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9.ルーシーとルシファルザス

 一方その頃の魔王城。


「ずいぶんと荒れ果てたものよのう」


 三人は魔王城、かつてはそう呼ばれていた廃墟へと来ていた。

 絢爛を誇っていた魔王城も今は崩れ落ち、見る影もない姿になっている。


 三人がいるのはかつて魔王とテオが死闘を繰り広げた王の間だ。

 ここは特に酷い有様となっていて、天井と壁は崩れ落ち、月明かりが差し込んでいる。


「すいません、私のせいで」

 テオが謝った。


「なに、貴様が謝る事ではないわ。楽しい戦いであったしな」

 ルーシーはそう言い、奥に残っていた玉座に腰かけた。


「うむ、この座り心地は一年前と同じじゃな。ちと背が小さくなった分座るのは苦労するがな」


「申し訳ありません!」

 メリサが跪く。


「主様が倒されたあと、薄情にもみな散り散りになってしまったのです。残されたのは我々吸魔族のサキュバス数名のみ。主様のなきあと、ミッドネアは新たな勢力が多数台頭し、その連中がこの城内を好き勝手荒らしまわっていったのです。我々も何とか守ろうとしたのですが力及ばす……」

 そう言って悔しそうに唇を噛む。


「よい」

 ルーシーはそう言って玉座から降りてメリサの頭に手を置いた。


「魔界は力が全てよ。それにこの者に敗れた我は既に魔王ではない。しかしお主は我のためにここにいる。それで充分よ」


「今や我がミッドランドは潰えた。我が新たな国を築くにしてもこの程度が丁度良いというものよ」


「あるじさまぁ~」


「こら!どさくさに紛れてしがみつくな!離れろ!精を吸うな!」


「嫌です~離れませぬ~お情けを、お情けを~」


「……まったく、仕方のない奴め。さて、テオ、お主の話をする時が来たようだの?」


 涙を流しながら抱きついてくるメリサを手で追いやりながら、ルーシーがテオに話しかけてきた。


 テオは頷いた。


 聞きたいことが山ほどあるのだ。



「まず、あなたは本当にあの魔王ルシファルザスなのですか?」


「半分当たりで半分外れ、と言ったところだな」

 テオの問いにルーシーが答えた。


「我の魂は貴様の作ったこの体の中にあった貴様の作った魂と融合しておる」

 ルーシーことルシファルザスは胸に手をあて、言った。


 今のルーシーは処刑されるときに来ていた囚人服ではなく真っ白なドレスを着ている。


 銀髪で雪花石膏(アラバスター)のような白肌、真っ白なドレスを着ているため、菫色の瞳と桜色の唇はまるで雪の上に落とした宝石のようだ。


「一年前、貴様らが魔界に来た時から我は貴様のことを観察しておったのよ。そしてわかった。我を倒しうるとしたらそれは貴様だとな」


「むろん我とて負けるつもりはなかったが、万が一に備えて我の魂と記憶を核晶に移しておいたのよ。我が負けた後で貴様に復活させるためにな」

 ルーシー/ルシファルザスはにやりと笑った。


「貴様が独力で生命を誕生させることに成功すたのは予想外だったがの。流石は我の見込んだ通りの男よ。魔法による生命製造は代々の魔王すら達しえなかった偉業よ」


「私があなたの核晶を破壊するとは考えなかったのですか?魔王の核晶ならば王国に渡し、厳重に封印される危険だってあったはずなのに」


 テオの質問にルーシー/ルシファルザスは鼻で笑った。

「確信しておったよ、貴様はそんなことをしないと。我と貴様はよく似ている。真理の探究のためなら善悪などという些末な倫理に囚われない者だとな」


 テオは納得するしかなかった。

 ルーシー/ルシファルザスの言う通り、テオは悩んだ末に核晶を隠すことに決めたのだから。


「では、次は私の胸のこれです」

 テオはそう言ってシャツの襟を開いた。


 そこには今なお汎魔録晶(ライブラリ)が煌めいている。


