―――58―――
右から水平に振るわれる剣を、少し後ろへ飛んで避けつつ、魔法銃を胴体に向かって撃つ。
そして、次の攻撃に備え、相手を視界に収め直す。
しかし、次の攻撃は来なかった。
突然、鎧騎士がこちらへの攻撃の手を止めたのだ。
そして、攻撃を止めた鎧騎士の左手が怪しく光り始めた。
その光は次第に鎧騎士の体を隠すように、長方形へと広がっていく。
これはなんだ?
何が起こっているのだ?
十分に考察する時間もなく、広がった光は消え、鎧騎士の目の前には灰色で金属光沢を放つ盾が出現していた。
盾!?
そして、その盾を紫色の光が覆う。
なぜさらに盾を強化する必要があるのだろうか?
……魔法耐性?
試しに魔法銃で盾を撃ってみる。
弾は真っ直ぐ盾に飛んでいき……吸い込まれるようにして消えていった。
うん、吸収だ。
魔法攻撃を吸収すると見ていいのだろうか?
そんなことを考えているが、勿論鎧騎士は待っていてはくれない。
一旦攻撃を止め、鎧騎士の行動を改めて観察しよう。
鎧騎士は盾を構えて、突進してくる。
この状態では魔法銃での攻撃は無理かな。
右側へと大きく飛び、鎧騎士の突進を回避する。
すると、鎧騎士は盾をこちらに振るってきた?
いや、これは常に盾をこちらに向けるようにしているのだろうか?
まあ、とりあえずこの避け方では魔法銃での攻撃は無理だろう。
どうする?
おや?
紫色の光が消えた?
罠だろうか?
いや、魔法銃の弾が1発吸収された程度では問題ないだろう。
上段から振り下ろされた剣を左側へ避け、魔法銃を撃つ。
やはりこちら側からの攻撃は良い。
盾に防がれることなく当たるからだ。
どうやらこの鎧騎士、ゴーレム型の時と違い人間が明らかに不可能な動きはしてこないようなのだ。
ゴーレムは上半身1周回転とかもしてきたからね。
それにくらべて鎧騎士の動きの読みやすいこと。
鎧騎士が再度盾を構えて突進してきた。
紫色の光も消えていることだし、盾に攻撃してみようか。
突進してくる鎧騎士を右側へと避けながら、魔法銃を鎧騎士へ向けて撃つ。
鎧騎士は盾をこちらに振るい、弾を防ぐが、弾は吸収されたような感じではなかった。
そう、鎧部分に当てたときと同じ感じだったのだ。
これは吸収されていないと見てもいいだろう。
こちらを振り向く鎧騎士。
しかし、振り向いたところで一度動きを止めた。
そして、盾が紫色の光を纏っていく。
そうか、盾に魔法攻撃を当てていなければあれを解除するのか。
だが、攻撃1発で再度使用すると。
では盾に攻撃をしなければいいのだろうか?
いや、逆だろう。
常にあれは使用させておきたい。
魔法吸収なんていい効果を何も対価無しに使用できるはずがない。
鎧騎士が盾に光を纏わせなくなった。
こちらがわざとしていることに気づいたのだろうか?
それとも、効率が悪いと判断したのだろうか?
まあ、それなら盾に攻撃を当てられるから楽になるのかな。
いや、やめておこう。
盾に当てて胴体と同等のダメージが入るのなら、盾の意味が無いだろう。
ダメージ減少か、あるいは無効されるのが普通かな。
うん、今まで通り、盾への攻撃は避けて鎧を狙っていこう。
鎧騎士のHPバーがそろそろ3割を切りそうだ。
これならばこのまま倒せそうだ。
ただ、通常個体のゴーレムでさえ使用してきた強化がいまだに無いのが気になる。
HPが4分の1を切ったら使用とかでしょうか?
HPバーが1割を切りそうだ。
だが、このまま倒させてくれるだろうか?
はっきり言ってそれはあり得ないと考えているのだけど。
実は中から第2形態が出てくるとかないよね?
水平に振るわれた剣を後ろに飛んで避け、魔法銃で攻撃を行う。
弾は鎧騎士の頭に飛んでいき……避けられた。
やはり頭には当たってくれないのか。
この鎧騎士、なぜか頭への攻撃は高確率で避けてくるのだ。
最初は弱点かと思ったのだが、少し無理をして密着して当ててみたが、ダメージは分からないレベルだったので弱点ではないだろう。
避けやすいからだろうか?
分からない。
ただ、もうあんな真似は止めようとは思った。
無理をした対価として、剣が脇腹を掠めてしまったのだ。
それだけでこちらのHPバーは2割程減少してしまった。
やはり防御力の低さも何とかしないといけないかな?
