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蜘蛛や蝶の倒し方などを検証しながら先へと進んでいるが、色々と判明した。
蜘蛛は1体だけで必ず巣の近くに出現した。
そして、イナバとルビーに攻撃を止めてもらって魔法銃のダメージで検証した結果、どうやら弱点は腹部、ついで頭というところだろうか。
次にルビーに引っ掻きだけで攻撃してもらったところ、同じ結果が得られた。
どうやら蜘蛛の弱点は物理、魔力と変わらないようだ。
剥ぎ取り順番に関しては、蜘蛛を最初に剥ぎ取ってしまうと巣が消滅することが確認できた。
その為、巣を剥ぎ取ってから蜘蛛を剥ぎ取る必要がある。
巣に引っかかっていた蝶はどうやら無関係だったようで、あの後1回だけ引っかかっていたが巣、蜘蛛と剥ぎ取っても消滅せずに残っていて、剥ぎ取ることもできた。
蝶は基本的に集団で出現するようで、2~5体の集団で出現した。
5体の集団に出会ったときは不味いかとも思ったが、魔法銃1発で狙いをこちらに向けてくれる上に、個々は弱いのだ。
確かに空中で動き回られると攻撃を当て難いのだが、当たった時のダメージは大きい。
さらに、蝶の攻撃は基本は体当たりで、ダメージも低く、その上速度自体も速くない為、1対1ではまず当たらないだろう。
ただ、地味に厄介なのが鱗粉だ。
確率はかなり低いようだが、麻痺状態にしてくるようなのだ。
ルビーが蝶を引っ掻いた後、着地に失敗してそのまま地面へと倒れたて動かなくなった時は本当に焦った。
その時はたまたま最後の1体を全員で相手していた為、イナバに相手を任せてルビーを見ることができた。
地面に倒れているルビーは、体は微かに動いているのだが、行動はできない様子だった。
勿論、識別やメニューからのステータス確認も行ったのだが、特に変わった表示は無かったのだ。
その為、麻痺の状態異常であると一時的に判断している。
その後イナバに加わって残りの蝶を倒し、ルビーの様子を確認していたのだが、すぐに何事もなかったかのように立ち上がった。
動けなかった時間は30秒ほどだろうか?
最後の1体であったから良かったが、5体の相手をしている時に2人以上麻痺状態になると少し不味いとは思う。
可能性的には低そうだが、何か対策を考えておかないといけないな。
麻痺を直す何かがギルドに売っていないだろうか?
あとで確認しておかないといけないな。
さらに奥に進むと、暗闇の壁が見えてきた。
他に比べて森の入り口からの距離が近い気がするな。
まあ、気のせいかもしれないけどね。
ただ、もう少し道中で素材を集めたかった気がするが、それは次回でいいだろう。
「あれが黒い壁ですか?」
「多分そうだと思います。南や西の森と同じに見えるので」
「そうですか。なら、あれに触れば試練に挑戦できるわけですね!」
「そうなりますね」
やはり初試練となるとハイテンションになるのだろう。
その気持ちは分かる。
まあ、僕は今回は護衛なのでここまでなのだけどね。
休憩が終わったら、彼を見送ってから町へ帰ろうかな。
いや、森の中で少し素材を集めてから帰ればいいのか。
うん、そうしよう。
「それでは休憩にしましょうか
「はい。もうすぐ試練だと思うとワクワクしますね」
「そうですね。私も西の試練前は楽しみでしたよ」
「そういえば、試練の内容は調べましたか?」
「はい、調べましたよ!」
良かった。
こちらは調べていたようだ。
調べていないようなら今調べようかとも思ったが、杞憂だったようだ。
「そうでしたか、失礼しました。内容的にクリアできそうでしたか?」
「いえいえ。そうですね……たぶん可能だとは考えていますが、最後の試練のクリア基準が分からないので、確実とは言えませんね。勿論最高の作品を仕上げるつもりですが、それでも届かない可能性もありますからね。実際に、掲示板に書き込んでいた人はかなりの物を作成していたのですが、最終試練を突破できなかったようですからね」
つまり、それ以上の物が作れるということだろう。
流石だ。
まあ、調べた上で無理そうなら、試練を受けには来ないだろう。
そうなると親方は、突破できる可能性があるから試練を受けさせたのだろうか?
あれ?
「ところで、イナバちゃんとルビーちゃんに触ってもいいですか?」
「はい、大丈夫だと思います」
相変わらず、イナバとルビーは人気者だ。
ただ、2人とも占領するのはどうだろうか?
僕も撫でたいのだけどな……。
まあ、緊張を解したいのだろう。
それならばしょうがない。
おっと、いま大事なことに気づいた気がするのだけど、何だっただろうか?
まあ、その内気づくだろう。
うん、暇なので掲示板でも読んでおこう。
何か良いことは書いていないかな?
「さあ、試練へと挑戦しましょう!」
「頑張ってきてくださいね」
「え?」
何か変なことを言っただろうか?
これから試練に挑む人を送る言葉としては、合っていたと思うが。
「一緒に受けてくれないのですか? 試練中も含めて護衛をお願いしたつもりだったのですが……伝え方が悪かったのですね。すいません」
どうだっただろうか?
……確かに試練も含まれているな。
これは間違えた僕が悪いな。
最後まで護衛を全うしよう。
「そうでしたか。勘違いをしていて申し訳ありません。ただ、私は試練の条件を満たしていないと思うのですが、そこは大丈夫でしょうか?」
「それは大丈夫です。試した方がいますが、どうやらパーティ内で1人以上条件を満たしている人がいれば大丈夫の様です」
それなら行こうかな。
でも、行ったところで何をすればいいのだろう?
まあ、知っている人がいるだけでも安心できるのかな。
「分かりました。試練クリアまでお供させていただきます」
例え失敗しても、迷惑でなければ次回もお供するつもりだ。
一番緊張を解さないといけない場面で逆に緊張させてしまったのだから、これは当然だろう。
「ありがとうございます! 正直なところ、私一人では絶対に無理ですので」
無理?
生産系の試練で、彼ができないことで僕ができることがあるということだろうか?
付加術に関しては伝えていないはずなので、他の何かのはずだ。
……まあ、行ってみれば分かるか。
「それでは出発しましょう!」
そう言い、彼は暗闇の壁へと前進する。
「あ、危ないですよ」
「痛い! な、何ですかこれは!?」
遅かったか。
あの壁は通り抜けられない上、結構硬い感触だった。
そこに突き進み、頭をぶつければ当然痛いだろう。
<試練への資格を満たすものよ、汝は試練への挑戦を望むか?>
「当然です!」
彼のその言葉を聞いた次の瞬間、景色が一変した。