6話・信仰へ
一通り話し終えたリンは、いまだに俯き唇を噛み締めていた。ふるふると少し体を震わせながら、それこそ嫌な過去でも思い出しているかのように。
僕は、とある決意を固めた。目の前で、今にも泣き出しそうな顔で震えている少女に、神が出来ることなんて、もうはっきりしているのだから。僕はそっと語りかける。口ではなく、頭で。
『僕は、神だ。でも役割・・・・・・司る概念をまだ持っていない無名の神なんだ。』
突然脳内に声が響いたからか、リンはビクッとこちらを向いた。その反応から僕の声が聞こえていることを確認し、僕は語りかける。
『僕は魔力も神としての力も、神としては無いに等しい。でも、もし君が僕を信じてくれるのなら、少しだけど僕は君の力になってあげられるよ。』
リンの様子を気遣いつつ、話し続ける。
『君に何があって、今君が何を思っているのか、今の僕には計り知れない。だから、僕が勝手に力になりたいと思った所でどうすることもできない。』
リンは眼を見開いたまま、こちらの話を静かに聞いている。
『でも君の信仰があれば、僕はその分神としての力を増して、君の迷いや悩みを取り除いてあげられるかもしれない。力になれるかもしれないよ。』
僕が言葉を切ると、リンはぽつぽつと自分のことを話し出した。
「・・・お父さんもお母さんも、魔物に・・・殺、されて・・・ずっと一人ぼっちで、恨みを晴らすために・・・魔物と戦ってました。誰の助けも借りずに。他人と関われば、いなくなった時に、悲しみとか怒りがこみあがってきて仕方なかったから・・・憎しみが増して仕方なかったから」
堪えきれなくなったのか、目が潤み出すリン。それでも、こちらをじっと見据えている。
『君は僕のことを助けてくれた。僕は君とずっと一緒にいる。』
「・・・・・・!」
そろそろ本人の意思を確認しよう。この世界で一度神への信仰を認めれば、信仰をやめたり他の神に信仰対象を変えることは出来ないのだ。神との約束は絶対不変。しっかりとリンの眼を見つめ、問う。
『君は、僕の救済を望む?加護を得たいと思う?』
リンは濡れた瞳で、だがしっかりとした口調で自らの答えを返す。
「私は・・・もう一人でいたくない。孤独を捨てられるなら・・・私はあなたを信じるよ」
直後、リンから発せられた膨大な魔力が辺りで渦巻く。
(なっ・・・!?)
僕は僅かに怯む。それだけ多くの負の感情を抑えていたのか、あるいは・・・?
(今、は・・・そんなこと、どうでもいい!)
後は僕が、この莫大な魔力を受け入れて僕自身の力にし、リンへ加護として与えられるかどうか。例えば僕を地上へ降ろしてくれた月の女神のような大神なら、対象の魔力が多少多かろうが問題なく受け入れられるだろうが。
(う・・・くうっ・・・)
真っ白な魔力の奔流に呑まれぬよう、自我が崩壊しそうになるのを全力を以てして抑え込み、吸収し自分の力に変えてゆく。限りなく精神力が削られ、時間感覚も、意識すらも曖昧になっていきながら。そして、自分が壊れる直前。
(これでっ・・・最後ッ!!)
あれだけ激しかった魔力の流れは、すべて自分の支配下に下った。僕はそれをしっかり確かめ、取り入れた魔力から『リン』について把握し、すぐに加護を編み出す。
「・・・はぁ、はぁ―――」
不意に、リンがガクッと膝を折る。咄嗟に床に手をつき倒れることは免れたが、苦痛に顔を歪め、少し過呼吸気味になっている。
一度に大量の魔力を失うと、その身体は多くの不調を来してしまうのだ。だから、最速で。リンを守り、助けるのに丁度良い加護を考え形にする。
(よしっ、これでできた!)
そして出来た加護の刻印をリンの額、前髪で隠れるくらいの場所に――――――ぺたん、と。
苦し紛れだったリンの表情が徐々にやわらぐ。加護を受けてとりあえず落ち着いたリンの第一声は―――
「こんな通過儀礼あるとか、聞いてないです」
『僕も知りませんでしたごめんなさい』
はい、やり方は知ってたけど僕にもこれはいろいろ想定外でした。
お久しぶりです。よーやく執筆出来そうな時間ができたので、しばらくぶりに投稿しようと思いました。長い間空けてしまってすみませんでした。
目指せシリアス打破!
(リン)「神様が簡単に人に謝ったら威厳消えますよ?」
(狐)「僕まだ10歳だよ?何かしでかしたらすぐ謝るのは常識だよ?」
(リン)「えぇ~・・・」