兄編
前(兄編)後(妹編)で内容・雰囲気が異なります、ご注意ください。
──全員集まったな?
大人達には気づかれてないな?
まあ、気づかれても毎年やってるから大目に見てもらえんだろ。
ではこれより夏休み恒例、孤児院百物語を開始します。……うるせーな新入り。こんな人数で百話も話せるわけないだろ。雰囲気だよフンイキ。人数足りないんだから、毎年やってればいつか百話になるだろ。──意味がない? だから雰囲気だって言ってるだろーが。
他に文句のあるヤツは……いないな?
じゃ、今年も俺が一番手な。
俺の友達の兄ちゃんの彼女の父親の親戚の人が聞いた話なんだけど……何だよ妹。……え? 信憑性がない? いいんだよ都市伝説みたいなもんなんだから──ちょ、何で呆れた顔してんだお前。
あーもー話の腰折るなって!! いいから黙って聞いてろよ!!
──昔、仲の悪い兄と弟が夏休みに他の友達と肝試しに墓場に行ったんだ。
仲が悪いのに何で一緒に肝試しに行ったのかって思うだろ?
お互いに相手をビビらせたいって思ってたらしいんだな。
で、クジを引いたら二人とも仲良くお化け役になっちまった。
仕方なくそれぞれ墓の陰に隠れて他の奴が来るまで待ってたけど、少ししたら待つのに飽きたらしい弟がどこかにフラフラ歩いて行った。
迷子になっても知らないからな、と兄貴は追いかけなかったが、帰ってきた弟が兄貴の元にやってきてこう言った。
『墓場の反対側に古い家を見つけた。空き家みたいだし、肝試しに使える何かがあるかもしれないから探険に行ってくる』
『何があるか分からないから、他の奴にも声をかけて皆で行った方がいい』と兄貴は言ったが、そんな兄貴に弟は『ビビってるなら皆と一緒に来ればいい』とバカにしてまた一人で家に行っちまった。
腹が立った兄貴は勝手にすればいいと暫く放っておいたが、結局他の奴と合流して弟を追いかけた。
で、弟の言っていた古い家に着いたはいいものの、弟の姿が見えない。
暗いしボロいしで危ないってんで一度皆で固まって探したけど見つからない。
皆で移動している間に他の探した場所に行って、自分達をからかってるのかもしれない、と何人かで分かれて別々に探してもみたけど見つからない。
怒られるのが怖かったけど、皆は大人に話しに行くことにした。
墓場で肝試しをしていたことも話したため、ものすごく怒られて──翌日、大人達の手で弟は見つかった。
古い家の近くに井戸があって、その中に落ちて死んでいた。
井戸の縁は子供の膝より下にあって、弟は草むらに隠れた井戸に足を取られて落ちたんだろう。そう大人は考えた。
井戸の中は虫の巣になっていたらしくて、見つかった時、死体は虫に食い荒らされて酷い状態になってたらしい。
どんだけ酷かったかっていうと──おい新入り、吐くならトイレ行けトイレ。
え? 誰だエグいとか言ったヤツ。
まだは話終わってないぞ。これからがいいトコロ……
あー、はいはいすぐ終わらせる。
──次の年の夏休み、兄貴は黙って自分の部屋で勉強をしていた。弟の事件があったんで、夜は肝試しどころか夏祭りにも行かせてもらえなかった。
そんなある日の夜、部屋にいるとどこからか変な音が聞こえてきた。
不思議に思った兄貴は部屋を見回したが、音の原因は分からない。
怖くなり部屋を出ようとしてドアの取っ手をつかんだら、その手に何かが落ちてきた。
カサカサと動くそれは、虫だった。
悲鳴を上げて振り払い、兄貴は部屋を出ようとするが、どれだけ取っ手を動かしてもドアは開かない。
しばらくして、自分の背後からも何かが動いている音が聞こえてきたことに兄貴は気づいた。
振り向くのが怖くて、早くドアを開けようとしたら、何かが肩に触った。
そして。
背後のソレは言った。
『──兄ちゃん、
何でオレを殺したの?』




