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鏡館の厨房の戸棚。
数多の食器や調理器具、簡易な食料品や調味料が並べられたその棚に向かって、影が佇んでいた。
戸棚のガラスに顔が映りこんでいる。口元ににやりと邪な笑みを浮かべた小説家の顔が。
――雉音殺しはうまくいった。しかし、あれはまだ――
影は右手に持った原稿をちらと一瞥する。
鏡館殺人事件の原稿だ。ここに、第二の事件が描写されている。
――まだ、始まりに過ぎないのだ。我が復讐の道程は半分にも達していない――
ガラスに映る顔から笑みが消えた。鋭い視線で自分自身を睨み付け、内から殺意のエネルギーを発散させるべく鼓舞する。
影は左手に握りしめたその瓶を見つめた。毒薬の入った瓶を。
――次はこいつの出番だ――
影は静かに瓶の蓋に手をかけた。




