4話
4話は亞騎らの馴れ初めと説明回になります
「ん……」
亞騎の目が覚めた。視界に入る窓からは太陽の光が差し込んでいる。どうやらこの日差しに当てられ自然と起きたようだ。上半身を起こして首を回す。
「えっと……ここ、どこだ?」
周囲を一度確認して、少し見覚えのあるような気もしたがちゃんとした記憶には残ってはいなかった。昨晩のことは数秒の出来事で、亞騎も混乱していたし、なにより冥のとどめの一撃で記憶はほぼ消去されていた。とりあえず一番近い記憶をどうにか思い出すことにした。
「たしか俺……死んでて……」
過去に遡りながら頭に手を置いた。ブスッっと掌に何かが刺さる。
「いった……っ」
手を頭からどかして見てみると少し血が出ていた。少し驚きながらも怪我の痛みにより簡単に思い出すことができた。
「角……そっか、鬼になったんだったな」
少し思いつめた表情をして考えをいくつか巡らせたが、結局ここがどこであるかはわからない。今わかっていることは、たぶん地獄にいて、自身は鬼になっていて、ここが六畳間程度の和室であることくらいだ。考えていても始まらない。体を起こし、出入り口であろうふすまえと向かう。ふすまに手をかけた時、気づく。
「手、治ってる……?」
先ほど自分の角に刺さって負傷したはずの右掌がすでに完治しかけていた。左手で傷跡をさすりながら確かめるが、外傷はほとんど無くさすると少し痛むくらいだった。
「これが、鬼になったってことか」
体でもう人ではなくなっているのだと実感し、逆に少し安心したようだった。亞騎はそのままその右手でふすまを開く。すると2人の女の子がすでにそこにいた。一人は台所でトントンと包丁を扱っている。もう一人はちゃぶ台のすぐそばの座布団に腰掛け、こちらに気づくと赤くなり、プイッと向こうを向いた。どちらも頭に2本の角が生えていた。自分は1本であることから、男は1本、女は2本ついていつのではないかと推測できた。実際その通りである。TVもついていて、朝の天気予報がやっているようだった。意外と現世と変わらないのだなと亞騎は感じる。
「あ……起きたんですね……」
台所で料理をしていた子が気づき、亞騎に声をかけた。
「あの、俺…」
「え、えと……すすす、座っててください……」
「え?う、うん」
血華は人見知りな上に男慣れしていないので会話がうまくできなかった。亞騎はとりあえず言われたとおり座ることにした。
「えっと、ここでいいのかな?」
この気まずい空気が嫌なのでとりあえずすでに座っている子に会話を投げかける。
「勝手にすれば?」
「……」
会話にできなかった。というよりされなかった。ちょっと傷ついた亞騎は、今のは完全に相手が悪いだろうと自分に心の中で言い聞かせつつ、女の子の向かいの座布団に腰を下ろした。返答からして相手は俺のことが嫌いなのか、もしくは相当無愛想なのかのどちらかであると考え、とりあえず前者であると過程してもう一言話しかける。
「あの俺、なにか悪いこと……」
言いかけた途中でキッとその子が睨みつけ、何かを思い出したかのように顔が真っ赤になった。
「へ?」
どうやら怒っているようだったが、少し反応が変であると感じた。亞騎が話し続けようとしたとき、丁度その子が口を開いた。
「昨日のこと…」
「昨日?」
昨日なにかあったのか、と亞騎は考えたがいくら思い出そうとしても記憶に無い。地獄での一番古い記憶はついさっきである。
「その、悪いけど何も覚えていないんだ。俺が何かしたのなら謝るよ」
「え?お、覚えてないの!?」
女の子が驚いた表情を見せる。
「うん、なんにも」
「そ、そうなのね!それじゃ昨日は何もなかったってことよね!?」
「え、あ、ああ。そうなるんじゃないか?」
何のことだか亞騎にはさっぱりだったがとりあえず話に乗っかっておいた。
「よし!じゃあ昨日のは無し!ノーカン!」
さっきとは打って変わって表情も笑顔になっていた。そのまま亞騎に両の掌を向けてくる。
「えっと?ハイタッチ……?」
対応の変わりように驚いた亞騎は疑問を持ちながらも両手を女の子に向けてみせた。
