―――98―――
今日も鍛冶屋で修業だ!
早く良い物を作れるようにならないとね!
そうしないと、あの人に見つけてもらえない。
調薬ギルドへ無事本登録した後、錬金術、鍛冶も仮登録して、ついでに友達の内でも誰も取得していなかった木工も取得したよ!
そして、その中でどれをメインに練習していくか考えた結果、多くの武器や防具に必要な鍛冶をメインにしていくことにした。
さらに木工も取得することで武器は網羅できたはず。
あの人の武器はローブで見えなかったけど、これなら大丈夫だよね?
本当は装備していたローブから繊維を取得しようかとも考えたけど、それはもう友達がメインにするようだったから、やめておいた。
わざわざ友達と競合するものを選ぶのも嫌だし、それに手を出し過ぎても駄目だろうからね。
木工を仮登録した後、どこかで練習できないか生産職ギルドで相談した結果、鍛冶屋で修業させてもらえることになった。
何と、今日からもう修業させてもらえるみたい。
これで一歩前進だね!
修業辛いです。
暑いし、重いハンマーを振らないといけないし、なかなかいいものが出来上がらないし。
でも、最初はこんなものだよね?
同時期に入った少女や少年も同じような感じだし、私だけが下手な訳では無いはず。
うん、頑張ろう。
今日も修行です!
最近少し上達してきたようで、1つ先の修行に進むことができたよ!
でも、まだ武器は作らせてもらえない。
まあ、材料費無しで教えてもらいながら練習できるだけでもかなりありがたい。
ただ、同期で1人だけ、既に剣を作らせてもらっている少女がいる。
でも、あの少女は多分特別だよね。
たまに外に狩りにも出かけていてそれでも一番早く進んでいく。
多分あれが才能がある人なのだろう。
他の皆も羨ましがっていたよ!
私も羨ましく思うよ!
まあ、私は私で頑張っていくけどね!
修業していると、親方に突然呼び出された。
何か失敗してしまっただろうか?
目の前に立つ親方は解せないというような表情をしている。
やはり何か失敗してしまっただろうか?
親方は少し考え込んだ後に、まあいいと言ってからは普段の表情に戻った。
一体なんだったんだろうか?
そして、私を訪ねて店舗に人が来ているので行くように言われた。
私を訪ねて?
友達の誰かだろうか?
工房から店舗に出てみるが、人が沢山だ!
一体誰が私を訪ねてきたのだろうか?
親方はその辺が大雑把と言うか……。
たまに教えてくれる時も、少し教え方が天才的と言うか……。
まあ、今はいいか。
それよりも訪ねてきた人を探さないとね。
店舗を見渡すと、隅の魔法銃売場で白いローブを全身に被っている人が真剣に何かを考えているのが見えた。
そして、足元には兎と狼がいる。
あの人は!
でも、有名にもなっていないし、フレンド登録もしていない。
なら私を訪ねてくるはずは無い。
偶々買い物に来ただけだろうか?
「知っていたか。なら合ってるな。それならいい。あの白いローブの人物がそうだ」
「親方!? 最初から教えてくださいよ! あの人は恩人ですよ」
「そうだったのか。まあ、早く行ってやれ」
「分かりました。ありがとうございます!」
何で訪ねてきてくれたのだろう?
まあ、今は良いか。
早く行かないとね!
「お待たせしました。ユウさん、先日はありがとうございました」
前回は落ち込んでいて、口調が素だったからね!
今回は外向け用の丁寧な口調でいこう。
「こんにちは、急に訪ねてきて申し訳ありません。そして、どういたしまして」
申し訳なくなんかないですよ!
それにしても、改めてよく見てみると、平均より小さい私とあまり変わらない身長なのか。
そうなると、私より年下なのかな?
それにしては丁寧な言葉使いだ。
「それで、今日はどのような御用ですか?」
「依頼をお願いしたいと思っているのですが……念の為聞いておきたいのだけど、鍛冶のスキルは取得していますか?」
依頼だ!
お礼だ!
そして、鍛冶関係だ!
でも、ここで修業していることは知っているはずだよね?
「ここで修業しているのですよ?」
「すいません、念のため確認しただけです。そこで鍛冶スキルを取得しているあなたに依頼をしたいのですが、魔法銃を強化するか、新たに作成してもらえませんか?」
魔法銃?
