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やっぱりここだったか……従魔魔法って人気ないのかな……。
まあ、あんな注意書きがあれば躊躇はするだろうけど。
ちなみにもう1つの人が少なかった場所は支援魔法だ。
でも、支援魔法はあくまでメインでギルド登録しないだけで、取得している人は多そうだけどね。
さて、早く受付で説明を受けないと。
受付に座っていた人は、白髪、赤目の優しそうな若い女性だった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「職業ギルドの従魔魔法へ仮登録をしたので詳しい説明を受けに来ました」
「承りました。従魔魔法の基本、本登録条件の順にご説明します」
おお、魔法の基本説明までしてくれるのか。
これはありがたい。
「その他の内容に関しましては本登録後となっております。申し訳ありません」
その他の内容?
まあ、本登録してみれば分かるから今はいいか。
「わかりました。よろしくお願いします」
「本来なら複数人人が集まってからご説明を開始するのですが、本日は御用の方が少ないためご説明を開始させていただきます」
本日"は"少ないのか、本日"も"少ないのか少し気になったが、早く終わるのならありがたい。
「わかりました。よろしくお願いします」
「すいません基本説明を行ってきますので、ここをお願いします」
「私がしておくからいってらっしゃい」
「ありがとうございます。それではこちらへどうぞ」
「はい」
後ろ側で作業していた人が受付を変わり、受付の人と一緒に別の場所へ移動する。
着いた場所は、小さめのグラウンドのような場所だった。
一応魔法だから広い場所で行うのだろうか?
「こちらは魔法訓練場になります。他にも同じような訓練場がございます。本登録していただきますと訓練場を使用することが可能です」
魔法訓練場か……魔法銃も大丈夫だろうか?
少し気になるが、今は説明に集中しよう。
「それでは従魔魔法の基本説明を行います。まず従魔魔法の技能をご存知でしょうか?」
あれ?そういえば全く確認していなかった。
チュートリアルでは自分の戦闘訓練だと思っていたので、従魔魔法を使用する気は無かったのだが、町に移動したらすぐに見ておくべきだった。
それに支援魔法の方は完全に忘れてた……。
支援魔法を使えばチュートリアルの戦闘ももう少し有利に進められただろうに……。
うん、支援魔法の方は後で確認しておこう。
「いいえ」
「わかりました。従魔魔法で初めに使用できる技能は6つあります」
「従魔の書、充填、登録、解放、召喚、送還の6種類です。まずこれらをご説明していきます」
召喚と送還は大体わかるけど、他はちょっとわからないな。
「まず初めに従魔の書です。MPは半分以上ございますでしょうか?」
町に入ってから魔法を使用していないので、大丈夫だとは思うが一応確認しておこう。
……うん、大丈夫だ。
「はい。大丈夫だと思います」
「では、従魔の書を使用してください」
指示通りに従魔の書を使用し……どうすればいいのだろう?
そういえば、チュートリアルでは教えてもらっていない。
魔法銃だけで対象の魔物を倒せていたので、聞く機会も無かった気がする。
う~ん……メニューのスキルから使用できるかな?
これでできなかったら、ヘルプを見てみよう。
そう思い、メニューのスキルを確認してみる。
スキル一覧から従魔魔法を選択すると、技能一覧があったので、さらにそれを選択する。
すると、先ほど説明の合った技能が並んでいたので、従魔の書を選択したが、何も起こらない。
……ヘルプを見よう。
受付の人には少し待ってもらい、ヘルプで確認した。
どうやらスキルメニューにスキル一覧とは別に、仕様可能な技能一覧があり、そこから使用する方法もちゃんとあったが、先程は焦っていて見逃していたようだ。
そして、メニューカスタマイズで空白のページ等に追加する方法も提示してあった。
そこで、今後のことも考えて空のページにも追加しておくことにした。
追加した機能は、登録した技能だけを表示して選択すれば使用できる項目で、とりあえず従魔魔法の技能を登録しておいた。
戦闘中は空のページから使用することにしよう。
ようやく準備が整ったので従魔の書を使用してみる。
すると、突然目の前に真っ白で少し大きめの本が出現した。
詠唱とかいらないのか、便利だな。
いや、そもそも魔法じゃないのだろうか?
「それではその本の1ページ目を開いてください」
指示通り、1ページ目を開いてみると、9個の長方形の窪みがあった。
「現在魔物カードを所持されていますか?」
魔物カード?
まあ、アイテムポーチにも入っていなかったので、所持していないはずだ。
「いいえ、所持していません」
「では、魔物カードについてご存知でしょうか?」
「いいえ、分からないです」
「わかりました。では魔物カードからご説明致します」
「お願いします」
「魔物カードとは空白のカードというアイテムに魔物の魔石を吸収させその魔物の特性を記録したものになります」
すると受付の人は腰につけたポーチから白いカードを取り出した。
あれはマジックポーチだろうか?
