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私のお庭へようこそ、あなたを歓迎します!  作者: おん
第一章 はじまりのお話
7/10

1-7

 お庭の木から元の世界へ帰れると判明してから、私たち三人の間には微妙な空気が漂っていた。

 おじょうさまはすっかり体の調子は良くなったようだが、どこか浮かない顔をしているように見える。


 その日の夕食は、いつもより豪華な気がした。

 後片付けを終え、ゴエモンが切り出した。


「家に帰らせてもらう」


 えっ、離婚の危機……!? なんて冗談を言える雰囲気ではなかった……。


「そう……寂しくなるわね」

「ゴーちん……」


 私もおじょうさまも何となく予想していた事だった。


「弟たちや妹が気がかりなんだ。ここでの生活、それなりに楽しかったぜ」



 その夜、ゴエモンは帰っていった。


「コレ……餞別の品です」


 別れ際、私はゴエモン用に作ったネズミエプロンをしずしずと差し出した。

 ゴエモンは片眉をピクッと上げたが、受け取ってくれた。

 大丈夫、フリルは付けてないから……。付いてても似合うと思うけど。


 彼は木の枝の上から、「じゃあな」と私とおじょうさまの頭をポンポンと撫でて、あっさりいなくなってしまった。

 あまりに呆気ないお別れだ、とぼんやり隣のおじょうさまを見やる。

 その目が潤んでいるように見えて、しばらく二人でその場に留まっていた。



 もしかしたら、またすぐに会えるかも、と思ったけど、ゴエモンを呼び出す事はできなかった。


「わたしは魔法は使えるんだけど、どうやってるのか、自分でもよく分からないの」


 おじょうさまは申し訳なさそうにそう言った。



 眠る前に、自室のベッドの中で、私はゴエモンとの会話を思い返していた。

 彼が帰る前、おじょうさまのいない時に交わした言葉だ。


「お前が元の世界に帰りたいって考えにならないのは、お嬢の魔法の影響だと思うぞ」

「何でゴーちんはいつもそんなに冷静なの……大人の余裕ってやつ?」

「俺はまあ……耐性があるから?」


 ゴエモンの世界にも魔法があるのか……。あっ、もしかしてその姿! そうかなるほど。いや、そこは掘り下げないぞ。長くなりそうだし。


「それに、妹が面倒くさくて、しばらく離れられてホッとしたくらいだったしな」

「でもやっぱり会いたくなっちゃったんだ? ふーん、へえー、そーなんだー」


 ガブリ。痛い。


 何だよー、だって「面倒くさい」って感じじゃないよ、妹さんの話する時。そりゃニヤニヤしちゃうよ。


---


 そんな日々を繰り返すうち、私は両親や絵美利、学校の事……元いた世界の事を考える時間が次第に長くなり、ここに来て初めてホームシックというやつにかかった。

 魔法がとけてきたのだろうか。

 でも、帰りたくない。おじょうさまと離れたくない。でも……。でも。



 そしてある夜、私は決心し、おじょうさまのお部屋にやって来た。

 彼女はベッドに座って大きな窓の外をぼんやり眺めていた。

 言わなくては。早まる鼓動を感じながら、深呼吸し、手と足にグッと力を入れた。



「おじょうさま、お別れを言いに来ました」



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