―――86―――
開始の言葉を聞いた次の瞬間、ウルフが襲ってきた。
数は4。
聞いていた数よりも少ないが、今の僕にとっては十分脅威だ。
まあ、何とかなるのだけどね。
まず、相手が近づく前に魔法銃を連射する。
チャージしていた分もあってか、どうにか近づかれるまでに1体を倒すことができた。
さて、これで3体相手なので問題は無い。
あとは避けつつ攻撃を加えていけばいいだけだ。
だけど、問題もある。
多分だけど……。
『1人でどうしろっていうんだよ!』
『魔法職1人でウルフ3体の相手なんかできるわけないだろ!』
そう、先程のレギオンチャットの言葉からこうなるだろうとは思った。
まあ、大丈夫か。
こういう時はリーダーのサツキさんが……。
『皆さん、おちつい『うわー!』さい。『クソ!』さん、おち『1体ならまだしも、3体以上は』おちつい『1人で2体相手なんて無理だ』さい!『こちらボスウルフとこう』落ち着いてくだ『ここでゲイルウルフなん』さい!』
無理だね。
リンカさんにはこの状況の打破は期待できないとして、姉さんは……魔法職か。
ちょっと厳しいかな?
……全力で挑むって言ったからね。
仕方が無い。
できることはしよう。
さて、そうなればタイミングが大事だ。
被さらない様に……。
『狼狽えるな!』
よし、成功かな。
あとは声を……。
『目の前を見よ。それは何だ? ただのウルフではないか』
ざわつきも無いので大丈夫かな?
『今までは安全も考えて仲間と共に倒していただけで、1人でも倒せるはずだ』
さて、この言葉は皆に目の前の敵を倒す力を与えるだろうか?
『ボスウルフの心配はしなくても良い。諸君らの場所へ行くことは無い』
言葉はできるだけ乗りやすく、感情が昂りそうなものを選んだつもりだ。
『さあ、勇敢な冒険者達よ。困難を乗り越えよ!』
こんなところだろうか?
あとはサツキさんがしてくれるだろう。
あの人は慌てていない。
それにしても、状況的に仕方が無かったとはいえ、このセリフは恥ずかしいな!
『そうだ、皆! 勝利の女神の言う通り、熟練である皆の勝てない相手では無い! さあ、武器を持て! 皆には女神の加護が付いているぞ!』
だれが勝利の女神か!
確かに勝利の女神的な雰囲気を少し模してはいるけれど、恥ずかしいじゃないか!
それに、勝利の女神でなくとも軍神で良かっただろうに……。
それにしても、リンカさん結構余裕あるのか?
ボスウルフの相手をしていて、このセリフを考えて叫ぶとは。
『うおー! 勝利の女神だ!』
『やれる、やれるぞ!』
『女神さまが見てくれているぞ!』
『皆さん、頑張りましょう!』
ほら、悪乗りが増えたじゃないか!
最後のサツキさんは別として、なぜ皆こんなに乗り気なのか。
……ちょっと声に真剣さが含まれ過ぎている気がしたけど、悪乗り……だよね?
さて、他の人はこれで良いとして、僕が負けてしまったら意味は無い。
流石に3体相手にしながら先ほどのセリフを言うのは無理があったようで、少し攻撃が掠っている。
ポーションを使用するか?
いや、倒してしまった方が良い。
ポーションを出す間にさらに攻撃を受けてしまいそうだからね。
さあ、ウルフよお待たせしたね。
ここからは集中して相手をするよ。
さて、ウルフは倒し終わったがイナバ、ルビー、ログレスはどこだろうか?
いや、ルビーは呼べば来てくれるのか。
そうなると、一回呼んでおこう。
その前にレギオンチャットの設定を一旦戻しておこうかな。
これは聞かれると士気が下がりそうだからね。
今の士気を下げるのは勿体ない。
「ルビー! 来てくれ」
叫んで少し経過した後、空からルビーが降りてきてくれた。
流石ルビー、早いな。
「ルビー、君は危なそうな人を助けてあげてくれ。判断は任せる」
ルビーは一声鳴いて了承を示すと、すぐに空高くへと飛びあがっていった。
これで少しは戦況が良くなるだろうか?
さて、イナバとログレスを探そうかな。
おっと、その前にお客さんか。
数は……2?
そんなわけないか。
隠れているはずなので、注意しておこう。
やはり隠れていたか。
だが、木を背にしていれば多少は問題無かったりする。
まあ、これも危ないと言えば危ないのだけどね。
さて、ウルフ達は倒したし、早く2人を探さないと。
イナバはたぶん大丈夫だろうから、ログレスから探そう。
『皆さん、今相手をしている敵を倒したら、各自合流してください。音のしている方へと進んでいけば味方がいると思います。ですが、それは敵もいると言うことなので、慎重に進んでくださいね』
『了解!』
『分かった!』
おっと、サツキさんか。
流石リーダー。
皆が大体倒し終わっているだろうタイミングを狙ったのだろうか?
まあ、誰も慌てていないし、タイミング的にも良かったのだろう。
そうなると、僕も指示に従って、徐々に合流していった方が良いかな。
そして、それを続けていき、イナバとログレスとも合流した方が良いか。
うん、そうしようかな。
「味方です。合流しましょう」
声掛けは大事だよね。
この状況でいきなり出てしまえば、攻撃されても文句は言えないだろう。
「助かる。こちらは2人だ」
武器が槍の人とハンマーの人だ。
この状況で気持ちが昂っていないので、最初から落ち着いていた人たちだろう。
「了解です。それでは、他の人とも合流しましょうか。行先は任せます」
「分かった。武器は魔法銃で良いか?」
「合っています。そちらは槍とハンマーですね?」
「ああ、それは行こうか」
あれから合流を繰り返し、現在は人数も10人を超えている。
この調子で全員集まれればいいな。
おっと、次はあちらに進むのか。
そろそろ他の集団と合流しておきたいものだ。
少し進むと、そこには金属の体を持ち、盾と槍を構えてこちらに向かってくる存在があった。
「皆さん、あのメタルパペットは僕の従魔です。安心してください」
よし、これで良い。
現状では敵だと判断されても仕方が無いので、言っておかないとね。
「ログレス、頑張ったね。ここからは一緒に戦おう」
これでログレスとは無事に合流できた。
HPバーは少し減っているが、これならば自動回復で補えるだろう。
なので、MPを節約しておきたい現状を考えて、回復は止めておこう。
それにしても、かなりの数の戦闘があったはずだが、これだけのダメージで済んでいるとは凄いな。
流石ログレスだ。
さらに少し進んでいると、こちらに近づいてくる兎が見えた。
そう言えば、イナバもログレスも感知で僕を探せるのか。
「皆さん、あのラビットは僕の従魔です。安心してください」
「イナバ、頑張ったね。ここからは一緒に戦おう」
近づいてきたイナバを抱き上げ、HPバーを確認するが、全く減っていない。
流石イナバ。
さて、これで無事に3人と合流できた。
あとは他のプレイヤーと合流しつつ、ウルフの殲滅をしていこう。