いや、それよりもあのカードか。
見た目からして、あれが空白のカードだろうか?
「これが空白のカードとなります。町の魔法具店や魔法ギルドの従魔魔法部署で販売しております」
どうやら合っていたようだ。
ということは、あれにチュートリアルでドロップしたような魔石を吸収させればいいのだろうか?
「これをまず、従魔の書に装着します。場所はどこでも構いません。他のページでも大丈夫ですよ。そして、そのカードの上に魔物から入手した魔石を近づけ、充填を使用していただくと、カードに魔物の特性情報が充填され、未完成の魔物カードへと変化します」
充填はそこで使用する技能なのか。
そして、未完成か……つまり1個ではダメということかな?
「複数個の魔石を充填していくと未完成の魔物カードは魔物カードへと変化します。魔物の種類によって魔物カードへ変化するまでに必要な魔石の数が違います。また、魔石の種類は最初に充填したものと同じものしか充填はできません」
やはり、複数個必要なのか。
魔物の種類によって必要な個数が異なるということは、強い魔物ほど数が必要になったるするのだろうか?
まあ、それはいずれ分かるだろう。
そして、途中で魔石の種類を変えて合成とかはできないのか……残念だ。
「次に登録をご説明致します。登録とは先ほどの説明にありました魔物カードを自分の従魔の書へ登録する技能となります。登録していない魔物カードは使用することができません。ですので、魔物カードは登録してから使用することとなります」
登録する必要があるのか。
ということは、登録したカードは他の人は使用できないとかだろうか?
まあ、今思いついただけでも、ログアウトの際に他の人に渡して交代で使用することができてしまうからね。
良い制限だと思う。
「登録の際、一定の条件を満たしている必要があります。魔物によって条件は違うのですが、この近くの草原のウルフの場合は1人でダメージを与えきることが条件のようです。また、自分で条件を満たし、取得した魔石を最低1つは充填する必要があります。その為、他人から入手したカードの場合は新たに自分で条件を満たした魔石を充填する必要があります」
おお、条件まであるのか。
つまり、初心者が熟練者から強いカードを貰ったとしても、いきなり無双したりはできないようになっているのか。
うん、これも良い制限だと思う。
それに、他人からカードを取得した場合でも、使える手段が用意してあるところがいいね。
まあ、できるだけ自分で集めるつもりだけどね。
「次に解放です。解放の技能は登録した魔物カードを従魔の書から解放する技能です。解放されたカードは消滅し2度と使用することはできません。ご注意ください」
おっと、これは重い制限だな。
解放する必要があるってことは、解放したカードを他人に渡すことを制限したか、あるいは……。
「一見いらない技能にも思えますが、従魔の書に登録できるカードの枚数は制限があります。さらに、装着できるカードの枚数にも制限があります。その為、必要ない魔物カードを解放することも必要になる場合があります」
やっぱりこの理由があったか。
準備さえすれば無制限に手札が増えるわけではなくて、限られた手札で準備をしなければいけないと。
これで従魔魔法使いの個性がより強く出るのか。
そして、装着カードに制限があるということは、1個だけ魔石を手に入れたからと言って、無暗に充填するべきではないということか。
だけど、新しい種類の魔物だと、いくつ魔石を充填すればいいかわからないから、少ない数で挑戦をする人も出てくるだろう。
その時に色々と手を出し過ぎて、新たに魔物カードを作成できなくな可能性があるのか。
こちらの制限は大丈夫だと思いたいけど、必要な魔石の個数が極端に多い場合があると、引っかかりそうな制限だな。
「登録していない魔物カードは自由に取り外しが可能です。また、従魔魔法のスキルレベルによって登録、装着可能なカードの枚数は変化します」
おお!登録さえしなければ作成しても問題は無いと。
つまり、登録さえしなければコレクションできると。
目指せ、コンプリート!
よし、頑張ろう!
「次に召喚です。召喚は従魔の書に登録されている魔物カードを元に従魔を呼び出し、ともに行動することが可能となります」
やはり召喚はそういう技能だったか。
まあ、今までの流れから魔物を仲間にするというよりは、魔物を召喚する方だとは思ってた。
「召喚された魔物は召喚者の指示を忠実に聞きます。ですが、あまりに酷い扱いをすると暴走することもあります。ご注意ください」
ということは、召喚された従魔は固有のAIを持っているということだろうか?
まあ、どちらにしても酷い扱いなんてするつもりはない。
「次は送還です。送還は召喚したモンスターを魔物カードへ戻します」
まあ、召喚があれば逆のことができないとまずいよね。
「最後に、全ての技能はMPを消費しますのでご注意ください」
従魔の書もMP消費するのか……。
「それでは本登録の条件をご説明します。本登録の条件は解放以外の技能をこの場所で行い、成功させることです」
なんという緩い条件。
「試験を受けられる際に、空白のカードを1枚だけ無料で提供します。ですが、その他に必要となる魔石に関しましてはご自分で集める必要があります」
空白のカードはもらえるのか、ありがたい。
魔石はチュートリアルで入手したもので足りるだろうか?
