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参加者たちが鏡館で過ごす最後の夜が訪れた。
ここ数日間、この館で起こった凄惨な出来事など露知らず、外の森は普段と変わらず静寂に包まれている。
その中で、ゴーストライターは復讐を終えた感慨に浸る間もなく、ここで行う最後の仕事に、黙々と取り組んでいた。
――ようやく、この復讐劇にも終止符が打てる――
あともう少しで終わる。しかし急いてしまって、事を荒立てるような真似をしてはいけない。
ゴーストライターは逸る気持ちを抑えながら、ゆっくり慎重に四肢を動かしていく。
――あの男はこの世から消えた。もうメディアも気兼ねなく、ゴーストの話を記事にするはずだ――
ゴーストライターは影の身分から抜け出し、脚光を浴びるその瞬間に想像を馳せた。
思わず口元が綻ぶ。かすかな笑声が漏れ出る。
愉快で仕方がない。
ゴーストライターはポリタンクの中の液体を床に垂れ流しながら、誰もいない静まり返った廊下を進んで行く。
鼻歌でも歌い出しそうなほどに、気分が高揚していた。
――あの男が築いてきたもの全てを奪ってやった。これは報いなんだ。せいぜいあの世で詫びるがいいさ――
ゴーストライターは一晩かけて、ゆっくり、これまでの出来事を噛み締めるように想起しながら、館内にガソリンを撒いて行った。
火元は三階にしたほうがいい。
別に誰が死のうが知ったことではないが、無関係な人間が死ぬのは、出来るだけ最小限に努めておきたい。理由はそれだけではないが。
――シュボッ。
取り出したライターのホイールを回転させ、火を灯す。
ゴーストライターの瞳に、ゆらゆらと陽炎を纏った小さな炎が映り込んだ。復讐の炎である。
「さようなら、黒峰先生」
ゴーストライターは小さくそう呟くと、ライターを持つ手の力を緩めた。
しかしその瞬間――、
「今だっ!」
暗闇からそんな掛け声が飛び出してきたかと思うと、何が起こったのか把握する間もなく、押し倒され、ゴーストライターはガソリン臭い床に羽交い締めにされた。手から放たれたライターは――と、ゴーストが視線をそこに向けるが、既に闇討ちを仕掛けてきたうちの一人の手中に収められていた。
押さえつけられたゴーストが必死で顔を上げると、目の前に一人の男が立ち塞がった。
「さて、ゴーストライターさん。もうお終いにしましょう。復讐は終えたんでしょう? ならそれ以上、罪を増やすべきじゃない」
ゴーストライターも耳にしたことのある声が、天から降り注いできた。