前回は分からなかったが、メインで魔法銃を使っているのかな?
でも、魔法銃となると……。
「魔法銃ですか?ですが、現在私に入手できる素材では初期のものを少し超えるかどうかですが……」
私の所持サカフィだと良い素材は入手できない。
魔法銃に必要な分量となると、買えても最低ランクの物だけだ。
うう、お礼できないよ。
「素材はこちらで用意しています。これでお願いしたいです」
素材を用意してくれてるの!?
素材もこちらで準備するのかと思っていたけど、これが普通なのかな?
まあ、いいか。
それよりも、どんな素材かな?
……第2類!?
確か第2類が魔物からドロップするアイテム限定だったはず。
それに、ランク2の素材!
今の私のサカフィだと手が出ない高級素材だよ!
「それは!?どこで入手しましたか!?」
「入手場所は西の森です。見ただけで分かるのですね」
つい聞いてしまった。
恥ずかしいよ!
まあ、言葉が崩れなかっただけ良しとしよう。
それよりも、試されているのかな?
流石に鑑定を装備していない鍛冶職人はいないと思うよ?
「まあ、すぐに鑑定を使用しましたし」
「どうでしょうか?」
どうでしょうか、とは、つまりこちらが受けられるかどうかってことかな。
是非とも受けたいよ!
そして、良い物を作ってあの時のお礼をしたいよ!
でも、魔法銃か……。
なぜ、剣とか槍じゃないの~。
これは即答できない。
「……少し考える時間をください」
「分かりました」
とりあえず、時間を貰った。
それにしても、魔法銃か。
確か、作成難易度が高くて、売れにくいんだったかな?
だから売り場も隅っこの方に……。
いや、それはいいか。
売れにくいのは扱いが難しくのと、作成難易度が高いから値段も高くなるのが理由みたいだし。
それよりも、私にできるかな?
確か鍛冶の他にも細工のスキルもいるはず。
まだ、簡単な剣さえも作らせてもらっていない私に鍛冶と細工の両方が必要な魔法銃が作れるだろうか?
う~ん……。
でも、素材は一番適性の良い2種金属を用意してくれている。
さらに第2類でランクも2。
つまり、私の腕以外は最高の物を作れる状況だ。
なら、作らないといけないね。
期待に応える為にも。
これから鍛冶メインでいく為にも。
「お待たせしました。お受けします。まず、強化を試みて、それが無理そうなら作成でいいでしょうか?」
馴染んだ武器を強化すると何かを引き継ぐことがある。
この工房で教えてもらったことだ。
彼女の魔法銃が馴染んでいるかどうかは分からないが、強化を優先した方が良いよね?
「ありがとうございます、それでお願いします。そうすると、依頼料はいくらくらいになりますか?」
依頼料?
貰ってもいいのだろうか?
これはお礼……いや、お礼は現状で最高の魔法銃を作ることだよ。
なら、依頼料は別に考えよう。
ただ……相場知らないよ……。
「依頼料ですか……いくらでしょうね?」
「すいません、何分初めて個人の作成依頼を受けたもので……ちょっと待っていてくださいね」
つい聞いてしまったよ。
工房の誰かに聞いてこよう。
あ、親方が暇そう!
多分一番詳しいはずだから聞いてみようかな?
うん、そうしよう!
親方に事情を話し、依頼料を聞いてみたらタダで受けておけと言われたよ!
良い経験は最高の報酬。
それが親方の言葉。
確かにその通りだと思う。
「お待たせしました。今回は依頼料は要りません。私も鍛冶のスキルレベルがかなり上がると思いますので」
「ありがとうございます。ですが、無料はやりすぎです。なので、持ってきた手土産を受け取ってください」
無料はやりすぎなのだろうか?
そんなことは無いとは思うけど、あれは生産職の考えだからね。
戦闘職はまた別の考え方があるのだと思う。
そして、彼女はマジックポーチから木材を取り出している。
木材!
まるで私のスキル構成を知っているかのような素材!
まあ、たまたまだと思うけどね!
「木材ですか?ちょうど木工スキルもレベル上げたかったので嬉しいです!」
1つ、2つ、3つと受け取っていく。
ああ、嬉しい。
これで木工も練習できるよ!
