷の使用人の服だ。昔、わけあって譲って貰ったことがあってな。覚えてて良かったよ」
「……これの元の服を作らせた奴、相当拗らせてるわね」
服をサイズに合わせて人数分作る。
女性陣全員メイド服に着替えてくる。
「凄いのだ! フリフリなのだ!」
「たまにはこんな服も良いものですね。神に仕える身と人に仕える身……そこに大きな違いはありませんもの」
「はわわ……こんな可愛い服でお仕事できるなんて……」
他の三人と違いシャルロットは自分の格好に多少の不服を感じてるみたいだ。
「ねぇ、ホントにこれ着なきゃダメ?」
「統一感出したいしな。やっぱり嫌か?」
「いや……見た目はともかく年齢的にキツイ……」
「……実年齢がアラサーでも見た目は少女にしか見えないから大丈夫だろ。そういえば、なんで実年齢と見た目が一致してないんだ?」
「……幼い時から魔力量が人より多い代わりに肉体的な成長が遅かったからよ。……って、そんなことはどうでもいいのよ!」
シャルロットはそのまま椅子に座る。
何とか納得はしてもらえたみたいだ。
「でも、この先どうするのよ。衣装だけじゃ流石に売り上げは上がらないでしょ?」
「安心しろ、まだ策はある」
俺はポーチから何も付呪されていない空のマジックカードを数枚出す。
「シャルロット、これに文字を浮かばせる投影魔法は付呪できるか?」
「えぇ、できるけど……何に使うのよ」
「……宣伝さ」
「宣伝?」
シャルロットに指示した通りに文字を打ち込んでもらう。
そして、完成した物を使用する。
「投影!」
使用すると文字がマジックカードから浮かび上がる。
この宿の名前である『サンライズロッジ』が写し出される。
そして、宿の位置や料金の表示、簡単な紹介か次々と浮かび上がる。
「中々考えたわね。でも、これをどうするのよ。街中に置いても撤去されたり盗まれたりする危険があるでしょ?」
「そこで、さっきのメイド服さ。街を歩きながらこれを持って宣伝してもらう。これで街中に宣伝して回れるし、何より人の目線を集めやすい。宣伝面ではこれ以上ないくらいの効果だと思う」
「皆さんにこのお宿のことを呼び掛けるのですね!」
「あぁ、これで一気に知名度は上がるだろう」
宣伝についてはこれくらいでいいだろう。
あとは肝心の直接売り上げに繋がるものだが……うーん、俺自身が経営なんて学んだことがないからわからないな。
じゃあ、客視点から考えて……。
中々アイデアが浮かばない。
俺達がアイデアの捻りだしに苦戦してるのを見かねてナーシャは提案してくる。
「皆さん、そろそろ休まれてはいかがですか? あまり無理をし過ぎると身体に毒ですよ。もう少しすればご夕食のほうを用意させてもらいますね!」
ナーシャは先に浴場の手配をしてくれた。
俺は一人用の浴槽に入る。
身体を軽く流して、ほどよい温度の暖まる湯船に浸かる。
……そういえば、風呂にゆっくりと浸かるなんて何日ぶりだろうな。
その風呂は俺の疲れをゆっくりと落としてくれた。
浴室は決して大きい物ではなかったが、観葉植物や置物の配置などで心安らぐ空間を感じさせる工夫が見られた。
「……いい湯だな」
思わず呟いて身体を更に湯船に浸からせる。
しばらく浸かっていて眠気を感じ始めた頃、隣のほうからうっすらと話し声を耳にする。
「お風呂なのだ! 湯気がフワフワしてるのだ!」
「こらこら、先に入らないの。ルミンちゃん、先に身体を流しましょうね~」
「とっても素敵なお風呂ですね!」
「……なんであんたまで入ってんのよ!」
「いいじゃないですか。せっかくの一緒のお風呂なんですし身体の流し合いをしましょうよ!」
「待ちなさいって……ちょっ……!」
隣の浴室から女性陣の話し声が聞こえてくる。
聞いちゃいけないのはわかってはいるが聞き耳を立てずにはいられなかった。
……後で壁の厚みを補強するように言っておこうか。
その後も話し声は続く。
「シャルちゃんは私よりも年上のはずなのに随分と可愛らしい容姿をしていらっしゃいますね。もしかして、そういう魔法を使っているのですか?」
「年上ってわかってるなら“さん”付けで呼びなさいよ!……これは生まれつきよ。私は全然、肉体が成長しないのよ……」
「なるほど……シャルちゃんさんはずっと小さいままなんですね……」
「……それ喧嘩売ってんの?その無駄にぶら下げたデカイ乳なんて付けて……!」
……ヤバい。
俺は風呂そっちのけで壁に耳を当てている。
覗いてるわけじゃないのに背徳感が背中に伝わる。
「あら、そんなつもりじゃ……そうですわ! 私の成長促進でシャルちゃんさんを急成長させればシャルちゃんさんの理想の体型になれるはずです! やってみましょう!!」
「ちょ……! 止め……! あんたのヒールなんか食らったら胸が壊死しそうだわ……!」
「二人とも、お風呂では騒いじゃいけないのだ。ゆっくりと浸かるのがいいのだ……」
ドタバタと会話が響き渡る。
……色気も何もないモノを聞き終えて、俺は風呂を後にした。
風呂から出た後にナーシャと出会う。
「お風呂のほうはどうでした?」
「あぁ、風呂自体は大変満足できたよ。……ただ、壁が薄くて隣からドタバタが聞こえてきてな……ちょっと心配だから見てやって来てくれないか?」
「……はい、ご指摘ありがとうございます!では、ちょっと見てきますね!」
浴場まで向かうナーシャを見送って、一旦部屋に戻る。
掃除は隅々まで行き届いており、埃一つない完璧な清掃がされている。
ナーシャ一人でやったとは思えないほどの出来だ。
いくら他に客が居ないとはいえ、ここまでの出来の清掃は他のところでは見たことがない。
彼女の腕がよくわかる。
ふかふかのベッドに座りながら考える。
……サービス面で改善する必要性はあるんだろうか?
もしかして、知名度が足りないだけなのでは?
「カムイさん、ご夕食の用意ができました! 下の食堂で待ってますね!」
扉越しからナーシャの声が聞こえる。
俺は支度を整えて食堂まで向かう。




