破綻
◇
「フン……そんな調子ではこの悪魔アスタトに指一本触れることもできんぞ」
俺とジブリールは苦戦を強いられていた。
悪魔アスタトは上空から闇魔法を雨のように降らす。
俺のナイフは届かないしマジックカードによる魔法の使用も空中であっさりと避けられてしまう。
ジブリールも地上からでは相手の攻撃を防ぐことで精一杯みたいだ。
ダメだ……このままじゃ打つ手がない。
「ダメです……もう魔力が……」
長期戦を強いられてる中でジブリールの魔力は尽きそうになる。
神秘のソーマを渡せば魔力は回復するかもしれない。
が、それをさせる隙を与えてくれるわけがないだろう。
ならば……俺は手段を選ばない。
「……アスタト、俺達に勝ち目はない。降参だ……」
「……ほう?」
「カ、カムイさん!」
俺は手を挙げ降参のポーズを取る。
アスタトは地上に降りてくる。
もちろん、諦めるつもりは微塵もない。
俺のポーチの中にブラストボムをありったけ詰め込んだ。
奴に最も近づいたタイミングで起爆する……。
卑怯だとしても自爆になるとしても犠牲を最小限まで抑える方法はこれしかない。
俺が居なくてもシャルロットに合流さえできればあいつの収納魔法からソーマは取り出せて回復はできる。
頼む……上手くいってくれ……!
アスタトは指先に呪いを込めて近づいてくる。
「自分の力量を見極めているとは人間にしてはまだ愚かではない方だな。望み通り我らの奴隷として扱ってやろう……」
これでいい……。
近づいたタイミングで起爆する。
それだけでいいんだ……。
「グハァ……!」
突然、アスタトは苦しみの声を挙げる。
何だ……? 何が起こった!?
背後を見ると見覚えのある騎士の男が見える。
昼間に俺を捕まえた憲兵騎士のガムラフだ。
どうやら背後から何かを投擲したようだ。
「力が入らん……!? な、何者だ……?」
「クロスナイフの聖なる一撃は悪魔には痛かろう。覚えておけ、私の名はガムラフだ」
アスタトは振り向きガムラフのほうへ攻撃をしかける。
背中に刺さった十字型のナイフはそのままダメージを与え続けているようだ。
俺はこの隙に神秘のソーマをジブリールに飲ませる。
魔力は全快し一気に有利になる。
そして、この間にシャルロットに連絡を寄越す。
「シャルロット、聞こえてるか?こちらカムイ。現在、悪魔アスタトと名乗る悪魔と交戦中。騎士ガムラフの加勢により戦況は有利になったがまだ戦力は必要そうだ。至急、加勢してくれ!」
すぐにシャルロットから返信が届く。
「今こっちも忙しいのよ! 頼りない勇者様とあたしを抱えてルミンちゃんは逃走中よ。こっちのことが終わるまで悪いけど加勢できそうにないわ!」
これ以上の加勢は見込めないか……ならば俺ができることをやらなければ。
休む暇もなくガムラフに加勢する。
「貴様は……! 昼間取り押さえたはずの……脱獄犯か!? ……いや、今はそんなことを言ってる暇はないな。この一件が収まればもう一度牢にぶちこんでやるぞ……」
「無実の罪でぶちこまれるのは御免だが……今は協力するだけだ」
空中に逃げるアスタトに今度は炎魔法を直撃させることに成功する。
「ぐわぁ……! い、一旦退却だ……!」
更に上空へと逃げる。
怪我を負ってる状態でも射程は届かない……。
「カムイさん! ここに立ってください!」
ジブリールは杖を突き立てる。
俺は指示された場所まで向かう。
「……成長促進!」
瞬く間に地面のタイルを突き破るように植物が生えてくる。
その勢いは凄まじく一瞬にして上空を飛ぶアスタトを越える高さの巨木を作り出す。
「バ、バカな……!」
「うぉおおお……!」
上空からアスタトに向かってダイブする。
そして、アスタトに刺さったクロスナイフを手に掛一刀両断するように身体を引き裂く。
「ぐぎゃああああ…………!」
翼ごと裂かれたアスタトはそのまま地面まで墜落する。
「カムイさん! 捕まってください!」
巨木からツタが生えて落下する俺を捕らえようとする。
何とか捕まることに成功したようだ。
墜落したアスタトを確認する。
完全に絶命したようだ。
……もしかしてコイツにもレアアイテムがあるのか?