まあ、彼女の魔法銃を作り終わってからだけどね!
4つ、5つ、6つ。
あれ?
多くないかな?
7つ、8つ、9つ。
「え?え?ちょっと待ってください!」
一体いくつ出てくるの!?
「多くないですか!?流石にこんなには貰えないですよ!」
「また取りに行く予定なので問題ないですよ。それよりか、マジックポーチが溢れてしまう方が問題なので貰ってください」
あれ?
もしかして、この程度の数なら簡単に集まるのだろうか?
それに、溢れるほどあるみたいだし……。
「え、それなら……待ってください、マジックポーチって溢れるんですか?」
そうだよ!
マジックポーチが溢れた事なんてないよ!
……あれ?
私はそこまでアイテムを入れたことは無いような……。
いや、友達もそんなことは言っていなかったよ!
大丈夫、そんな簡単には溢れないはず。
「溢れるかもしれませんよ?それに素材は使ってこそ素材です。マジックポーチで待っているだけでは悲しいと思いますよ?」
「うっ……確かにそうですね」
正論だよ!
確かにその通りだよ!
10、11、12……。
「って、なんでさらに渡してくるのですか!」
「え?だって、マジックポーチで待っているのは悲しいでしょう?」
確かにそうだけど……。
いや、でも……。
「私が使わずに売るって考えないのですか?」
信用?
信頼?
でも、1度しかあったことが無い私にそれは無いと思うよ。
だったら……。
「それでもいいですよ。そうすれば素材は市場に回って、使用されますよね?それにあなたはそのお金で何か道具か素材を買うのでしょう?結局は私が依頼した魔法銃の役にも立つのですよ」
うん?
「え?あれ?そうですね。確かにそうです。分かりました、お受け取りします」
うん、確かにその通りだね!
つまり、彼女の魔法銃の為に使うって信じてもらっているんだね!
「おいおい、鍛冶屋で修業中の子に木材はねぇんじゃねえか?」
あれ?
親方、どうしたんだろうか?
彼女と話かな?
だったら私は少し離れていた方がいいかな。
そういえば、彼女はあの魔法銃を見てたよね。
気に入ったのだろうか?
なら、参考にさせて貰おう。
近くによってじっくりと見てみ……。
「……直接鍛冶を指導して頂けませんか?」
ん?
直接鍛冶の指導?
え……ええ!?
彼女が鍛冶を習うの!?
あれ?
2人ともこっちを見ているような……。
もしかして、私が受けるの?
確かに、依頼された私の技術を上げる為に親方に頼むのなら納得……。
親方の直接指導!?
あの厳しい事で有名な親方の直接指導!?
いや、でも、親方から直接指導を受けられるなら技術は上がるはず。
だけど、厳しいくて天才肌な教え方……。
ん?
その前に忙しい親方が受けるわけないか。
良かったよ!
久しぶりに脳がフル回転したよ!
私は私の速度で一歩ずつ、確実に前進を……。
「……おう!確かに請け負った!」
すぱるたこーすとつにゅう……。
「まだあるんですか!?」
彼女のマジックポーチの中は森なのだろうか?
あるいは木材加工工場?
そう思えるほどに木材が出てくるよ!
「大丈夫です、これで最後です」
何が大丈夫なのだろうね!
使い切れるだろうか……不安だ。
「それでは魔法銃お願いしますね」
彼女が差し出す魔法銃は、銅の魔法銃。
多分ギフトで受け取れるものかな?
それにしても、銅ってどこで入手できる素材なのかな?
もう少し先……でも、性能的にはあまり良くないんだよね。
全く不思議だよ!
まあ、今はそれは置いておいて。
「分かりました。最高の物を仕上げます。あと、フレンド登録お願いできますか?」
今度は忘れないよ!
フレンド登録のお願いだよ!
「確かに、連絡のために必要ですね。お願いします」
良かった、フレンド登録してもらえたよ。
ここで断られたらどうしようかと。
「それでは、失礼しますね」
「はい、完成を楽しみにしていてくださいね」
期待しててね!
私の初の依頼作品!
最高の物を仕上げるよ!
「安心しろ、俺が教えるんだ。高品質の物を作るまで完成は無い」
……今日からスパルタ修業だよ。
ちょっとだけ恨めしいよ……。