追放
気がつくと俺は拘束されていた。
手足はロープで縛られ、声を出そうにも布を噛まされていて喋れない。
「へい、確かに。報酬は頂きましたぜ。殺しは止めとくのですかい?今なら御安く……」
「こんな奴にこれ以上の金は掛けられない。奴隷にして売るなり荒野で放り出すなりお好きに」
一体どうして……いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
俺は腰に着けていた隠しナイフを手元に手繰り寄せると自分の拘束を切り裂いた。
縄を振りほどき馬車から飛び出す。
外には賊と……エリザベスがいた。
「てめえ! 起きやがったな!!」
賊の一人がナイフで飛びかかると俺はさっと避け当て身を喰らわせる。
「……流石に8年は冒険者をやっていれば賊一人程度には楽勝ってことね」
エリザベスがクスッと冷たく笑う。
「一体なんでこんなことを……」
「さっきの内に穏便に出てって貰えればこんな手荒なことをしなくて済んだのに……」
「……よっぽど俺のことが気に入らないようだな」
すると俺のセリフを聞いてエリザベスは顔を歪ませて怒るように言う。
「貴方ねぇ! 8年も居てリアンがどれ程の存在か知らなの!? “勇者”よ!? この世に三人しかいない信託によって選ばれし混沌を祓う者、それが勇者よ!? それを貴方みたいな足手まといが恩返しの為に一緒に居たい!? 笑わせないでよ!!」
エリザベスは咄嗟に右手から火炎魔法を放つ。
「うおっ!?」
こちらも咄嗟に避ける。
さっきまで居た場所が黒焦げになる。
「……貴方のような大馬鹿者には勇者の偉大さなんてわかりっ子ないのよ。それこそ貴方の命の何百倍もの価値があるものだとね……」
エリザベスは再び手に魔力を込め出す。
今度は外さないだろう、命中が死を意味することは明らかだ。
「おい、お前ら! 宿から出てって一体なにやってんだ!?」
声の先を見るとベグゼンが騒ぎを聞き付けて追いかけてきた。
「ベグゼン!! 頼む!! エリザベスを止めてくれ!!」
「エリザベス! どうしたんだ!? 魔物にでも操られてんのか!?」
「……私は正気よベグゼン。私はただ邪魔者を排除しようとしてただけ……」
魔力を込めたままベグゼンのほうへ振り向く。
「……貴方も薄々わかってるでしょ? カムイがパーティ内でお荷物だって。このままだとリアンの勇者としての才能が成熟しない。でも私達ならあの子を立派な勇者に仕立て上げれる」
「馬鹿言うな! それで仲間を焼き殺す奴があるかよ!!」
「そう……なら……」
エリザベスはため息をつくと込めた魔力の質を変える。
「飛ばしましょう。私達の元には二度と帰れないような遠くに……それなら問題ないでしょ……?」
「そういう問題じゃ……」
エリザベスが冷徹な顔つきをすると直後に冷たく笑う。
「ベグゼン、貴方ご家族が居ますよね?まだ小さい息子さんと重病の奥様の三人暮らしだとか……」
「そ、それが何の関係がある!」
「冒険者になったのも多額の報酬目当てだとか。息子さんに貧しい思いをさせず、奥様の医療費を賄う為とにかくお金が必要……」
エリザベスは倒れた賊から渡した報酬袋を左手で掲げる。
「ここに20000ゴールドあります。勿論これは前金です。今後も私に協力してくれるならパーティの収穫の半分は貴方の取り分としましょう。どうです?悪くないでしょう……? 貴方は優秀な戦士です。これだけの報酬に足る人ですよ」
ベグゼンの目が泳ぐ。
「し、しかし……」
苛立ちを隠せないのかエリザベスは最後の手段を使う。
「……奥様は重病で歩くことすらままならない状態だとか。例えば私の魔法の呪いなんかを受けたらすぐにでも死んでしまうのでは……? まぁ、私も意味もなくそんなことはしませんが……」
「お、お前……殺す気か!?」
「……貴方次第ですよ」
さらに揺さぶられる。
そしてベグゼンがこちらから背を向ける。
「……俺は今晩のことは何も見なかったことにする。……すまん」
「べ、ベグゼン!?」
見捨てられた……!
エリザベスはニッコリと笑う。
そして魔力をこちらに定める。
「では、さようならカムイ君。どうか永遠に会わぬように」
追放魔法が放たれる。
直撃し俺の意識は遠退いていく……。