ふと、アスタトの胸に輝きがあるのを発見する。
それは紫色に輝く光の玉のような……禍々しさの中にも神秘性も感じられる不思議な物体のようだった。
「これが……コイツのアイテム……?」
手持ちの袋にしまう。
何となくだがこれにはとてつもない力が宿っているように感じる。
何に使えるかわからないがいざという時の為にとっておこう。
◇
「……悪魔は倒せたようだな。脱獄犯に頼るのは少々癪だが、今はお前達の持つ現在のこの状況についての情報を共有したい」
「それはこちらもそうだな」
情報交換をすることになった。
ガムラフは騎士団長の持つ聖なる守りのアイテムによりこの街に蔓延る呪いを防げたらしい。
いち早く異変に気づいたガムラフは本部に連絡を入れたが深夜であり時間も人手も足りない状況の中たった一人で街の異変について嗅ぎ回っていたそうだ。
「……成る程。現在、仲間達が勇者ライアを連れて安全を確保できてから体勢を建て直そうというわけだな」
「あぁ、それで合流できるかなんだが……」
噂をすると白目を剥いたライアとシャルロットを抱えたルミンが到着した。
「着いたのだ! でっかい木が見えたから多分ここにいると思ったのだ!」
「ルミン、よくやったぞ! 偉いぞ……体力も大分減っただろう。これで回復をしてくれ」
神秘のソーマをルミンに渡す。
そして一気飲みをしてぷはーっと言って体力が全快する。
「さて……ここから本番よ。ジブリール、このヘタレ勇者様を気絶から回復してあげなさい。私が呪いを解呪するから」
「お任せください。蘇生」
ライアの首の紋様が取れていく。
そして、ライアは気絶から目覚める。
「うぅ、ここは……? オレは……あのバケモノと戦わされそうになってそれから……」
「あぁ、もう! 面倒くさいわね! あんたは勇者なんでしょ? 勇者の持つ破邪の能力で街の人達を解放して魔王軍を蹴散らしなさいよ!!」
「は、破邪ぁ? 何だそれ……」
「あんた勇者のくせに破邪の力も持ってないの?」
ライアはビビりながら逃げるように後退りしながら話す。
「じょ、冗談じゃねぇよ……! オレは戦いたくなんかねぇ!!
オレは強い奴らを囲って名声さえ手に入れればいいんだ。オレが戦うなんて真っ平御免だよ!!」
「……あんたそれでも勇者なの!?」
「お、オレは…………勇者じゃねぇ!!」
「…………は?」
周りに虚を突かれたような沈黙が走る。
ライアが……勇者じゃない?
「う、嘘でしょ?」
「ほ、本当だ。オレは実力も才能も学も家柄もいいエリートだ……だが、神は俺を勇者として選んではくれなかった。オレはあのままだと辺境貴族の末っ子としてオレの与えられた才能を活かせることなく人生が終わるはずだったんだ……それで俺の息のかかった神官に勇者認定させて勇者としての名声を欲しいがままにしてたんだよ……」
その場にいた全員が呆れ返る。
「なぁ……お前等強そうじゃねぇか。報酬はたんまりやるからあの魔王軍を倒してきてくれよ……い、今なら勇者の側近としての地位を……」
俺は思わずライアの頬を殴る。
ライアは鈍い音を立てて倒れる。
「な、何をしやがる……!」
「……お前は舐めすぎだ」
倒れたライアの胸ぐらを俺は掴みかかり今自分の中にあるものを口に出して怒号を浴びせる。
「勇者がどんな使命を背負っているのか……人々の希望を背負っているのか……そんなこともわからないのか!? 人々を不安にさせない為に常に強く正しくあろうとする姿……!自分が苦しいはずなのに笑顔を振り撒き不安を感じさせないよう振る舞う……少なくとも俺が見てきた勇者はそんな人だったぞ。お前は何だ!勇者の称号を自分の都合のいい冠のように扱いやがって……おまけにそんな無様を晒して金で解決だと? ふざけるのもいい加減にしろ! お前のような奴は視界にも入れたくない……」
突き放してやるとライアは何も言わずに逃走する。
未だに落ち着かない俺にルミンやジブリールが心配しだす。
「カムイお兄ちゃん……? 大丈夫……?」
「……怒る気持ちはわかります。しかし今は落ち着きを取り戻すべきです。私達にはまだやることが残ってます……」
……確かに怒り過ぎたかもしれない。
そして落ち着きを取り戻した時、さっきの言葉はリアンへの俺の思いを込めたものだった。
そして……奇しくもその内容は俺を追放したエリザベスの言葉と似通っていた。
一歩間違ったら俺もあいつのように勇者の名声に肖るおこぼれを頂くだけの屑になっていたかもしれない。
俺自身にさっきの言葉を肝に命じなければいけないな。
「……作戦は破綻したわ。もう一回練り直しよ。でももう時間はないわ。魔王軍の集団誘拐を防ぐためにも私達が今ここで粘らなきゃね」
そうだ……俺達には今できることを全力で成し遂げるまでだ。




