―――49―――
目の前には若干黒味が強い灰色をしていて、金属のような光沢放つゴーレムがいる。
早速識別しておく。
<魔物>メタルゴーレム Lv6
レベル6か……まあ、大丈夫だろう。
「あれ?メルさんは?」
え?
急いで周囲を見渡したみるが、姉さんがいない。
どういうことだろう?
そうか、パーティ編成を見てみればいいのか。
そう思い、パーティを開き見てみるが、姉さんの名前は無い。
その代わりにフウさんがいる。
つまり、謀られたのだろう。
いや、待て……姉さんは一言も自分が入るなんて言っていなかったな。
そして、魔法職が分かれないといけないと……。
うん、嘘は言っていなかったな。
つまり、間違えたこちらが悪いのか。
……後で問いただそうかな。
「いないですね」
「ど、どうしましょう!?」
なぜかフウさんが慌てているようだ。
……あれ、なんで慌てているのだろうか?
アオさんとミドリさんは全然慌てる様子は無いのだが……。
もしかして、フウさんだけ姉さんに謀られたのだろうか?
いや、姉さんのことだ。
謀るのなら全員一緒だろう。
つまり、元々冷静なのだろうな。
さて、どうしようか……。
あれ?
別にやることは変わらない気がする。
うん、変わらないかな。
「それでは、僕がゴーレムの相手をしますので皆さんは森でにんぎょ……ウッドパペットの相手をお願いします」
危なかった。
人形の正式名称はウッドパペットだ。
うん、普段と違う相手に伝えるときに間違えてはいけない。
「わ、分かりました。補助をしておきますね」
おお、少し落ち着いてくれた。
戦闘中に焦っていると危ないので、良かった良かった。
「支援魔法を持っているのでお手伝いしますね」
フウさんと2人で全員に防御と攻撃の支援魔法を掛ける。
掛け終わる頃にはフウさんも落ち着いたようで、他の2人と話し合っていた。
何か、若干物騒なことが聞こえる気がするけど、聞かなかったことにしておこう。
それにしても、後の2人も聞かされていなかったのか。
姉さん……何を企んでいるのだか。
それにしても、今は戦闘前なんだけどね……。
まあ、リラックス目的だろう。
問題無い。
3人が話し終えたところで、全員行動を開始した。
ちょっと試してみたかったので、魔法銃をチャージしておこう。
それにしても、このゴーレムが攻撃するまで動かない魔物で良かった……。
そうでなかったら、危なかったのではないだろうか?
他の全員が森に移動したのを確認したところで、溜めていたチャージを解放し、ゴーレムへと放つ。
さて、ダメージは……。
無いですよね、分かってました。
攻撃を受けたゴーレムは、こちらへと移動し始める。
おや?
いや、まだ分からないか。
近づいてきたゴーレムは、右腕で薙ぎ払ってきた。
やはり、速いかな?
うん、やはり先程のゴーレムより速い。
これは……楽しみだ!
まあ、最初は物足りないのは仕方が無い。
少なくとも、1回目の強化が来ないとね。
でも、魔法銃で安全に攻撃できるのも強化が来るまでだから、ありがたい気持ちもあるのだけどね。
そういえば、フウさん達の方はどうだろう?
最初に、フウさんが落ち着ていなかったから少し気になる。
……まあ、大丈夫だろう。
流石に物足りないとは言っても、メニューを開くほどの余裕は無いからね。
攻撃をやめれば開ける気もするけど、あくまで気がする程度だ。
それに、無茶をして僕が死に戻りすれば他の3人はゴーレムの攻撃を避けられないので、危険だろう。
おっと、もう強化した!
少し早い気がする?
慣れたからそう感じるだけだろうか?
でも、期待してるよ。
そろそろだろうか?
やはり1回目の強化でも、少し厳しくなる。
それでも、あの楽しさを求めたい。
それに、多分このゴーレムは2回目も強化するはずだ。
まさか、最初から違いに気付けるようになっていたとは気が付かなかった。
次の強化が来るまでは確実とは言えないけど、可能性は高いと思う。
なので、より集中して備えておこう。
きた!
強化2回目だ!
レベルが上がっているから少し不安もあるけど、それを超える期待もある。
流石に魔法銃による攻撃はでき無さそうだ。
あの時と同じ。
行動を先読みして回避しなければ必殺の一撃を受けてしまう状況。
さあ、楽しもう!
ゴーレムの左腕が上を通り過ぎたのを風で感じ、立ち上がるそぶりを見せてしゃがみ直す。
さらに大質量が上を通過したのを風で感じ、今度は前へと飛び、ゴーレムの足元へと移動する。
腕が上を通過していくのを視界の端に捉えつつ、左脚側へと抜けていく。
少しの揺れを後ろに感じながら、ゴーレムが振り返る前に後ろへ向かって魔法銃を放ち、さらに前方へ飛ぶ。
後ろを何かが通り過ぎるのを感じながら、転がりつつ着地して、すぐに伏せる。
さらに何かが上を通り過ぎるのを感じてから、横へと大きく2度飛ぶ。
後ろから轟音と大きな揺れを感じながら、転がり着地する。
すぐに後ろを向きつつ、魔法銃を放ちながら、こちらに近寄ってくるゴーレムを視界に収める。
やはり楽しい!
今回は欲張って魔法銃で攻撃もしている。
無理そうだと思っていたが、やってみたら案外できるものだ。
最初は少し速度に違和感があったが、今はもう慣れている。
やはり、レベルが上がると僅かだが速度が増すようだ。
だが、上がっていて良かったと思う。
前回よりも楽しいのだ!
さあ、まだまだ楽しもうよ!
目の前に倒れるゴーレムを見ながら、大事なことに気が付く。
そう、核を破壊できないのだ。
ルビーを召喚しようか?
いや、検証中にそれはまずい。
そうなると、残る手は……。
「ミドリさん!来てください!」
そう、ハンマー持ちのミドリさんを呼ぶしかないだろう。
一瞬ミドリさんの方へ行こうかとも思ったけど、森の中で破壊して貰う方が危ない気がしたのだ。
最初に打ち合わせしておけばよかったよ。
まあ、次からは気を付けよう。
「お呼びですか?」
少し経過して、ミドリさんが来てくれた。
良く聞こえたなと思う。
そして、よく1回で場所が特定できたなと思う。
「お忙しいところすいません。実はゴーレムの核を破壊していただきたくてお呼びしました」
そう言い、ゴーレムの核を手渡す。
おっと、識別をしておこう。
<魔物>ゴーレム2型の核 Lv6
うん、やはり2型で間違いなかったようだ。
「私では攻撃力が足りないので、お願いします」
ミドリさんは手に持った核を地面へと置き……ハンマーを振り上げて……。
振り下ろす!
おお、ヒビが入った!
流石ハンマー!
さあ、もう1度お願いします!
さらにハンマーを振り下ろすと、核は2つに割れてしまった。
ただ、あれでも粉々にならないこの核はかなり防御力が高いと思う。
それをさらに砕いていたルビーのあの攻撃は恐ろしいものだ。
「ありがとうございます。それでは、剥ぎ取りもお願いします」
「分かりました」
ミドリさんが剥ぎ取りナイフを突き立てると、あとには……何も残らなかった。
残念……。
「お疲れ様でした。それでは帰還まで待ちましょう」
「はい、お疲れ様でした」
少し休憩しつつ待っていると、前回と同じく、視界が白に染まり、すぐに神殿の景色へと変化した。