ウミノサン
少女…。彼女はなんだかあどけなくて、白いニットが似合っていた。18歳にはなってるはずだけど、どこかあどけなくて。僕は彼女の制服姿を勝手に妄想しそうになる。悪い癖だ。
「先輩…?」
彼女は僕のフリーズにとどめを刺す。
「先輩なんていわないでくれ。僕は」
「名前は…なんとお呼びすれば」
今、言おうとしたんだ。
「私、ウミノって名前です。ウミノです!」
「ウミノサン。ウミノさんね。うん、わかった。僕は宇佐美。」
「宇佐美先輩!宇佐美先輩っ…」
う、僕の、名前を呼んでいる。隣に座ってた見知らぬ男に宇佐美という名付け、ラベル貼りに彼女は成功した。名前を覚えるように、余計に一回繰り返した。名前の紹介はいつぶりだろうか。
「宇佐美先輩はこれから予定ありますか?」
彼女は、学生が殆どいなくなった教室で僕に話しかけてくる。
「バイトがあるんだよね」
「そうですよね、お忙しいですよね」
彼女はすっと勢いを失った。あっ、僕は何か逃したかもしれない。間違いない。彼女と話すことがなくなりそうだ。なんか逃したくない。まだ何も知らない彼女、だけど僕にとったらかなり貴重な存在であることは確かだった。
「ウミノさん。俺に連絡先教えてほしい。」
うわ
なんだよ。
僕どうしたんだ、出会い厨かよ。思い切りすぎた。これじゃ彼女に不審がられる。
「ハイ…。これ、私のID…です。」
彼女がスマホの画面を僕に向ける。ウミノさん乗り気なの?
「umimi0830」
誕生日8月31日なのかな。僕は速攻フリックで彼女を登録した。
「羽海野 はな」
彼女には 羽 があったんだ。オトだけでは気づかなかった、彼女の名前に羽があることを。