さらに突き出された剣を左側に避け、魔法銃を胴体に撃つ。
弾は避けられることなく、鎧騎士へと当たる。
そして、鎧騎士の動きが止まった。
不自然だろう。
だが、今のうちに連射しておこう。
勿体ない。
魔法銃を連射する。
鎧騎士が持っていた盾が、光に覆われて、小さくなっていく。
そして、手の中に消えていった。
魔法銃を連射する。
再度左手が怪しく光り出す。
魔法銃を連射する。
光りは縦に長い長方形へと広がっていく。
そして、ある大きさまで広がった後、剣のような形へと変化した。
魔法銃を連射する。
光りは消え、鎧騎士の左手には胴体と同色の剣が握られていた。
魔法銃での攻撃をやめる。
鎧騎士は剣を構え、こちらへと突撃してくる。
その動きは先程よりも速い。
まるでゴーレムが強化した時のように、圧倒的に早くなった訳では無く、少し速くなった程度だ。
右手の剣が上段へ上げられ、振り下ろされる。
それを左側へと回避する。
いや、これではいけない!
すぐに後方へと飛ぼうとするが、間に合わない。
左手の剣が水平に振るわれる。
その剣は後ろへと飛んだ腹を掠める。
やはり、先程と同じ動きでは回避しきれない。
これは当然考えておくべきことだったのに……。
いや、今は目の前の敵に集中しよう。
次の攻撃へと備えなければ。
右手の剣が突き出される。
右後ろへと飛び、それを避ける。
その際にHPバーを確認したが、5割を切っていた。
どうやら先程の攻撃は少しだけ深く当たってしまったようだ。
それでも、掠っただけで3割とは……。
これは鎧騎士の攻撃力が高いのではなく、こちらの防御力が低いのだろうな。
攻撃をする隙が無い。
だが、攻撃をしなければ終わらない。
HPを回復したい。
だが、ポーチからポーションを出している余裕は無い。
ここは、覚悟を決めようか?
左手の水平に振られた剣を左後ろへと大きく飛んで避ける。
そして、束の間に深呼吸をする。
大丈夫。
右手の剣が突き出される。
右前方へと移動して避け、胴体に魔法銃を撃ち、鎧騎士の後ろへと抜ける。
後ろ手で魔法銃を撃ち、すぐにしゃがむ。
頭上を何かが通り過ぎる。
さらに後ろ手で魔法銃を撃ち、左前方へと飛ぶ。
着地し、右側を向いた後、後ろへと飛ぶ。
目の前を通り抜ける剣。
着地して、魔法銃を……後ろへと飛ぶ。
左手の剣が目の前を通り抜ける。
着地して、体勢を整える。
そして、こちらを振り向いた鎧騎士を視界に収める。
視界の隅で地面へと突き刺さる剣。
目の前で剣を地に下げ、跪く鎧騎士。
HPバーは空。
そう、勝ったのだ。
最後に剣を投げてきたときはさすがに驚いた。
もし、水平に振るわれた剣をしゃがむのでは無く、後ろへ飛んで避けていたら腹に刺さっていた気がする。
そして、避けたタイミングで撃った弾により、鎧騎士は行動を停止して目の前の状態へと移行した。
跪くようになっているのは演出だろうか?
まあ、良い。
とても楽しかったのだ。
些細なことはどうでもいいだろう。
おっと、これで終わりではないのだった。
草原へと寝転がりたい気持ちを抑え、鎧騎士の体に剥ぎ取りナイフを……。
剣があったね。
地面へと突き刺さった剣へと移動し、剥ぎ取りナイフを突き刺す。
相変わらず、金属にも刺さるこのナイフはどうなっているのだろうか?
剣は光の粒子となり……鎧騎士へと飛んでいき、吸い込まれていった。
ここにきてまさかの新しい演出である。
これは、ドロップアイテムが増えたと考えていいのだろうか?
期待しておこうかな。
そして、本命の鎧騎士へと剥ぎ取りナイフを突き刺す。
光の粒子は空気中へと消えていき、後に何かが残っている。
金属3個と……半透明の紫色の水晶玉が1個。
試練のゴーレムよりも多いドロップに、期待は満足へと変化した!
「ルビー!こっちへ来て!」
水晶は無事にルビーに噛み砕かれました。
人形のドロップアイテムは……今回はいいや。
流石に森を回って人形を剥ぎ取るほどの体力は無い。
いや、この場合は気力だろうか?
まあ、いい。
それよりも、目の前の水晶破片を剥ぎ取りたい。
水晶の破片へと剥ぎ取りナイフを突き刺す。
後に残ったのは、待望の紫色の石でした。
これは、連戦の予感!
なんとか倒せたな。
でも、まだまだ危なかった。
剣が2本になってからなんて、ギリギリもいいところだった。
なぜか異様に集中できたから何とかなった感じだ。
あの集中は、試練でゴーレムと戦った時以上な気がするな。
うんうん、最近集中力が上がっているようで、嬉しい。
それにしても新たなボスは楽しませてくれるな。
負けても、勝ってもね。
ご覧頂きありがとうございます。
掲示板回を書くのは想像以上に難しいですね。