ボッチすぎる僕に
新宿駅から6分弱。6時間、強張らせた肩を徐々にゆるめ、不自然にならない程度に上下にゆさゆさ意識的に動かした。16時前だから、電車の込み具合もさほどでもなくて今朝の居心地の悪さに比べれば快適なものだった。赤い口紅をこれでもかって塗りたくった女が平日にもかかわらず多く乗り込んでくる。目尻にコーラルピンク、ダルそうな表情。おんなじ顔したおんなのこたち、なんていったら申し訳ない。おんなのこみんな個性をだそうとした結果なんだろうから。まあ僕なんかが批評するのは、この上なく申し訳ない。だから、スマホ画面に逃げた。あっ、通知きてるとタップしたら大抵僕個人に向けらたメッセージではなく、不特定多数に向けられたそれだ。何度も何度もたどったルートだがわざわざアプリで到着時間を検索しては、間に合うなと確認。今日の僕は、9時から新宿でバイトして大学の講義をうけて、また23時まで地元でバイト。ショーガナイ、ショーガナイ。1人で考えてるうちに、もう大学の最寄り駅。一定の速度で目標地点まで等速直進。講義が終わった奴らがふらふらぺらぺらむらむらむらがって僕の進行を妨げようとするのをカスリもせず僕はただ足を動かした。できるだけ、力強くアニメに出てくる美少女ツンデレヒロインみたいなカツカツした感じ。
僕は1人でいるのに慣れてきたのものの、慣れない教室に足を運ぶのにはまだすこし抵抗が残っているようで、スマホで僕だけのグループチャットで き つ い と一言残しておいた。大教室の4分の3あたりの位置に座すのが僕のポジションで、毎回ポジショニングで間違えたことはない。早め早めの行動による賜物だ。僕は哲学科の人間のため、経済学部の設置している「ビジネス概論」とは無縁も無縁。なんだけど、結局僕には、革新的?イノベーション起こせる最強?スーパーな起業家、才能を活かせる仕事などできるはずもないため、早め早めの行動によってビジネスの講義を選択したわけだ。どうせ大学の講義だから何の役にも立たないんだろうけど、こんな僕にどうこう言えることではないのだ。僕が得意なのは、自分の価値を下げることで様々な価値が相対的にあがるという一周廻って幸せで満足を得られる考え方である。それでいいのだ。
講義の時間になった途端に、初回のためガイダンスですぐに終わった。バイト行くにはまだ早いな、どっと出ていく学生のピークが過ぎたら立ち上がろうか。全講義の共用ノート、ボールペンをざっとしまって、席にはりついた尻をぺりぺりはがす。
「…何年生ですか?」
微かだが、確かに僕に向けられたものだった。その声の発信者は僕の右隣にいた。僕は隣に少女がいることにまったく気づかなかった。
「2年生ですよ」
おどおどせずに、ゆっくり彼女に目を向けた。せっかく僕に話しかけてくれたんだから、
「そちらは」
とたずねてみる。
「1年生です」
新入生か。だからこんな思いきったことができるのね。
「経済学部の人?」
彼女はふんふんと頭を振った。
「文学ぶです」
「あれ、僕もだ」
珍しい。文学部でビジネス講義きてるひと。いたんだ。
「先輩…ですね」
センパイ。僕に向けられたことない呼び名。読んだこともあまりない名称。なんて返せばいいのかわからなくなった。たった学部が一緒なだけだったら共感なんて普段はわかないんだけど、慣れない教室、人たちの中では妙に彼女に僕は惹きつけられていた。