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健全に生きてきた俺が地獄に居る解説を頼む  作者: あどれな林檎
第一章
8/10

5話 続

「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


森が唸るようだった。鳥は一斉に飛び立ち、他の動物は悲鳴を発しながら駆け抜ける。虫ですら緊張に我が身を震わせているようである。


「死依……」


冥が身を抱きしめながら身震いする。死依と亞鬼から発せられる『悪寒』にあてられたのだ。実際周囲の温度は肌で感じるほどに下がっていた。


「いくよ」


死依が動く。今までの動きの比ではない程に、速く。巡りには単純な身体能力上昇の効果があり、2大能力となればその能力値の高さは尋常ではない。

秒もたたぬうちに亞鬼の手前まで来て、スッと身を低くして相手の視界からその姿を消す。その速度に反応できるわけもなく、亞鬼は死依を見失い立ち尽くす。死依は低い体勢から亞鬼の顎にアッパーをくらわし、バックステップですぐさま死依は少し距離をとる。


「ウ゛、ァ゛ァ゛ア゛」


「動けないでしょ」


顎の打撃により脳を揺らせたのだ。たとえ亞鬼が巡りを使ったことにより、身体能力が上昇したとしても、今は意識がない。それに亞鬼は格闘技術をまるで習得していない。この時点で亞鬼と死依のポテンシャルには大きな差がある。

体の自由を一瞬奪われている亞鬼に向けて次の一撃を見舞うべく詰め寄り、振りかぶる。亞鬼の顔面が大きく凹み、死依はそのまま地面に叩きつける。


「…ッ゛」


亞鬼の体が大きくバウンドする。死依は間髪入れずに亞鬼の足を掴み、近くの泉に放り投げる。抵抗できず「ドボン」という音とともに亞鬼が落ちる。


「さ、でできなよ」


亞鬼の落ちた泉に、凍るような視線を向ける。


「ウ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛」


水しぶきを派手にぶちまけながら発狂した亞鬼が体を起こし、立ち上がる。死依を見つると一目散に向かう。死依はそれを見つめながらほんの少し構えるが、守りの姿勢をとらずに亞鬼と向かい合う。死依が振りかぶられた亞鬼の拳に、そっと手を添えた。途端、亞鬼の動きがピタリと止まる。亞鬼の全身は氷に包まれていた、先ほど浴びた水がすべて凍ったのだ。


「これで終わりだね」


ぐっと構える、少し溜め、その拳を亞鬼に放つ。


ドンッッッ


しかしその拳は亞鬼には届かずにいた、冥だ。巡りもしていない冥が死依の一撃を掌で受け止めていた。


「それ以上は死んじゃうでしょ、終わりなのはそっちよ」


「……」


じっと冥を見つめ、すっと巡りを解いた。


「ありがとう」


ニコッと笑みを冥に向ける。よかった、というように冥がホッと安堵する。


「集中力が高いってのも面倒なもんね」


「そうだね、冥ちゃんがいなかったら危なかったかも」


「危ないってか、殺してたわよ」


「ははっ、ごめんね」


「ま、いーわよ」


事態を収めた冥が凍った亞鬼を見る。


「それよりこいつね、完全に暴走してたわ」


「普通は……こんなこと、ないよね……」


血華も傍に寄ってきて話す。


「色も……白……?」


「そーみたいね、白鬼しろおになんて初めて見たわ」


「属性らしきものはなにも見えなかったよ?」


3人とも見たこともない巡りが確認されたため、少し混乱している様子だった。


「白ってことは…く、雲とか」


色から推定できる属性を冥が言うが、ピンとこない。


「雲って、なにするの?」


「え?そ、そーね…水蒸気を出す?」


「「「……」」」


その様子を想像し、しばし全員沈黙する。そして徐々に不安が顔に現れていく。


(((弱っ……)))


森のカラスが、「カァーッ」と鳴いた。


「その、今日は解散にしましょうか」


「そ……そうだね……」


「う、うん!じゃ、またね~」


さっそうと死依が森を出て行く。修行場には残された冥と血華、凍ったままの亞鬼がいた。


「はぁ、とりあえずこれ戻さないとね」


ため息をついて亞鬼を救出する作業に取り掛かる。このまま氷漬けにされていてもかなり危ないと察したのだろう。息をするように冥が巡りを発動した、色は赤である。

スッと凍った亞鬼の顔に手をやる。


ジュウゥゥ


手のそばの氷から徐々に溶けていった。そのまま手を回していき、首から上の部分をすべて解凍し終わる。


「ウッ……ウァアァアァアア」


亞鬼が意識を取り戻すが、まだ正常な判断はできていないように伺えた。動ける首を右に左にと振り回す。その姿はまるで罠に引っかかった小動物のようであった。


「よっと」


バチッッ


冥は亞鬼の顔面にビンタした。巡らせた状態の冥の筋力は相当なもののため、一発で亞鬼はまた意識を失う。髪や目は元の黒色に戻り、角も通常の形へと変わっていった。

このままでは持って帰れないため、全身を解凍するべく先ほどと同じ方法をとる。


「面倒ね……」


肩あたりまで氷を溶かしたが、その効率の悪さに冥が一言ぼやく。そこで丁度なにか思いついたかのように手をぽんと叩いた。


「血華、ちょっと離れてて」


「え?うん……」


血華が自身から距離をとったのを確認した冥は、亞鬼の前で拳を握る。


「オラァ!」


掛け声とともに亞鬼の足もとの地面をぶん殴る。


ドッッ


熱が地面で反射して亞鬼の全身を包み、氷が一瞬で解ける。が、その勢いで亞鬼の体は2、3メートル垂直に飛び、二回転ほどして地面に落ちた。


「強引だね……」


姉のやり方を見て血華が引く。


「へ?し、仕方ないじゃない!結果よければ全て良し、よ」


「う……うん。そうだね……」


「そーよ、さっ帰りましょ」


冥は巡りを解き、ぐったりと横たわる亞鬼を片手で担ぐ。


「それ……大丈夫?」


「大丈夫よ、軽い軽い」


「いや……そっちじゃなくて……」


亞鬼の安否を考慮し持ち方に指摘をしたが、そんな考えは冥には一欠片もないようだった。頭にはてなマークをかかえた姉をそばに、ため息をつく血華だった。


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