「イェーイ!ノーカーン!!」
「い、いぇーい……」
パチンとハイタッチを交わす。正直、まるで意味がわからなかった亞騎であった。女の子はそのまま亞騎の両手と手をつなぎ、「イェーイ!」という声とともにブンブン振っていた。
「で……できたよ……」
「お、今日もおいしそーね!」
「あ、ありがと……」
もう一人の台所で作業していた子が朝食を持ってきてちゃぶ台に置き始めた。亞騎はとっさに行動にでる。
「あ、手伝うよ」
亞騎は朝食を出してもらっているのに手伝わないというのは少しよろしくないという考えが浮かんでいた。さすがは天国に行くべき魂の持ち主である。
「い、いえ……だ、だだ大丈夫です……す、座っててください……」
女の子はオーバーリアクションに手をぶんぶん横に振り、手伝わなくて良いということを伝えた。これは遠慮じゃなく本当に手伝ってほしくないといった感じだと亞騎は察し、促されるままに座っていることにした。察しが良い。さすがは天国に行くべき魂の持ち主である。
すべての料理がちゃぶ台に並び、それぞれ掌を合わせた後食べ始める。とりあえず亞騎も自分に用意されたものを食すことにした。料理は白ご飯、味噌汁、漬物、焼き鮭、納豆だった。いかにもな朝食である。味噌汁から手をつけることにし、手を動かす。よく出汁がきいているのだろう、鰹節の香りがほんのりと匂ってくる。
そして亞騎は自身が空腹であると、匂いに気付かされる。転生してからほぼ丸一日寝ていたので何も口にしていないのだ。空腹でないはずがなかった。匂いに誘われるがままに亞騎はその味噌汁を口にした。
「……」
「おいしい……!」
「え……?」
突然の発言に料理をしていた子が反応した。
「おいしいよこの味噌汁、すっげー旨い!」
「そ、そそそそうですか……その……よかった、です……」
ぱぁっと顔が明るくなり、その子が喜んでいるのだろうとわかる。引き続き亞騎は他の料理にも手を付ける。
「ま、血華は天才だからね。料理をさせれば右に出るものはいないわよ」
フフンと、まるで自分のことかのようにもう一人の女の子が自慢気に語った。だが事実である、味噌汁だけでなく、他の料理も少しながら工夫が施されているようで、朝食にしては絶品と言えるものだった。そして、それより気になったのは名前である。そういえば流されて飯を食っていたが、自己紹介すらしていないと亞騎は気づく。何よりこの状況がまるで意味がわからない。情報を欲するべく会話をつなぐ。
「血華、って言うんだ、名前」
「あ、そういえばお互い名前すら知らなかったわね」
気づいたかのように血華、という子ではない子が言った。これは良い流れだ、と感じた亞騎は自分から名乗ることにした。
「そういえばそうだな、俺は亞騎。素羅亞騎っていうんだ」
「ふーん、じゃ今日から亞鬼で、あなたもそう名乗りなさい。亞鬼」
「へ?何も変わってないじゃないか」
「変わったわよ。『き』の部分は鬼にしなさい。あと苗字?は無し。ここはそういうのないから」
「へぇ、そうなのか。てかよく俺の『き』の部分が鬼じゃないなんてわかったな」
「まあ当てずっぽうよ、名前に鬼が入ってる人なんてそういないでしょうしね」
言われて亞鬼は納得する。
「まあ、そうだな。」
「私は冥って言うの。こっちはさっきも言ったけど、血華よ」
紹介されてペコリと血華が頭を下げる。
「おっけ、よろしくな。冥、血華」
「うん、よろしく。」
冥が返事をした。血華は何も言わなかったので亞鬼は顔を伺うと、あまり良くないといった感じに見受けられた。亞鬼は表情を察するのが割りと得意だった。
「血華、さん?」
呼び方がよくなかったのだろうと、別の呼び方で試す。
「……」
さっきより少し悪くなったようだ。続けて試す。
「血華、さま?」
余計に血華の表情が曇った。どうやらかしこまった感じは苦手らしいと亞鬼は読み取る。
「血華ちゃん?」
パァァっと血華の表情がよくなる。どうやら呼び方はちゃん付けが一番うれしいようだと、亞鬼は感じた。
食卓を囲み、名を呼び合える様になって空気が少し暖かくなったように感じた3人だった。




