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休み時間(1)

再び教室が喧騒に包まれる。次の試験科目は社会のようで、皆一斉に教科書やら参考書やらを鞄から引っ張り出してきて、呪文の如く年号やら事項やらを呟く。実際呪文のようなものだからこの喩えは間違って居ないのだが。


「お疲れ〜殉夜(じゅんや)


「やっぱお前先陣切るとか勇気あんな〜」


などとクラスメイトから労いの言葉をかけられているのは、水無瀬殉夜(みなせじゅんや)。先ほどの数学の試験で怪物を真っ先に因数分解しに行った男子学生である。


「いやあれは俺が凄いんじゃなくて、お前らのフォローになる確率とか指数関数とか積分のお陰だっつーの」


ま、次もがんばろーぜ。


仲間への謙遜と感謝の気持ちを伝えると、殉夜は教室の隅に居た一人の男子生徒の肩を盛大にぶっ叩いた。


「いっ‼︎」


殉夜に肩を叩かれた生徒が跳ね上がる。も、教室に居る人間は誰も気に留めない。皆次の科目に備えて必死に事柄を頭に詰め込んでいるからだ。


「殉夜・・・肩外れるかと思ったんだけど?」


「健、この試験こそはバシッと数学使ってくれるかと俺はすんげ〜期待してたんだぜ?」


殉夜に肩を叩かれた学生ー楠木健(くすのきけん)ーは、曖昧な笑みを浮かべる。


「試験前に一週間数学特訓に付き合ってやったのによ!確率も因数分解も指数関数も微積もナシかよ!」


殉夜はどこからともなくハンカチを取り出し、おいおいと泣き真似をする。


「いや、俺が使ったところで威力そんな出ないし、そもそも定義とかの時点で失敗するかな、と思ってさ・・・」


あはは、と乾いた笑みを浮かべる健。彼の言い分は尤もだった。健は自他ともに認める「数学の落ちこぼれ」という位置付けの生徒である。


「かと言って使わなきゃ余計上達しねーだろーが!!」


そう言って健に詰め寄る殉夜。ちなみに彼は柏木高校理系特進科の数学学年トップである。そして健の幼馴染でもある。怒りに体を震わせる殉夜の頭に、日本史の教科書が振り降ろされる。


「殉夜の言うことは間違っちゃいないな。しかし社会は暗記科目だろう?二人とも直前まで暗記しなくとも問題ないのか?」


涼しげな顔で日本史の教科書を振り下ろした男子生徒の方を、殉夜はキレながら、健は安堵と共に見る。


「「那央斗!」」


二人にそう呼ばれた男子生徒の名は蕪城那央斗(かぶらぎなおと)。先程の戦いで見事に積分計算をやってのけた人物である。


「てめえ健から数学の赤点を回避するチャンスを奪いやがって・・・」


「うん?殉夜こそ先陣切るなどという格好つけた真似したよな?」


殉夜と那央斗、二人の間に火花が散る様子を呆然と見つめることしか出来ない健は、取り敢えず社会の用語集を取り出す。健にとって、社会は得意ではないが苦手でもないという微妙な位置づけにある科目なのである。


「あの二人とも、社会もうすぐ始まるし最後の確認でもした方が・・・」


健の言葉に二人は取り敢えず怒りの矛先を収める。


「放課後にでもこの決着はつけようじゃないか」


「ああ。受けて立つぜ」


あまり収まっていない気がしたのは健だけではないはずだ。休み時間終了を告げるチャイムが鳴ったので健が他の生徒同様自分の持つ用語集を片付けに行こうとすると、わっしと肩を掴まれた。


「うわっ」


「けどな」


健の肩を掴んだ人間は案の定殉夜である。


「超初歩的な「数学」でも、俺は怪物が弾ける時に咄嗟にお前が創ってくれた円柱状の防護空間、嬉しかったぜ。まあ那央斗はぜってー俺にまで防護空間創らねーって解ってたからな」


ありがとな


そう言って殉夜は自分の席へと戻って行った。

確かに、あの巨大な異形が弾け飛ぶ時に健は円柱の体積を求める式:V=πrの二乗×hを使用して殉夜が入る大きさの防護空間を作った。初歩的な物だから威力は微々たるものだが、強度は誰かが別の式を作って高めてくれたらしく、殉夜は無傷で済んだのだ。それに幼馴染がちゃんと気づいていたことを嬉しく思いつつ、健も席に戻った。

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