 歴代魔王の魔法の知識を全て蓄えた魔晶だ。


 テオも今は囚人服から魔王城に残されていたシャツとズボンに着替え、革靴を履いている。


「これはあなたの魂の一部ではないのですか?復活した後に私から取り戻すつもりだったのでは?」


 ルーシー/ルシファルザスはそんな事、という風に手を振った。


「いらん。確かに知識と記憶を分けた事により今の我に魔法の知識はないがの。元々それは魔王に勝利した者が代々受け継ぐようになっておるのだ。今の正統な後継者は貴様よ。それにそれは既に貴様の魂と融合しているから取り戻す事は出来ぬよ」


「なるほど、しかしそれでいいのですか?また私を倒してこの汎魔録晶(ライブラリ)を取り戻すことも可能なのでは?」


「できるかもしれんができないかもしれん。それに今は……したくないのだ」


「それは何故です?」


「それはの……」


 ルーシー/ルシファルザスは玉座から降りるとテオの下に近づいてきた。

 そして座っていたテオの顎を指先で持ち上げる。


「先ほども言った通り、我の魂は貴様の作った魂と融合しておる。その魂が貴様を恋ているからよ」

 そしてテオに口づけをした。


「なななななななな」

 玉座の横にいたメリサが泡を噴いて倒れた。


「元々貴様に怒りや憎しみはない。貴様は我を倒した男だ。我は強いものが好きだしの。ま、憎からず思っておるよ」


「あなたは元々男なのでは?それでよいのですか?」


「ふん、我を誰と心得る。千年の間魔界最大の王国ミッドネアを束ねてきた魔王ぞ。この世の快楽(けらく)という快楽は全て味わい尽くしておる。今更男だ女だにこだわるものかよ。それに我々純粋魔族に性別などないし決まった形状もない。あの姿もなってせいぜい百年くらいよ。そちらこそ、やけに反応が淡白ではないか。もしや男の方が好みか?」


「いえ、そういうわけでは。ただどう反応して良いのか分かりかねていただけです」


「ふん、魔法にかまけて色恋に興味がないのか。まあよい。とにかく我は貴様をどうこうするつもりはないよ。むしろ側にいて欲しいと思っておるくらいだ。どうだ、前も言ったが我と組まぬか?我と貴様なら魔界を掌握する事も可能だぞ?」


「いえ、前も言ったようにそういう事に興味はないんです」

 テオは即答した。


「それに今回のことで政治だのなんだのにはほとほと嫌気がさしました。できれば魔界で好きなだけ魔法の研究を続けたいと思っています」


 そう言うと思ったよ、とルーシー/ルシファルザスは笑った。


「ならば我も復活させてもらった礼くらいせねばなるまいな。幾ら魔王の知識を得たとしても貴様の肉体はまだ人のもの。魔界の瘴気は少々堪えるだろうからの。人界との国境沿いにある屋敷を褒美としてくれてやる。好きに使うがよい」


「ありがとうございます、ルーシ……いやルシファルザスですか」


「ルーシーでよい。ルシファルザスはお主に殺されたのだ。それにこの体にはルーシーという名の方が据わりが良いようだしな」


「それでは改めてルーシー、ありがとうございます」


「わ、私もルーシー様とお呼びしても?」


「お前は駄目だ。お前は永遠に我の下僕なのだから今まで通りに呼べ」


「あ、主様~」

 何故か嬉しそうなメリサ。


「メリサ、テオをブレンドロットまで連れていってやれ。我は今しばらくこの城の中を見て回るでの」


 そう言ってルーシーは城の中へと消えていった。


「ではテオ殿、こちらへどうぞ」

 メリサが改まってテオを促す。


「テオで良いよ。そういう仰々しいのももううんざりなんだ。こっちもメリサと呼ばせてもらうよ」


「ふん、人間ごときに馴れ馴れしく呼ばれるのは好かんがお前は主様の命の恩人だ。好きに呼ぶがいい」


 テオとメリサは再び飛竜に跨り、上空へと舞った。


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