―――68―――
「早い再会でしたね」
神殿の隅を調べていると、背後からそんな声が聞こえた。
「そうですね。私もこんなに早く再会するとは予想していませんでした」
そもそも、他の試練に挑むつもりもなかったのだから当然だろう。
今回は予定外の出来事なのだから。
「次は南の試練に挑むのですか?」
南の試練か。
挑む予定は無いかな。
それよりも、今は魔物カードを集めたいです。
南の試練は誰かがクリアしてくれると信じています!
「いえ、私は挑む予定はありませんよ。今は他の目的がありますので」
「そうですか、それは残念ですね。私としては多くの冒険者に挑戦してほしいのですが……」
まあ、解放してほしい側から見ればそうなるか。
「それは申し訳ありません。ですが、私よりも優秀なプレイヤーは沢山います。その方たちがクリアしてくれるでしょう」
人任せだが、これで良いと思う。
そもそも、西の試練も奇跡的にクリアできたようなものだ。
今の僕には能力が足りていないのだと思う。
なので、今は力を蓄える時だと思っている。
「そうでしょうか? あなたと同じように、他に目的があれば挑むとは限りませんよ?」
「それはそうですが、目的があるのは僕も同じですよ?」
確かにそうだろうけど、あくまでそれは可能性がある程度の話だと思う。
これがゲームである以上、優秀な人全員がイベントに見向きもしないとは考えられない。
それに、目的があるのは僕も同じなのだ。
「そうですね。なので、お願いしているのです」
ご尤もで。
イベントキャラからの頼み事とは楽しそうだ。
だが、ゴーレムの体用の金属、鎧騎士の魔石も集めたい。
さて、どうしたものだろうか?
「決まりました! 初心者用の鍛冶セットより上位の鍛冶道具をください!」
そんなことを考えていると、背後から声が聞こえてきた。
どうやら決まったようだ。
先程の話は後回しだね。
「分かりました。では、このアイテムを授けましょう」
あれは……鍛冶用のハンマーだろうか?
「ありがとうございます」
受け取った彼が嬉しそうなところを見ると、良い物だったのだろう。
うん、良かった良かった。
「では、冒険者よ。私の後ろにある黒色の宝玉を壊し、技術を解放するのです」
「分かりました!」
そう言い、彼は宝玉へと向かっていった。
「さて、先程の答えをお聞きしたいのですが」
やはり聞かれるのか。
う~ん……迷うな。
そもそも、南の試練はクリアできる気がしないからね。
南に封印されているのは力。
他が封印されている能力を必要としていたことから、南は単純な戦闘能力が必要だと思うのだ。
そうなると、現在の魔物カードでは若干の不安がある。
力ともなると、あの強化個体のゴーレムや鎧騎士よりも強い魔物が現れるのだろう。
勝てるだろうか?
いや、今の僕達では難しいだろう。
やはりここはゴーレムの体や鎧騎士の魔石を優先しよう。
そして、それらが完了してから試練に挑もう。
「分かりました。ですが、今の私の力では力を解放することは難しいでしょう。なので、あと少し力を得てから挑もうと思います」
「ありがとうございます。ですが、試練に挑戦してくださるのなら急ぐ必要はありませんよ。何も力は、個人の力だけではありませんからね?」
そうか、個人の力だけではないか。
つまり、集団の力が必要なのだろうか?
パーティ?
いや、それならばリンカさんレベルになれば、パーティ1つ分くらいの力は持っていそうだ。
なので、その1つ上だろう。
そう、レギオンだ。
そうなると僕だけが急いでも仕方が無いのか。
だから急ぐ必要は無いということだろうか?
まあ、1人で挑むのは無謀ということだろう。
ならば、時が来るまでは力をつけておこう。
「ありがとうございます。参考にさせていただきます」
「期待していますね?」
「期待はしないでください」
期待は重いです。
「そこは、任せてください、という場面ではないのですか?」
「現状で自信もないのにそれを言ってしまうのは無責任では?」
まあ、状況によるけどね。
「そうですか。それでは、また会える日を楽しみにしておきますね」
そう言い、目の前の女性は笑った。
人のことは言えないが、ゲーム内でこの笑顔は無いと思う。
いや、立ち位置的にこちらで合っているのか。
まあ、いいか。
そんなことを考えていると、何かの割れる音が神殿内を満たした。
どうやら無事に宝玉を破壊できたようだ。
<ある冒険者により技術が封印から解放されました。これにより、封印されていた技術が力を発揮します>
そして、神殿が崩壊を始める。
「解放です!」
「おめでとうございます」
嬉しそうな彼に、賛辞を送っておく。
やはり、自分の手で解放できると嬉しいよね。
「技術を解放して頂き、ありがとうございます。これで残りの力の解放も早まるでしょう」
これであとは南だけか。
まあ、時が来るまで待っていよう。
「封印されていた力が解放されたことにより、この空間は崩壊を始めます」
「ほ、崩壊ですか!?」
「ご安心ください。貴方は私が元の場所へとお送りします」
若干懐かしい会話だ。
さて、これで北の試練も終了だ。
「それでは転送を開始します。またお会いしましょうね」
女性が言葉を言い終えると、視界が一瞬にして闇に染まった。
闇が晴れると元の森の中に戻っていた。
辺りを見渡すと、全員同じ場所に戻されたようで近くにいた。
「お疲れ様でした。そして、試練クリアおめでとうございます」
「ありがとうございます!」
やはり嬉しそうだ。
まあ、そうだよね。
「さて、どうしますか? すぐに町へ帰りますか?」
「いえ、少しお時間を頂けますか?」
「はい、構いませんが、何か用事ですか?」
何か用事があるのだろうか?
すると、彼はマジックポーチから何かを取り出した。
それは、灰色の銃だった。
これは……期待していいのだろうか?
「これをどうぞ。ご依頼されていた魔法銃になります」
「ありがとうございます」
彼の手から魔法銃を受け取る。
色は若干黒が強い灰色で素材と同色なのだろう。
それよりも、目を惹きつけるのはその形だ。
これは多分、あれを意識した形だろう。
親方が指導していたからなのか、それとも別の理由なのか。
まあ、理由は良い。
ただ、嬉しい。
確かにあそこまでの美しさはまだ無い。
だが、確かにあの系統の美しさの一端が見えるのだ。
これは先が楽しみだ。
そして、今は鑑定を装備していないので分からないが、性能もかなり強化されているのだろう。
これは、試したいな。
帰り道に早速試してみるとしよう。
「お預け頂いた魔法銃を、第2類2種金属で強化した魔法銃となります。元の魔法銃とは色が違いますが、あれは染色されていた色で、元の色はあまり差はありませんでした。性能は元の魔法銃と比較して、攻撃力の増加、消費MPの低下、重量が若干増加となります」
おお!
やはり色々と強化されているのか。
そして、あの魔法銃を強化できたようだ。
やはり使い慣れている武器と一緒に成長できるのは嬉しいな。
「依頼を受けて頂き、そして、こんな良い物を作って頂いてありがとうございました」
「いえ、こちららこそ、良い修行になりました」