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おじょうさまをベッドに横たえ、寝入ったのを確認すると、皆のいるキッチンへと向かった。
ライムは白衣のポケットから植物を乾燥させたようなものを数種類取り出し、鍋に水と一緒に放り込んでいた。
それからお家の中を物色し、点在していたフタ付のガラス瓶の中身(魔法草と言うらしい)も利用していた。
インテリアだと思っていたけど、魔法に使うものだったのか……。
ぐつぐつと煮込んでいる様子は、いわゆる魔女鍋と言うよりは、料理をしているようだ。ハーブのような香りがする。
そのうち立ち上る湯気、というか煙、が黄緑色になってきたので、私は窓を開けた。
「魔女かぜ? ってのは魔女がかかる病気なの?」
「ソウ。魔女が精神的に弱っている時にカカル。何か不安に思っている事があるのかもネ」
……私たちが魔法の話を持ち出したからかなぁ。おじょうさま、隠しておきたかったみたいだったし。
ライムは魔女だって言うし、相談してみよう。
「おじょうさまは魔法を自由に使えないって言ってたの」
ライムは重たそうな瞼を持ち上げ、目を見開いた。
「そんな状態で異世界から複数のヒトを召喚デキルなんてオジョーサンはスゴイ力を持っているんだネ、ワタシみたいに」
「そうだったんだ…………サラッと自慢入ったね」
「デモ、コントロールできないんジャ、かなり魔力を消費するのデハ?」
魔力……MPってやつか!
もしかして、おじょうさまがよくお昼寝をしているのは魔力回復のためだったのか!?
そういえば、ゴエモンが来てから寝ている時間が長くなった気がする。
一方、ゴエモンは夜食を作りつつ、ネズミ……ソルトの相手をしていた。
「これはお前用に」
「お気遣いありがとうございます」
私のジャムを乗せて焼いたクッキーみたいなお菓子を、肩に乗せたソルトに手渡す。
ソルトは小さな両手でそれを持ち前歯でサクサクと齧ると、ビビッと体を震わせた。
「何と! こんなに美味な食べもの、初めてです!」
ジャムクッキーにすっかり魅了されたようだ。尻尾を揺らしながら一心不乱に食べている。
そんなソルトを見ていて、私はピン!ときた。きたきた、降ってきたぞー衣装のアイデアが。
出来上がったライムの薬をおじょうさまに飲んでもらうと、たちまち顔色が良くなった。
これで一安心かな。ホッとしてちょっと涙ぐんでしまった。
後はゆっくり寝て魔力を回復すれば良いとのこと。
おじょうさまの看病をしながら、ベッドサイドでチクチクと既製品をアレンジしてライムに着せたい服を作った。
薬のお礼と称して、私の趣味全開の衣装をプレゼントだ。
黒いシャツの襟や袖に、白いフリルを付け足し、同じく黒いショートパンツは細長い脚をより強調している。
そして、メインはコレ、ネズミエプロン。白いフリフリエプロンの胸当てのサイドにネズミの耳が生えている。
後ろで結ぶ腰ひもは、片結びにすると尻尾のようになるデザイン。前面の大きなポケットはソルト用だ。
仕上げに、せっかくの金髪ツンデレなので、髪型はツインテール。おまけにメイドカチューシャも付けちゃう。
「カッワイイー! 私って天才!」
「はあッ!? だ、だ、誰が可愛いですっテ!? 馬鹿にしないでよネ! 嬉しくなんてないんだカラッ!」
出たー、ツンプル。ありがとうございます!
「モウッ、ワタシ帰るからネッ! オジョーサンによろしく言っといてよネ!」
顔を真っ赤にして逃げるようにあの木に向かい、器用に登っていく。
最後に、ソルトの
「それでは失礼いたします。ふふっ、こんなライム、初めて見ましたよ」
という呑気な声が聞こえ、ガサガサっと枝が揺れたかと思うと、それきり静かになった。
…………。
「「帰れんの!?」」
ゴエモンと声が重なった。顔を見合わせる。
その発想はなかった……。