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とんがり帽子は速やかに私の手によって生み出され、想像通り、いやそれ以上に、愛らしい魔女さんに似合っていて卒倒しかけた。
気が向いたら時々かぶってくれるそうだ。
「頭に大きな赤いリボン、ってのも眩暈がするくらい似合うわ、きっと……今夜も徹夜だわ」
と、ひとりごちて、ハッとなった。
いけないいけない。うやむやになってしまっていたけど、今日こそはおじょうさまに魔法について聞かなければ。
なぜ私がここに、どうやって?
いまのところ分かっているのは、魔法は自由に使えないという事だけ。
さっそく、おじょうさまの部屋を訪ねる。
「おじょうさまー、まだ寝てるんですかあ?」
ベッドに横になっているのを確認し、覗き込む。
あれ? 様子が……。お顔が赤いし、息も苦しそう。これはもしや。
おでことおでこをくっつけようとして、いやいや待て待て。ちょっとまだ私にはできない照れちゃう。そーっと手を当ててみる。……熱い!
突然の看病イベントin異世界! しかしスキルがない! ゲームみたいに「よっしゃ!」とか浮かれられないんだな、現実は……。どうしよ、何をすれば良いんだ!?
とりあえずゴエモンにおかゆっぽいものを作ってもらい、食べて栄養をとってもらおうという事にした。
決して「はい、あーん」とかやりたいわけではない。……フーフーするぐらいなら良いよね?
「ご飯、食べられますかー?」
部屋に入ると、ゼイゼイとした息遣いが聞こえ、さっきより顔色の悪くなったおじょうさま。
慌ててベッドに駆け寄る。
「おじょうさまー、死なないでーっ」
「ちょっとマリ、静かにしてくれる……? だいじょうぶだから……」
「そうは言っても……大変ーっ! 病院ってどこ!? ……そうだ!」
おじょうさまに肩を貸しながら、半ば引きずるようにしてあの木へ向かう。
本当はお姫様だっこしたかったけど、できなかった……。不覚! 筋トレしよう……。
具合の悪いおじょうさまを外に連れ出すのは可哀想だが、彼女が近くにいれば魔法の力が働くのではないかと思ったのだ。
「この中に! お医者様は! お医者様はいらっしゃいませんかぁーー!」
どさどさどさっ。
ほらきた!
あーら便利。さながら四次元(人間)ポケット。
落ちてきたのは金髪のスレンダー美女だ。スラーっと長い脚が目を引く。
白衣を着ている。医者だ! 白衣の下はミニスカスーツ。これまでいなかったアダルティ要員だ……。
緑のような青? もしくは青のような緑色の瞳が美しい。
日本人ではなさそうだけど、ここは異世界。翻訳コンニャクはいらないのだ、安心。
美女は落ち着いた様子で、眠たそうな目をしている。
辺りを見回した後、居住まいを正してこちらを見上げている。
「あ、あのー、お名前と年齢を伺いたいのですが」
「ワタシはライム。六歳だヨ」
「逆にね!」
うんうん、そのパターンもあるんじゃないかなって思ってたよ!
金髪の美女ではなく金髪の幼女だった。
朝食の仕込みのためにいつもは早寝早起き(とか言ってるけど体がお子様だからだと思う)のゴエモンも
「いったい何の騒ぎだよ?」
と起きてきた。
「ゴーちん、お医者さんが降ってきた!」
「もー、お前そんなにホイホイ呼ぶなよ……」
「ワタシは医者じゃナイよ、魔女だカラッ」
自称魔女ライムが平らな胸を張る。医者じゃなかったのかぁ。
よく見ると白衣の胸ポケットから銀色に輝く毛並みの……ネズミ?
「これはネ……」
「私はソルトです。お初にお目にかかります。どうぞよろしく」
「あー、ネズミ喋るんだ……そうだよね、喋るよね……声優さんみたいなイケメン声だね……」
もはや何が起きても驚けない体質になりそう。
ネズミは使い魔みたいな? 魔法少女じゃん……コスチューム必要だよね? 作るね……。
ショタ(中身おっさん)にロリ(見た目は美女)に小動物(美声)まで……。
ちょっとー、私のキャラ弱すぎて埋もれちゃうよぉ。あ、この中で普通、ってのが逆に個性的か?
「おい、お嬢がぐったりしてるぞ、大丈夫か?」
しまった、本来の目的を忘れるところだった。
「魔法少女さん、助けて! 私の大事な人が大変なの!」
「……? そこのオジョーサン? じゃあ魔女かぜカナ? いま流行ってるしネ」
「あぁーっ、話が早くて助かる! って魔女かぜ?」
「オジョーサンも魔女でショ? ワタシ、魔法薬作るの得意だカラ、オジョーサン治せるヨ」
「何か良く分かんないけどヤッターッ、ありがとう女神さまっ」
飛びついてお礼を言う。
「べ、別に、アナタに頼まれたからじゃないんだからネ、勘違いしないでよネッ」
わあーっ、ツンデレのサンプルみたいな台詞だぁ。略してツンプル。
このお庭は本当に楽しいなぁ、とおじょうさまに目をやって、慌てて部屋に運んだ。