「この周辺の魔物で必要な魔石個数は草原のウルフ、ラビット、森のホークの場合は10個必要となります」
10個……だと……。
足りないか。
「またこれらの魔物のレア種になりますと、必要な魔石が5個になります」
おお!
ここでレア補正がくるのか。
ということは……。
「本登録試験を受けられる際は受付の職員に伝えていただければ対応いたします」
うん、魔石は足りている。
あとは技能を正しく使えるかだけど……。
まあ、本試験を受けるのに必要な物は無いようだし、失敗時のペナルティもないようだから一度受けてみようか。
さて、そうなると今受けてもいいのかな?
「今試験を受けてもいいですか?」
「大丈夫です。すでに魔石をお持ちでしたか?」
「はい」
「わかりました。こちらが空白のカードとなります」
差し出された空白のカードを受け取り、とりあえず鑑定をしてみる。
<アイテム:特殊>空白のカード
魔物の情報を充填できるカード。
よし、初めての魔物カード作成、開始だ!
まず、空白のカードを従魔の書に装着する。
次にゲイルウルフの魔石をマジックポーチから取り出し、装着した空白のカードへ密着させる。
そして、充填の技能をメニューから使用する。
すると、魔石が光の粒子のようになり、空白のカードに吸収されていく。
光りの粒子が完全に吸収されたところで、改めてカードを鑑定してみた。
<アイテム:特殊>未完成の魔物カード
ウルフの情報が充填されている未完成の魔物カード。
おお!充填されて変化してる!
成功を確認し、さらに4つの魔石を充填していく。
そして、5つ目の魔石を充填し終わった瞬間、突然カードが光り始めた。
光りはすぐに消え、真っ白だったカードにはゲイルウルフに似た狼が描かれていた。
よし!
これは成功だ!
さっそく鑑定をしてみる。
<アイテム:特殊>ウルフの魔物カード
ウルフの特性情報が籠められた魔物カード。
おお!初の魔物カード完成だ!
「魔物カード作成までの工程の合格を確認しました。引き続き登録に移りますか?」
「はい」
ここまで来たら一気に最後まで成功したいな。
よし、MPは大丈夫だ。
確認を終了し、メニューから登録を使用する。
ん?何も変化が無い……?
失敗したのだろうか……。
「申し訳ありませんが、確認の為カードの裏側を見せてください」
「はい」
ウルフのカードを取り出し、受付さんへカードの裏側を見せる。
お……おお!
登録者の横にユウと表示されている!
成功していたのか!
「確認しました。引き続き召喚に移りますか?」
「はい」
ゲームのAIとはいえ、ともに戦ってくれる仲間の初めての召喚なのだ。
初めで成功させたいな。
そう思い、メニューから召喚を選択する。
すると、召喚の横にウルフと表示されているが、一向に召喚はされない。
もしかしてこれは選択項目なのだろうか?
そう思い、ウルフを選択する。
すると、目の前に突然、光りに包まれた何かが出現した。
光りはすぐに消え、そこには……狼、いや、ウルフがいた。
よし!成功だ!
「召喚を確認しました。引き続き送還に移りますか?」
「はい」
おっと、送還の前に挨拶をしておかないと。
「これからよろしくな」
そう言い、ウルフを撫でた。
ウルフは少し嬉しそうにしているように見える。
そして、メニューから送還を選択する。
召喚と同じように送還の横に、ウルフの文字が出てきたので選択する。
すると、目の前のウルフが光りの粒子のようになって、消えてしまった。
ちょっと寂しい……。
「全技能を確認しました。魔法ギルド・従魔魔法部署の本登録試験の合格を認めます」
良かった。
どうやら試験は合格のようだ。
実は言われていない条件があって、そこがダメでしたとかは無いようだ。
「おめでとうございます。本登録には少し時間がかかりますが、どうされますか?」
時間がかかるのなら今日はダメだな。
姉さんとの合流が遅れてしまう。
「明日でも可能ですか?」
「はい、大丈夫です。作業は進めておきますので、後日、ギルドカードの更新と本登録の確認をお願いします」
良かった、本登録は明日でもいいようだ。
「わかりました。今日はありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ所属員が増えて嬉しいです」
少ないのですか?
とは聞けないな……。
「それでは受付まで戻りましょう」
20140904:変更
魔物よりドロップする素材アイテムの名称を"魔物名を漢字にしたもの"から"魔物名"に変更しました。
20140823:修正
技能の書を使用する際に、スキル一覧から使用できないとしていたが、チュートリアルで使用できるとしていて矛盾するようになっていた為、スキル一覧からでも使用できるように描写を修正をしました。
20140819:修正
字下げをするように修正しました。