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「ゴーちん!」
「誰の事だそれは」
ゴエモンの睨みをサラリとかわし、後ろ手に持っていたモノをお披露目する。
「じゃぁーん! ゴーちんの制服です!」
「は? 制服?」
ゴエモンがやって来てから、勝手にコツコツと仕立てていたコックコートが出来上がったのだ。
形はアニメとかに出てくる料理人キャラを参考に。白にベージュの縁取りがアクセントになっている。ショタ向けに特化した短パン仕様で、白いソックスが眩しい。帽子はココア色のベレー帽だ。
うん、通の方にもご満足いただける仕上がりかと……。
「ふーん、器用なモンだな」
ちゃんと着てくれるんだね、ホント順応力あるよね。年の功なのかしら。
「そうだ、靴は草鞋じゃないとダメ? 裸足だと、靴下と短パンの間に生まれるはずの絶対領域が……」
「絶対領域? コレ履いてんのは、足音が……いや、何でもない。ここでは別に履物は何でも良いな」
えっ、いま何か不穏な感じしたよ? そっちの世界では何を……ダメだ、やめとこう。危険な香りがする。
その後そのまま二人で買い物に行き、ダークブラウンの短めの長靴を選んだ。機能性重視だけど、なかなか可愛い。
こんな感じで、最近の私たちはおじょうさまのお昼寝中に二人で過ごす事が多い。
キッチンはすっかりゴエモンの城になっている。
この世界に来てからお菓子作りにハマっている様子で、可愛いのが可愛いもの作るってどんだけ可愛いんだ。
私の作ったジャムも積極的に使ってくれるので、ジャム作りは相変わらず私の仕事だ。
彼は研究熱心というか、のめり込みやすいタイプみたいだ。
そのうち家庭菜園を始めたいらしく、庭の手入れもゴエモンがやってくれている。
「他にすることもないしな」
「隠居生活みたいだね……」
ジャムの鍋を混ぜながら横目で様子をうかがう。
髪は無造作にぴょんぴょんと外にはねていて、キッチンの窓から差し込む光で目が黄色く輝いている。気まぐれな黒猫のようだ。
上の方にある棚をじっと見つめていたので、
「届かないでしょ? 持ち上げてあげよっか?」
と両脇の下に手を差し込もうとしたら噛みつかれた。凶暴だな……。
結局どこからか踏み台のようなものを持ってきて棚を整理している。子供がお手伝いしているみたいで可愛いなぁ。
やがて台の上に足を開いて浅く腰掛け、何やら果物らしきものを小さいナイフ片手に齧り始めた。
「お前も食うか?」
愛くるしいショタの外見に似つかわしくないワイルドな所作だ……。
「そういえば、ゴーちんは兄弟がいるんだっけ?」
「下に五人いるんだ。俺長男」
そりゃまた賑やかそうなご家庭ですね、ってこの見た目で六人きょうだいの一番上って……。
「弟は双子が二組で四人。で、真ん中に妹が一人。……そういや、お前、妹に似てるな」
「へえ? 妹さんの名前は? ゴエミ?」
と軽口をたたくと、
「何で分かったんだ?」
「嘘でしょ?」
想像しようとしてやめた。ゴエミって。私に似てるの? どういう意味で?
ゴエモンは妹さんと私を頭の中で比べてみたのか、ニヒルな笑みを浮かべた。
そういうの、その外見でやるのやめてってば……。
「ゴーちんったら、私の事が好きなのぉ?」
ニヤニヤして言ってみる。
「……そーいうところが、似てんだよなぁ……!」
手の甲で口元を押さえてクククク、と肩を震わせるので、急に照れくさくなりムズムズと赤面してしまう。
何ニヤついてんだ、おっさん。
「お前は? 家族の事思い出して寂しくなったりしねえの?」
「うん……何でだろ? 何で寂しくないのかな? うーん、モヤモヤするー……」
ゴエモンはそんな私を見て何か言いたそうにして、しばらくの沈黙の後、口を開いた。
「お嬢って魔女だろ?」
「まじょ?」
はて? まじょって何だっけ?
「だから、お前は、お嬢に、魔法で、この世界に呼ばれたんだろ?」
「……へっ? そうなの?」
ゴエモンは眉間に皺を寄せた。それクセになるからやめた方が良いよ!
……ていうか。魔女? 魔法? 何で今まで考え付かなかったんだろう。異世界での定番じゃんね?
「わたしもいれてー」
噂をすれば何とやら、そこに寝ぼけ眼のおじょうさま本人がやって来た。
単刀直入に聞いてみる。
「おじょうさまって魔法が使えるんですか?」
「自由に使えるわけではないわ……あっ」
答えてから、ハッとして口をつぐんだおじょうさま。目が覚めたようだ。
うっかりさんなおじょうさまも可愛いなぁ。レアだわ。
……じゃなくて。
「大変、すぐに魔法使いのとんがり帽子作らなきゃ!」
ゴエモンの大きな溜息が聞こえた。